見出し画像

UXデザインとは何をやっているのか

サイバーエージェントAI事業本部/小売DX Div./DXデザイン室でUXデザイナーをしている佐竹です。

私の仕事は、様々なクライアント様のDXにおけるユーザーエクスペリエンス(UX)、つまり顧客体験をデザインすることです。DXのゴールは単なる業務効率化ではなく、デジタル化によって事業を変化・成長させることです。そのためには、優れた顧客体験を提供することが重要といえます。

UXという言葉は耳馴染みしやすく使いやすい言葉ではあるものの、「UX」を「デザイン」することがなぜDXにおいて重要かということは、イメージし難いのではないでしょうか。

今回は、DXにおけるUXデザインがなぜ重要なのか、少々抽象的ですが、なるべく簡単に説明したいと思います。


良いUXと悪いUX

「UXデザイン」を一言で説明すると、顧客(利用者)とプロダクトの間のギャップを無くし、顧客が提供価値を正しく受け取れるようにプロダクトをデザインすることです。

顧客と事業者、プロダクトの関係を簡単に図にするとこのようになります。

画像1
顧客と事業者、プロダクトの関係

プロダクトが顧客と事業者を繋いでいます。事業者が提供したい価値は、プロダクトを通じて顧客に提供されます。

画像2
提供価値が顧客に伝わっている時

「UXが良い」とは、顧客のニーズとプロダクトの間にギャップがなく、事業者が提供したい価値が顧客に最大限伝わっている状態です。顧客は、受け取った価値の対価をシステム利用料や広告閲覧の形で事業者に支払い、事業者は収益を得ます。UXが良いと、顧客と事業者の間の価値交換がスムーズにいくため、事業の成功につながります。

画像3
顧客と事業の価値交換


一方、「UXが悪い」の状態は以下のような状態です。

画像4
顧客とプロダクトにギャップがある

顧客のニーズとプロダクトの間にズレがあり、事業者が提供したい価値が顧客にうまく伝わっていません。

画像5
提供したい価値が顧客に伝わらない

顧客のニーズがプロダクトとはズレたところにあるので、顧客はプロダクトを使う理由を失い、プロダクトから離れていってしまいます。

画像6
顧客のニーズとプロダクトのミスマッチ

顧客のニーズとプロダクトのギャップは、作り手主体でプロダクトを作ってしまっている場合などに起こります。例えば、事業者が社内で開発された新技術を使って製品を開発する場面を考えてみましょう。新技術が社外に漏れることを恐れ、顧客リサーチやプロトタイプのユーザーテストを行わずに製品リリースしたとします。いくら技術的に新しくても、プロダクトが顧客のニーズにマッチしていなければ、顧客に受け入れられることはありません。

UXデザイナーとは、このような悲劇が生まれないように、事業者と顧客を正しく繋ぐプロダクトを生み出す手助けをしている人達、と思っていただけると良いと思います。

UXデザインのやっていること

顧客とプロダクトの間にギャップを作らないために、UXデザイナーが何をやっているかを簡単に説明したいと思います。

UXデザインには「ダブルダイアモンド」と呼ばれる図があり、これを見るとUXデザイナーのやっている大まかな仕事の流れが掴めます。

画像7
Double Diamond (design process model)From Wikipedia, the free encyclopedia([https://en.wikipedia.org/wiki/Double_Diamond_(design_process_model)]

2つのダイアモンドは「探索(リサーチ)」と「設計(デザイン)」を表し、UXデザインのプロセスがこの2つの要素で構成されていることを表しています。またダイアモンドの形は拡散と収束を表していて、それぞれのフェーズでくり返しているのが分かります。

画像8
拡散と収束の繰り返し

UXデザイナーは、まず探索のフェーズで顧客や事業の調査・分析を行います。リサーチは、UXデザイナーの仕事においてかなり大きな部分を占めています。実際、UXデザイナーとしての私の作業時間の半分以上が、リサーチに割かれているように思います。正しく顧客を理解できなければ、正しくものを作ることはできませんから、さまざまな手法と時間をかけて顧客を理解するようにしています。

画像9
誰の?どんな?

