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長寿命化促進税制は誰のための制度か?

2022年4月から始まった管理計画認定制度ですが、当初から認定取得に要する労力と管理組合へのメリットが見合わないと言われていました。
そこで国土交通省は、住宅支援機構に働きかけ、認定を取得したマンションに金利を優遇する「すまい・る債」、共用部修繕融資の利息の優遇のインセンティブ制度が行われることになりました。
結果、すまい・る債は、2023年度の高い金利設定も影響して、過去最高の募集数となり、特に認定すまい・る債は、販売予定額の68億円を超えたと報告があります。

住宅金融支援機構HPより

特に認定すまい・る債の1組合平均募集金額は「8,280万円」と一般のすまい・る債の3倍になったことがわかります。

このように管理計画認定制度は、管理に積極的な管理組合では上手に利用されていることがわかります。

次に認定取得のインセンティブとして「大規模修繕工事(屋上防水、外壁塗装、共用部防水)を行った組合に対しては、建物固定資産税、1年限定の減額措置を総務省(固定資産税は総務省の管轄)に働きかけ、2023年年度末の税制大綱に「長寿命化促進税制」を定めました。

2年間の時限立法ですが、マンションの区分所有者にとっては魅力の大きいインセンティブとして受入れられました。

事実、この制度が始まった2023年4月から、認定制度の相談窓口には「長寿命化促進税制」に関する多くの問合せがあったとマンション管理新聞が発表しています。

マンションの大規模修繕工事は、一般的に12年程度の周期で行われるとされています。
また、大規模修繕工事を始める際には検討会等を立上、実際の工事までには1~2年を要するのが一般的でしょう。中にはそれ以上の期間を掛けて実施を決定する組合もあります。

これに対して今回の減額措置は2年間の時限立法です。
2023年4月~2024年中に大規模修繕工事の検討、実施を予定している組合には朗報かもしれませんが、これから数年後に大規模修繕工事を予定している組合にとっては時限立法の税制の継続が気になるところでしょう。
一方、2023年3月に工事が終了した組合にとっては何ともやるせない気持ちになるのも理解できます。
このように「長寿命化促進税制」は、大規模修繕工事のタイミングで適用の可否が決まる「運まかせ」の税制と言えます。

さらに「長寿命化促進税制」の制定目的は、修繕積立金が不足する組合が国土交通省が示す基準値(マンションの修繕積立金に関するガイドラインに記載)まで値上げを行った上で長寿命化工事(屋上防水、外壁塗装、共用部分防水を一括で行う工事)を行った組合が対象になります。
修繕積立金が不足に該当する組合とは、令和3年8月末時点に総会承認を受けた長期修繕計画書の収入計画から算出される修繕積立金平均額(円/㎡月)が基準値を下回っていることが要件となります。

長寿命化促進税制の適用を受けられる組合の修繕積立金平均額のイメージ

言い換えると管理不全の組合を対象にしている税制と言えます。
結果、真面目に組合運営を行い、計画的に修繕工事費を積立てていた組合は対象外とされています。

この適用要件は、過去(令和3年8月末)時点ですでに要件のひとつは決められるため、今さらどうしようもなく、ただ単にその結果を受入れる以外ありません。

当事務所はこれまで積極的に管理計画認定制度の取得を目指す組合に対して説明会やセミナーを開催してきましたが、組合員の皆様から憤りや不満の声をたくさん聴いてきました。

「長寿命化促進税制」は、真面目な組合運営をしているマンションにとっては、個人の利益に直結する魅力があるが故に適用を受けたいと組合、理事会、組合員の後押しにはつながったものの、結果として「長寿命化促進税制」への不満と管理計画認定制度の取得の意欲をへし折ることになっています。

今回のテーマである「長寿命化促進税制は誰のための制度か?」ですが、この制度の制定目的が現在まで修繕積立金が不足している組合に対するご褒美であり、健全なマンション管理を行っている皆さんは対象外であることを知って頂きたく執筆しました。

最後に管理計画認定制度は、マンション管理組合の運営状況を国の評価基準に則った結果を対外的に示すことができる唯一の制度です。
近年新築マンションの価格高騰により中古マンションの売買が積極的に行われています。
昔から「マンションは管理を買え」と言われます。
築年数が経つにつれ居住者の年齢も高くなり、空家等も増えることは統計上も指摘されています。
組合を維持するためには、住民の循環(若い人の入居)が必要になります。
そのために皆さんがお持ちのマンションの資産価値に大きく影響する組合運営を不動産市場に公開することは、長い目で見れば「長寿命化促進税制」に引けを取らない魅力のある制度であることを付け加えます。

管理計画認定制度のご相談受付中


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