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インサイドアウト

役者として、心理士として、そして人間として、大事だなと切に思っていることがある。

それは「素直であること」。

インプロ(即興)をやっていると、いかにその瞬間瞬間の感覚や感情を取りこぼして伝えられていないかが実感としてわかる。

このことに気付かせてもらってから、日常でも多くのそれらを目の前の人や大切にしている人達に伝えずきたことを知った。同時にとても勿体ないことをしてきたと感じた。

気持ちを伝え、気持ちが返ってくることはとても嬉しいことだと知ったからだ。反対に私は誰かの気持ちに気持ちで返すことができずに寂しい想いをさせていたかもしれないと感じ、すまない気持ちも浮かんできた。


心理士としても大切だということについて。心理学派の大きな一つである来談者中心療法を生み出したカール・ロジャースは、カウンセリング(面談)中のカウンセラーに大事な3つの要素を提唱している。それは「共感的理解」「無条件の肯定的関心」そして「自己一致(純粋性)」である。

自己一致というのは、その場にいる自分の気持ちと言動が乖離していないことをいう。つまり、気持ちに素直な状態で相対してそこにいてやりとりをすることだ。違和感やおかしいと感じたことを無視したり隠したりするのではなく、配慮と思いやりの籠った言葉でつたえていくことでもあるのだ。

またこんな話もある。相手が欠伸をしたときに自分も欠伸をしてしまう。すると相手は失礼ですねと憤りを露わにする。そこで貴方がしたので私もしたのですと返すのだ。相手はそこで初めて自分の行いが人に対して失礼であったかを知ったし、気づかないところでたくさんの失礼なことをしてきていたかもしれないと話始める、というものだ。他者は鏡だし自分も他者の鏡だ。

持論だが、素直であればあるほどに自分は相手を鮮明に映す鏡となる。

だから心理士としても素直であることは大事なのだ。

「欲なく、記憶なく、理解なく」というウィルフレッド・ビオンという精神科医の言葉がある。

これはビオンなりによりクリアな鏡となるための術だったのだろうと私は思う。

そもそもなぜそれを必要としたのか。


それについて「明鏡止水」という言葉を用いてもう少し論を重ねよう。

この言葉は、一切の波がない水面は磨き上げた鏡のごとくそのまま世を映すというものである。辞書的には「邪念のない、落ち着いた静かな心境」ということを指している。

その状態だと自らの内界(こころ)は相手の内界(こころ)を映すと故河合隼雄は書物の中で語っていた(と思う)。

ビオンはそれまでのやり取りの記憶や理解したと思っていること、どうにかしてあげたいという欲が、今目の前の人を本当の意味で理解するために必要な自らのこころを曇り濁らせ、こころの動きを鈍くさせると思い至ったのだろう。

つまり、明鏡止水のこころの状態を作り出すために必要なこととしてその3つを提唱したのだろう。

明鏡止水のこころの状態は相手を映すと論じてきているが、具体的にどういうことかを最後に少し説明する。 

明鏡止水。この状態で人と相対することができるようになり、かつやりとりを積み重ねていくと、「なんとなく」「根拠はないんだけどそうじゃないか」という

【直観(直感)】の精度が高くなるのだ。

これは私自身の経験からでもあり、かつ映像演技のレッスンの講師も似たことを言っていたのであながち間違っていないだろう。


ここまでの散文をまとめると、欲なく、記憶なく、理解なく他者と相対すると内界は明鏡止水の如く相手を映し出し、映し出したものは自らの直観(直感)と呼ばれるところを通して現れてくる

といったところか。


私はこの状態を日々目指している。

そして直観(直感)を言葉にすることに努めている。
これはインサイドアウトと呼ばれ、インプロのワークにもある。レッスン講師もよくインサイドアウトという言葉を用いる。素直にそこにいてやり取りしてということだと思う(案外容易には理解できないことな気がするが上級レッスン受講生はみな説明をうけているのだろうか)。


つらつらと綴ったが、素直である、自己一致の状態で在る、というのは実は奥深く難しい。インプロで出会い、ご自宅にもお邪魔させていただいたRさんも「素直って奥が深いよね」と言っていた。思慮深いその方でさえそのように感じていることがわかり、私の思考してきたこと、素直であることに難しさを感じていることは間違っていないと思えた。


さて、そろそろ目的の駅に着く。ここいらでしめよう。

役者としても心理士としても、そのとき素直であろうとしてもそれは素直な振りにしかならない。だから日頃から素直であろうとし続けることが大切だ。「いまここ」に在り続け、インサイドアウトし続けることが大切だ。

シンプルに、人生は楽しくなってくる。人との関わりが楽しくなってくる。嫌なことや無理なことも、取捨選択ができるようになってくる。

私は私をますます好きになる。
同じような人が見えてもくる。


ご精読ありがとうございます。



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