移籍情報噂アカウントの朝は早い
移籍情報噂アカウントの朝は早いーーー。
「まぁ好きで始めたことですから」
まずは、深夜のうちに届いたDMのチェックから始まる。
「やっぱり一番うれしいのは関係者からのリークですね。このアカウントやっててよかったなと」
ただ、最近は有力なリークがないと愚痴をこぼした。
「毎日毎日、真偽不明なものまで大量に届く。これを仕分けるのは機械にはできない」
最近では、DMだけでなく質問箱などのツールも活用するようになった。
「本当は一本化したいんですけどね。アカウント名すら出したくないという人もいるので」
そう話す彼の目には一抹の寂しさが浮かんでいた。
「まだまだ、信用されてないってことですね」
朝8時半になると、今度は官報のチェックだ。
外国籍選手の帰化は重要な情報である。
しかし毎日官報をチェックしても、実際にバスケ選手の帰化に関する情報が掲載されるのは年に数回程度。
「労力を考えると割に合いませんよ」
「でも、僕の投稿を待っている人がいますから」
昼の12時を過ぎると忙しさはさらに増す。
各チームが選手の契約情報を発表し始めるのだ。
「噂は生物ですから。いくら注目度の高い噂でも、公式発表に先を越されては無価値です」
話を聞いている間も、スマホを操作する手は止まらない。
「ファンが集まるこの時間帯に、契約情報とは関係ない広報をするクラブもありますからね。漏れがないようにチェックするのも大変」
いよいよ15時、Bリーグの自由交渉選手リストが更新される時間だ。
手持ちの噂と各クラブから発表された情報とを比較して結果を照合していく。
すでに流し終えた噂であっても結果の照合は欠かせない。情報提供者の信憑性の評価に関わるからだ。
「真偽不明な噂はあえて流さないこともあります。そうすることで、いざ公式発表があったときに情報提供者の信憑性を測れますから」
知り得た情報をただ流すだけでは噂アカウントは務まらない。
想像以上に大変な仕事だが、彼は謙遜して言う。
「やろうと思えば誰でもできますよ。やるかやらないか、それだけ」
しかし、こうも続ける。
「ただ、最初にやり始めたというのは大きいですね。情報は発信されるところに集まるので」
せっかくなので後発の噂アカウントについても聞いてみた。
「彼等も頑張っていると思いますよ」
「いろんなアカウントからの噂を比べて真偽を推測することもできますから、界隈にとってもいいことだと思います」
「ただ…僕に届くものよりも怪しい噂が多くて、大変なんじゃないかな(笑」
彼は冗談めかして言ったが、そこには界隈のパイオニアとしてのプライドも滲んでいた。
自由交渉選手リストの更新が一段落しても、彼の一日は終わらない。
17時や19時、中にはもっと半端な時間に契約情報を発表するクラブもある。
どのクラブがいつ公式発表するのかを推測するのも重要なミッションだ。
「せめてクラブの中だけでも、発表する時間は統一してくれって思いますね」
「かといって、毎朝5時53分、なんてのも困りますけど(笑」
各クラブからの公式発表が落ち着くと、ようやく彼も一息つくことができる。
しかし、ここからが彼の本来の仕事でもある。
「手持ちの噂と今日の公式発表とを見比べて、明日流す噂を決めます」
選手の契約枠が少ないBリーグでは、玉突き移籍が起こりやすい。
公式発表を元に手持ちの噂の真偽を予想し、クラブの公式発表前に噂を流せるように準備するのだ。
「やっぱりこの時間が一番楽しいですよ。噂を見たみなさんの喜ぶ顔や驚く顔を想像しながら、準備しています」
額に汗を浮かべながら、それでも彼の顔は充実感に溢れているように見えた。
そうしてこの日の最後の仕事を終えたところで、彼にとって移籍情報の噂とは何かを尋ねてみた。
「絆…ですかね」
「移籍は選手とクラブの絆があってのもの。僕と情報提供者の関係もそうです」
「あくまでも噂なので、外れることもあります。それでも、自分の推しと噂になったクラブや選手のことに少しでも興味を持って、それが一つの縁になって繋がっていってくれたらなって思います」
そんな理想を語る彼の横顔は眩しかった。
「まあ、本当にクラブと情報提供者の間に絆があったら、僕のところにリークなんて来ないんですけどね(笑」
本音を語った気恥ずかしさをジョークでごまかされ、この日の取材は終わった。
明日も明後日も、オフシーズンの間、彼は今日と同じように忙しい毎日を送るのだろう。
そう、移籍情報噂アカウントの朝は早いーーー。
ー[完]ー
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