顧客のリサーチで大事なことは、「誰」の「どんなニーズ」に取り組むかを見極めることです。UXは、名前の通りユーザーを中心に考えることが原則であり、スタート地点としての顧客像を決めることがUXデザインの第一歩です。

顧客像が決まったら、次にその人のどんなニーズをターゲットにするかを調査します。右の図でいう矢印の部分です。

画像10
最初は曖昧、徐々にはっきり

この矢印の先が、事業やプロダクトが取り組むべきターゲットになります。矢印が最初からはっきり見えるようなことはほとんどなく、リサーチやデザイン作業を繰り返すことで、このターゲットが徐々にはっきりしてきます。

顧客のニーズを調査すると同時に、事業者側の方向性についても検討が必要です。

画像11
事業の方向性

事業者側の矢印はある程度幅があります。事業者が取れる動きの中で顧客のニーズにあったものを見つけ、プロダクトを投入します。顧客のニーズを動かすことはできませんから、事業者が顧客のニーズに合わせて動くことで、顧客とプロダクトのギャップを埋めていきます。

画像12
事業の方向性を合わせる

ごく稀に、プロダクトをそのままにして、事業者側が立ち位置を変えて顧客のニーズに合わせにいく場合もあります。事業がピボットする場合などがこうした動きと解釈できます。

画像13
方向性を変えずに、事業のポジションを変える

変化する顧客

世の中の変化とともに顧客も変化し、UXも変化します。

画像14
変化する顧客のニーズ

スマートフォンの普及によってガラケーが前提だった様々なプロダクトが衰退したことが、典型的な例です。当初は顧客ニーズを捉えて成功したプロダクトであっても、顧客のニーズ変化を見落として変化を怠れば、プロダクトと顧客の間にギャップが生まれて事業は衰退します。

変化し続ける顧客ニーズを継続的に把握し、素早くプロダクトを最適化させることが、継続して成果を出すために必要です。作って終わりではなく、作った後も顧客の動きに目を配り、顧客の変化に応じてプロダクトとのギャップを埋めるために、継続的なリサーチが求められます。

逆に考えると、デジタルのプロダクトは顧客の変化に素早く反応できるからこそ、爆発的に普及したのかもしれません。多くのUXデザイナーがデジタルプロダクトの開発現場に置かれているのも、素早い対応が求められるために必要とされる場が広いためだと思います。

顧客目線のものづくり

ここまでの話で、UXデザイナーの「顧客を理解して正しいものを作る営み」自体はUXデザイナーでなくてもやっている、と思われたかもしれません。

画像15
デザインとビジネス、エンジニアリングの領域

顧客目線のものづくりをする上で、UXデザインの扱う範囲は、必然的にビジネスやエンジニアリングの領域へ染み出してきます。同様にビジネスやエンジニアリングも、顧客目線を意識するとデザインの領域へ足を踏み入れることになります。こうした流れの中で生まれたのが、リーン・スタートアップやデザイン思考、アジャイル開発といった考え方です。これらの方法論は、「顧客を理解しながらものづくりを前に進める」という共通の原則をベースにしています。

UXデザインとは、こういった顧客目線のものづくりをデザイン側からアプローチした時の呼び方だと考えても良いかもしれません。実際、UXデザインの手法がアジャイル開発やリーン・スタートアップの中で登場することも、その逆もよくあります。

まとめ

UXデザイナーは、顧客と事業の架け橋であるプロダクトをデザインする人です。正しいプロダクトを作るために様々なリサーチを駆使して顧客を理解し、事業者と対話してプロダクトの方向性を決め、プロダクトの形を具体化していく役割を担っています。顧客とプロダクトの悲劇的なミスマッチを避けて事業を成功させるために、リサーチとデザインを繰り返すことがUXデザインであるといえます。

DXの推進に伴って、様々な業態がデジタルプロダクトへ参入していくことになりますが、UXを疎かにしたプロダクトが生き残る可能性はほとんどないと思っています。DXを事業を成長させるきっかけにするためには、顧客とプロダクトのギャップをなくすことは最低条件です。こうした意味で、UXデザインはDXを成功させる不可欠な要素だと思います。

UXデザイナーは、UI/UXデザイナーと一括りにされることも多いですが、UXデザインの領域だけでも様々な専門知識と作業時間を必要とします。個人的には、扱うプロダクトがある程度大きい場合は、UIデザイナーとUXデザイナーをそれぞれ配置する方が良いと思っています。

今回はUXデザインを感覚的に理解してもらうために、少々抽象的ですが簡単に解説しました。UXデザインが何か特殊な能力を使った仕事ではないことがわかっていただけたでしょうか。次の機会があれば、もう少し具体的なUXデザイナーの仕事について書きたいと思います。

DXデザイン室では、DXの顧客体験を一緒にデザインしてくれる仲間を募集しています。今回の記事を見て興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、カジュアル面談も可能ですので、お気軽にご連絡ください。