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朗読劇『羊たちの標本』はいいぞ※ネタバレなし

はじめに

2019年3月2日〜2月3日にかけて初演が上映された朗読劇『羊たちの標本』(脚本:古樹佳夜)をご存知だろうか。
私はこの作品に現在進行形で囚われている。私が4年経ってもなお囚われているこの作品について、ネタバレをしない範囲でキャストの演技に重きを置きつつ紹介していきたい。

『羊たちの標本』の基礎情報

まずはあらすじだが、上手く語らないとネタバレになってしまうので手っ取り早く初演の公式HPから引用する。

病理学研究施設に併設された全寮制学校・「夢ノ淵院」
ここに住む少年たちは、世にも奇妙な特異体質と、短命の運命を背負っていた。
ある日【宵闇の問い】という謎の悪夢を見ると、死期が迫っている……と噂が流れ、少年たちは死の影に怯え、争いが起こり始める。
真相は、【標本室】に隠されているというが……

さんたく!!!朗読部第1回公演『羊たちの標本』

さて、一見すると不穏。ミステリアスな雰囲気を醸し出している。考察や複雑なお話が好きな人には是非ふれてほしい。個人的に自分が誰で相手が誰であるかを探していく話という印象も持った。

次にキャラクター名とキャスト。キャラクターの詳細については各項で述べる。ちなみに、各キャストがそれぞれやったことないような役を割り振ったそう。そして、キャラクターデザインに初演キャストの声のイメージが反映されてるとのことで、「合法的に推しの声の具現化見てんの……?」と混乱した記憶。以下一覧。

『羊たちの標本』に囚われた経緯

細かく語っていく前に私が羊(※1)に狂わされた経緯をまず話そう。
私が観劇したのは3月2日の2公演目。初めて朗読劇を観劇したイベント且つ初めての推し(※3)の現地だった。行くかどうかギリギリまで迷っていた私がチケットを取った理由を簡潔にすると単純。「推しがこの先絶対人気になって会いにくくなるから今のうちに推しに会いたい!!」という至って不純なものだった。それが、実際に観劇したらあの世界に背中を押されて進学先の大学を決めてしまって今に至るのだから縁とはおそろしい。

キャストに対して事前に持っていた印象と知識

この先の演技の印象ターンに行ったときにわかりやすいように、私が当時持っていたキャストさん(この朗読でお名前を知った方は除く)へのイメージを簡単に羅列しておこう。
【土岐さん】
私の推し。語ると長いので割愛。もうすぐ(2019/05/15)アーティストデビューする。
【平川さん】
Free!のメガネの役やってる人。
【宗悟さん】
SideMの真ん中の赤い人。ガチ恋製造機らしい。
【市川くん】
コミックBar Renta!で『かわうその自転車屋さん』読んでた癒しボイスの人
【こばぴょん(※4)】
『ナンバカ』で可愛い声の子やってた人

ー以下再演キャストー
【五十嵐さん】
A3!のシトロンの人
【きくてぃ(※5)】
土岐さんの後輩。&6allein(※6)だった子!

では、キャラクターとその演者さんに焦点を当てて『羊たちの標本』を見ていこう。

各キャラクター紹介と演技語り

初演キャストは初演の、再演で変更になったキャストは再演の演技について書き連ねていく。ただのオタクの語りになるがお許しいただきたい。

羊/土岐隼一

 特徴は羊の角と優柔不断さと不眠。
 伏線回収が気持ちいい演技するなぁというのがまず1つ。結末に向けて鳥肌がたって「もう私の肌は鳥になった・・・?」と思考が迷走するほど。
 立ち方にも注目したい。朗読劇なので声で魅せるのはもちろん立ち方や力の入れ方、少しの動作で全身で演じているのが伝わる。どの演者さんにも言えることだが、最初の項目にあたったのでここで書いておく。
 泣きそうな演技や絶叫の演技もよかった。4年前でこれだけのもの魅せてくれるんだから今再演したらどうなんだろうかと思えて仕方がない。土岐さんの絶叫の演技が悲痛すぎて、苦しくて。もともと大好きな土岐さんの演技がより好きになった瞬間だ。
 セリフと表情が相まってこの人の世界に引き込まれるなぁと最後になればなるほど思う。最後まで観劇して、結末を知ってから思い返すと土岐さんの演技が良い意味でめちゃくちゃ怖い。我が推しながら「なんて隠し球もってたの!?」と口元のにやけを必死に押さえることしか出来ない。アフタートークにて素で某キャラに「崩れ落ちるさまも愛おしい」と言ったり本編後半でアドリブをねじ込んで照明さんのファインプレーだった話をしたりと作品を楽しんでるのが伝わってとてもよかった。

