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請負・売買契約の契約不適合責任を理解する(3)請負契約

請負契約は、仕事の完成を約束し、注文者が仕事の結果に対して請負代金を支払うことを約束する契約のことです。

既存商品の購入は売買契約になりますが、請負契約は仕事を完成させることです。
代表的な例では注文住宅、リフォームになりますが、マンション管理では修繕工事、保守点検、法定点検、設備の交換工事、構造物の制作、清掃業務などがあげられます。
既存の商品の購入とは違い品質、仕上がり状態、効果などが仕事の結果になるため、請負契約はトラブルが多いわけです。

実際、当事務所にも請負契約のトラブルの相談はあります。
そのような事態にならないためにしっかりとマスターしてください。

請求できる権利は売買契約と同じ

売買契約と請負契約の不適合時に請負人に請求できる状況と権利は同じです。

3つの不適合

請負契約の契約不適合は次の3つについて認められます。
1、数量の契約不適合
2、品質に関する契約不適合
3、種類に関する契約不適合

5つの請求権

不適合が発覚した時に管理組合が請求できる権利は次の通りです。

1)不足本数の補充
2)他の商品による補充
3)請求額の減額請求
4)発注(契約)の解除
5)損害賠償請求

請負契約を例に説明します。
例えば管理組合が配布用に規約の製本と印刷を100部、印刷会社に依頼します。納期は2週間後です。(請負契約です。)
 
納品された規約の納品数が98部であったとすれば2部不足しています。
当然、不足分の追加納品を請求します。

また、製品された規約の一部に落丁、乱丁があれば交換を請求します。
このように不足や品質の不備による交換が追完請求になります。

請負契約では2)で示した品質の契約不適合による他の商品による補充は考えずらいでしょう。

不足した2部の納品ができないと言われれば、3)の減額請求(値引きもOK)が出来ます。
ただし、追完請求を行った後でなければ減額請求はできません。

製本の出来栄えが著しく悪ければ、4)発注の解除も可能です。
ただし、追完請求(印刷、製本のやり直しなど)を行った後に解除ができるようになります。

1)~4)を請求とは別に、2週間の納期に間に合わず、記念式典に影響が出たなどの被害があった時には損害賠償を請求することもできます。

やっかいな品質問題

規約の印刷・製本は数や見栄えは見た目ではっきり確認できますが、修繕や清掃などが仕事の出来栄えの評価が出来にくい仕事を目的にした契約があります。
このような請負契約では品質に関する不適合の判断がトラブルになります。

共用廊下の腰壁のヒビの修繕工事を依頼、ヒビは改修されたが仕上塗装の色合いが合わず、見栄えが良くないような事態が発生したとします。

トラブルの原因は、契約前の塗装の色確認をしたかどうかです。
請負側の言い分は「塗装番号で伝えてあります。」発注者は「こんなに色が違うとは思っていなかった。」では双方の言い分だけでは解決が難しいでしょう。
結局、意思疎通に欠けたことは両者に責任があるとして、理事会が色確認を行い、業者が格安価格で塗り直すことで決着しました。

清掃でも腰壁が汚れているのになぜ清掃しない!と理事会が業者にクレームする事態はよく聞きます。
契約書の清掃範囲に腰壁が含まれていないことがわかり、結局、追加清掃を実費で理事会が発注しました。

このような事態は、契約段階で発注者と請負側の両者が品質(契約)について合意がないままに進められたことが原因です。

管理会社に発注する

このような事態を避けるため、一部、全部委託をする管理組合では管理会社に丸投げする方法が広く利用されます。

管理会社を通して契約すると理事会にとってはクレームの言いやすさがあります。
管理会社からすれば委任契約上のお客さんでなかなか言い返せない弱みもあります。
そんな場面も想定して管理会社を通じた請負工事は値段が高くなると言うのもうなずける話です。

自主管理は大変

管理会社と契約しない自主管理組合は、工事の請負先から契約内容までをすべて理事会が行う必要があります。
不慣れな工事の契約を行うため、業務終了後のトラブルも多く、揉めた後にマンション管理士や弁護士に相談するケース多くあります。

自主管理に限りませんが理事会は、契約内容よりも工事価格を優先になる傾向があります。(覚えがある理事も多いのではありませんか)

不慣れな契約、知識のない内容を専門業者と契約すること自体に無理があり、結局「専門家だし大丈夫だろう」と安易に契約を締結した結果、施工業者に有利な契約であることが後日、発覚、仕方なく泣き寝入りした話は後を絶ちません。

品質に関わる契約は専門家を利用する

もともと建築士が理事長になるような特別なケースを除けば、ほとんどの理事長は建築や修繕の素人です。

請負工事を依頼するときは専門家の知恵を利用することを考えるべきでしょう。
皆さんが大規模修繕工事を行うときは、建築士に相談役をお願いしますよね。
これと同じようにどんな些細な工事であっても理事会の適切なアドバイスを提供してくれる存在を利用することをお勧めします。

具体的には、マンションの修繕工事は長期修繕計画に掲載されている19項目です。
これ以外に細かな修繕もありますが、ほとんどはこの項目に該当します。
修繕工事に携わった経験のあるマンション管理士や建築士(設計士)であれば19項目の工事には精通しています。
また、各工事に毎に不利にならない請負契約のポイントを熟知しています。

請負契約が発生した時に自治体の無料相談などを利用することもひとつの手です。
また、日ごろからつながりを持つマンション管理士に安価に知恵を借りることも効果的な方法です。
小銭をケチって大銭を失うほどばかならしいことはありません。

まとめ

請負工事に契約不適合な工事があった場合の請求権については理解できたでしょうか。
数量、種類の不適合は理解しやすい請求権だったと思います。

これ以外に請負工事には品質を求める工事があり、その契約には発注者と受注者の意思疎通と目的物への共通の認識が必要になります。
しかし、専門的な工事では理事会がこれを行うには専門知識の欠落がありトラブルの発生を招く危険があります。

このような事態を解決する方法のひとつに管理会社に丸投げする方法がありますが、工事費が高くなるデメリットがあります。

自主管理では、理事会が業者に言いくるめられるような契約もあり、トラブルになりやすいことを自覚することが重要です。
多少の費用の支出したとしても請負工事の契約には理事会側で意見を言ってももらえる専門家を利用することで不利益のない工事を行うことができます。そのことは覚えておきましょう。

次回は不適合はいつまで有効かについて説明します。

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