ホットサマー・マーサとジャンケン小僧
ドラマ版岸辺露伴感想
こだわりの強い拗らせファンが原作者と同じ気持ちを抱えていてぶつかり合った末に密かに報われるお話で最高だった。
誇りとプライドを持って漫画に全身全霊を注いでいる露伴にとって今回のことで丸4つのホットサマー・マーサを掲載してしまったのは屈辱極まりなかっただろうけど、プロの漫画家として一度世に出したものは撤回したくないという思いも充分わかる。
丸が3つの方が良かったという気持ちは露伴もジャンケン小僧も同じだけど、一度公開してしまったものを背負う覚悟みたいなものが描き手と読み手で食い違っているとこなんだよな。
私も好きな作品に対して自分のこだわりを勝手に凝り固めて辛い思いをするタイプなので、ジャンケン小僧の気持ちはとても共感できる(押し掛けるのはダメだが)。もし露伴が丸4つのデザインの方がいいと思っていたならただの口うるさく煩わしいストーカーでしかないけど、今回は厄介な限界オタクのこだわりが原作者の根底にある一つの理念と共鳴しているところがとてもいいなあと思った。
本当は誰よりも強く露伴自身が丸3つのホットサマーマーサがいいと思ってるんだよな。でもプロの漫画家としての矜持があるゆえに悔しい気持ちを乗り越えようとしているところにジャンケン小僧が現れて、諦めて飲み込んでしまった露伴の代わりに駄々をこねている。個人的にはそこの部分がとてもグッときた。
ジャンケン小僧に散々不快な思いをさせられたのにそれでも必死に自分に食らいつく姿勢を気に入ったと笑って単行本の裏にこっそりあったかもしれないホットサマー・マーサの姿を描いてあげた露伴は、実は内心ちょっと嬉しかったりしたんじゃないかな。マーサのデザインを公に撤回することはできなくても、尋常ならざる情熱とポリシーを持って自分の漫画を全力で受け止めている読者とああして熱い死闘を繰り広げた末に丸3つのホットサマー・マーサに対する思いも成仏というか、一区切りつけられたんじゃないでしょうか。
過程はどうあれプロの漫画家がしがらみによって諦めた表現を熱烈なファンにだけ見せてあげるっていうじんわり良いシーンなんだよなあ。切なさと温かさを感じた。
傍から見たら滑稽で迷惑なお話だけど、何かに対して並々ならぬ情熱を傾けている人間同士にしかわからない二人の世界的な要素もある気がする。
ちょっと違うけどセッションとかリーガルハイ二期7話のアニメーターの回見た後みたいな気持ちになれた。
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