オオカミ/平川大輔

「一番の古株」「孤立」「何故夢ノ淵院にいるのか誰も知らない」
このキーワード見るだけで個人的にはぞくぞくする。そもそもがミステリアスで皮肉っぽくて。印象としては高慢さももっているように感じる。
 このオオカミのつかみどころのない感じと平川さんの声があまりにも合っていてオオカミが言葉を発するだけでニヤける。中盤の例のシーンでもふざけてるのかなんなのか。観てるこちら側は息抜きタイムと侮ることなかれ。怒濤のアドリブタイムからの展開が最高すぎる。あそこのバランスを握るのは平川さんなんだろうなと思うとわくわくしてたまらない。
 オオカミの振る舞い加減次第で物語の大きさ(?)がずいぶん変わるんだろうなという印象。

瑠璃/井上宝

優等生で慕われていて、自分よりも他人を優先している病弱体質。
初演後の生放送で、ご本人も言っていた「お願い」のニュアンスが強めな瑠璃。自分よりも他人を優先してしまう瑠璃が心の底から「あなたのためにも、お願い」ってだすニュアンスが良い。役柄ゆえに儚さももちろんあるんだけど、紫郎と関わる時のニュアンスの違いが良い......みて......

瑠璃/長谷川芳明

再演キャスト。長谷川さんの瑠璃は周りを優先してしまう面がより一層出ていてそれ故に紫郎との関係性がグッと際立つような気がしてする。紫郎との関係と寄りかかり合うキャラクターというか、どちらかのさじ加減次第で印象が全然変わる。瑠璃のキャストが違うから紫郎も初演と再演で印象がだいぶ違った。紫郎の暴走具合強めというか、瑠璃が頑張って止めてる感が強いのが井上さんとの演技なら、長谷川さんの方は瑠璃が紫郎の防波堤になっている感が強くなる。調整役感が強い長谷川さんの瑠璃もみて......

鈴/仲村宗悟

 歌が得意でお兄さん役。神経質で問題行動に厳しい。
 こちらも初演と再演でキャストが違うのでそこの演技の違いも含めて。絡みが多いのは加藤さん演じる葛。この葛との絡みでだんだんと見えてくる鈴の感情が見所。
 宗悟さんの鈴は、周りからの印象を大切にする印象が強い。それが揺さぶられていくときの演技がとてもよくて。二面性まではいかないけれど、隠してる一面と出している外面のバランス感と演技がすごく好き。あと怒りが前に出てきたときにセリフにいろいろ滲んでいて忘れられない。他の部分の鈴との対比があるからこそいきる演技だなぁと思った。

鈴/五十嵐雅

 再演キャスト。さて、宗悟さんの鈴が周りからの印象を大切にしていたのに対し、五十嵐さんの鈴はお兄さんであることを大切にしているようだった。好青年感とくだらないことではしゃぐ年相応な感じもあの年頃の男の子という感じがして良かった。もちろん再演なのでお話もセリフも宗悟さんが演じたものと同じだが、鈴の色が違う分印象もまた変わるのだ。どちらの方が正しいとかではなくて、同じキャラの違う面が観られるのも再演の魅力の1つだと思う。怒りが前に出てきたときも、宗悟さんの鈴は自分のための怒りという印象が強いのに対し、五十嵐さんの鈴はお兄さんとして周りのための怒りという印象を受けた。

紫郎/深町寿成

触れた人を殺してしまう。手袋が必須。
 ヤンデレちっく。このときの深町さん演じる紫郎の「世界に瑠璃だけがいればいい」という盲目具合がたまらない。この朗読劇のおかげで私は深町寿成の病んでいる演技に囚われている。
 瑠璃以外のものには徹底的に牙を剥く感じや、瑠璃が関わると暴走しちゃうところも観ているこちらが疲れずにかつ「やばいのいる」と思う範囲に上手い具合に収まっている演技。
 そもそも体質として人を殺してしまう可能性を持った子がこのポジションというのがいい。
 あからさまに瑠璃とそれ以外で声色から言動が違うのも演技でより引き立っていて見所。

葛/加藤将之

 転校生。真意が分かりにくくて執着心が強く盲目的。
 葛の執着がねっとりした演技に表れていて説得力のある気持ち悪さ。
 土岐さんが「葛がすっごい気持ち悪くて」と言ったり宗悟さんが「いや、ほんっとに気持ち悪くて。これアレですよ?褒め言葉ですからね?長袖で見えないけど鳥肌すっごく立ってますもん」と言ったりするレベル。
 どうしたらこんなに説得力のある気持ち悪さが表現できるんだろうかとただただ絶句。この気持ち悪さ加減で葛のシーンの厚みが変わるだろうから、加藤さんでよかったなと心から思う。

サーシャ/市川太一

 瞳の色の変化で性格が変わる多重人格。サーシャが少年。アレキサンドラは少女。
 考察しがいがあって楽しい子。なんといっても見所は、サーシャとアレキサンドラの入れ替わり。サーシャのときは男声、アレキサンドラのときは女声で演じる市川さん。つまり、人格が入れ替わるシーンではずーっと男声と女声が入れ替わる。すごかった。本当にすごかった。オンライン(再演)でもすごかったけどあれは本当に生で浴びて欲しい。これが役者の本気・・・!

月兎/小林大紀

 この子も眠りに関する特徴をもつ。日光がだめ。
とにかく儚い演技が上手いなぁという印象。守ってあげたくなるというか、前半の他の子とのやりとりでポジションを明示する脚本のこちらが後々覚えておきたいポイントを自然に押し出してくれる感じ。
台本を読むと、どの役も伏線が多くてキャストの方々の演技にひれ伏すしかできないのだが、土岐さんの羊くんの演技に並んで「ここ!!大事なポイントだったんだ!」をやってくれてた。その場に居なくても、他の子の選択に納得感をだす演技が凄い。

透/青木優太

体が透けていってしまう。面倒くさがりなところだけじゃなくて、サーシャの面倒をみたりする。
実は初演時一番好きなキャラは透だった。ちょっと掴みどころのないけれど、特にサーシャに対しての優しい雰囲気がすごく好きで。青木さんは、この作品で初めてお名前を知ったけれど丁寧に透の対他のキャラの部分を考えて演じくれているように感じた。大雑把で物事を深く考えないというところの表現から生まれているのであろう、掴みどころのない部分で透としてのキャラクター性を出して、そのうえで他のキャラとの関係性を丁寧にみせてくれることで「透」が確かにそこにいた。

透/菊池勇成

こちらも再演キャスト。青木さんの透に比べてクールさ、気だるさが増して登場して興奮で悶えた。キャラクター紹介にある「面倒くさがりな一面」が強めな役作りだなと感じた。個人的に思ったのは「思春期の男の子だ......!」ということ。面倒くさがりの場面ごとの出力加減が好きで、最後のシーンで感情が1番セリフに滲んでいたのがとてもいい。

海月/上西哲平

興奮すると光ってしまう、ムードメーカー。
この子があのポジションだからこそ、後半のシーンが映えるよなぁとつくづく思う。演技中、本当に表情が豊かでおいしいところを持っていく。テンポよくこちらがくすっとしてしまう所も、鳥肌が立つシーンも全力の感情表現をしてくれるから惹き込まれる。ただただ無邪気なわけでもなくて、ムードメーカーとしてのバランス感の演技がとても好きなので、見て欲しい......!

脚本について

 触れすぎるとネタバレになりそうだから最後に少しだけ。
 私は今、この朗読(というかそこに携わる人たちの全力で好きなもの、朗読に向き合う姿勢)に背中を押されて決めた大学で勉学に励み、元気に朗読劇のオタクをしている。はじめて触れた朗読劇の脚本がこれじゃなければ、恐らく今の大学に通う私も朗読劇のオタクをする私もいなかっただろう。
 言葉選びからちょっとした知識。最初は見逃してしまいそうなところにもしっかりと伏線はあって、その上キャラの性格の裏付けにもなっている。細かいところまでこだわって、観た人を動かす力のある文章や世界を書くのが古樹佳夜さんなんだと思う。
 世界が入り組んでいて、モチーフもいっぱいあって伏線だらけで。そんななかでも人を掴んで離さない魅力をもったこの作品がこうして私たち観客のもとに届いているのが何よりも嬉しい。


※1:筆者は『羊たちの標本』のことを「羊」と呼ぶことが多々ある。
※2:再演は2020年10月10日にオンラインで開催された。
※3:筆者の推しは土岐隼一さん
※4:こばぴょんとは小林大紀さんの愛称
※5:きくてぃとは菊地勇成さんの愛称
※6:&6alleinとは2019年12月に解散したグループ。


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