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【ライブレポ】クロスノエシス4thワンマンライブ『blank』【21/12/21】

「憧れ」と「諦め」は紙一重だ。

身も蓋もない持論だがそう思う。

僕が表現者の口から『〇〇さんに憧れていて~/尊敬していて~』というフレーズをあまり聞きたくないのはこれが理由で、要は好きな相手であるほど「一方的に周囲の憧れであってほしい」と思ってしまう。

たとえ「憧れ」「尊敬」といった綺麗にコーティングされた単語であろうと、好きな演者の言葉から他者に対する「敵わない」「及ばない」という“諦め”のエッセンスを嗅ぎ取りたくない。

そんな僕がこの日のライブを終始爽快感をもって観られたのは、それを構成するパフォーマンスが単に完成度が高いだけでなく、そうした「諦め」の匂いを一切感じさせないものだったからだろう。

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2021年12月21日。

ネーミングライツ移譲により新たに「Spotify」を冠する渋谷O-EASTにて、クロスノエシスの4thワンマンライブ『blank』が開催された。

会場には年の瀬の平日夜とは思えないほど大勢のファンが詰め掛け、一席飛ばしのキャパ制約も外れた客席をあっという間に埋めていった。

思えば2019年のグループ結成以降、飛躍への足取りを何度も阻んだご時世の逆風がやっと弱まってきた昨今。

逆境にあってもこれまで決して「ライブ」という第一義を手放さず、腐らず愚直に歩を進めてきた今の5人の目に今日のステージはどう映るのか。

そんなことを考えながら開演を待っていると、活気ある影ナレに促され観客達がいよいよかという面持ちで立ち上がり、程なくしてゆっくりと会場の照明が落ちる。

外に広がる渋谷の夜とはまるで異質な人工の暗闇が柔らかく降りてきて、ステージ上部と正面に並んだ多数のライトがやっと出番かと息巻くように暗がりの中で鈍く光った。

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開演を告げるたおやかなSEとともにメンバーが登壇。

そして円形に並んだ5人がゆっくり歌い始めたのは、現体制で初披露となる初期曲『seed』。

のちに再構築され披露されたアレンジ違いの『SEED (大文字シード) 』ではなく、原曲版の『seed (小文字シード) 』が不意打ちで始まり、会場に静かな興奮が漂う。

続いて同じく初期の代表曲『インカーネイション』が流れ、特徴的なイントロから一気に客席のボルテージを引き上げる。

幾度となく磨き上げた存在感ある落ちサビが会心の出来で会場に響き、その瞬間「今日は良いライブになる」と確信する。

そして余韻あるイントロから搔き毟るようなギターを経て次曲『薄明』へ。

それを聞きながら「衣装を遡りつつ、楽曲は初期から順に披露していく」という、新旧の要素が視覚と聴覚を超えてクロスフェードする演出を予感した。

直後、そんな憶測を突き放すように流れ始めたのは最新曲の一つ『幻日』。

運動量ある振付に怯むことなく5人は息の合った力強い歌唱を見せ、この大一番にふさわしい最高の滑り出しを飾った。

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そこから再びSEが流れ始め、壇上から捌けるメンバー。

再度訪れた暗闇をくり抜くように正面にイメージ映像が映し出される。

途端、処理情報の質が一気に変わり、脳が音と映像にさらに集中していくのが分かる。

それは一種の催眠状態のようで、なにか大きな流れの中に意識が同化するような恍惚を覚えた。

そうして心地いい抑揚を経てステージへの没入感がより高まった頃、流れ続けるゆるやかな音楽に乗って再度ステージに現れたのは、初めて見る真っ白な衣装の5人だった。

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厳密にいえば初期衣装も白を基調に作られていたが、素材感の主張や照明の反射なども抑えられた、ここまで無垢な「純白」の衣装を身に纏うクロスノエシスに初めて相対し、無意識のうちに目を奪われる。

そのまま再登壇用のSEかと思っていた音楽に合わせメンバーのダンスが始まり、丸々一曲分を歌わず踊るインスト楽曲『blank』のパフォーマンスが披露される。

それに呼応するように、正面奥のスクリーンには白を基調とした幻想的なイメージ映像が流れ始める。

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初めて見る衣装に初めて聞く楽曲。

新鮮な驚きとともに静かな興奮に包まれていると、次いで流れた楽曲で更に思考をかき乱される。

直後に歌われたのはこの日初披露の新曲『幻光』。

この曲はワンマン後に出たインタビュー記事によると「既に披露されている2曲、『光芒』と『幻日』を混ぜ合わせた楽曲」ということだったのだが、そんな経緯など知る由もない当日の感想を率直にいえば「これは一体何だ?」の一言に尽きる。

肌感覚として「薄っすら知っているオケに乗せてほぼ知らない歌唱が展開される」その曲からは、聞き心地のよい美しさと脳裏に引っかかる不可解さが混濁した奇妙な印象を受けた。

そのまま不思議な感覚に浸っていると、続いて『翼より』『ark』が披露され、そこでメンバーは再度壇上から捌けた。

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三度訪れた静寂と暗転。そこへ数歩遅れて流れ出すノイズ音。

同時に正面にはグループのロゴが大きく映し出され、続いて今回のワンマンタイトルである『blank』の文字が現れる。

ほどなくして最初の衣装に再度着替えたメンバーが何事もなかったように壇上に戻る。

なおも残る不穏な空気。そこへ溶け出すように『in the Dark』のイントロが流れ始める。

歌詞同様、闇夜を思わせる薄暗いライティングの中で同曲を歌い終えた後は『moon light』『VENOM』『光芒』『残夜』と続き、徐々に表情を変えていく夜を思わせるストーリー性ある展開が続く。

この「暗中に一筋の月光が差し、そこから徐々に夜が明けていく」といった一連の流れには、全世界のライブエンタメに逆風が吹いたここ2年間のグループの歩みに重なるものがあった。

そのパフォーマンスにはこれまでの苦労や懊悩を「何一つ無駄じゃなかった」と自ら肯定してみせるような力強い意気を感じた。

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そして『残夜』アウトロの余韻を荒く拭い去るように流れ始めたのは、現体制の名刺代わりともいえる代表曲『VISION』。

撃鉄を起こすイントロに客席が呼応し、怒涛の最終節の幕が上がる。

加速する情感を映すように忙しなく明滅する照明。

大スピーカーから生まれた音響は会場内を駆け巡り、細かな空気の振動が観客の肌をビリビリと打つ。

こうして全楽曲中トップクラスの運動量かつテンポの速い同曲を、このオーラスにおいても5人は最後まで全力でパフォーマンスしてみせた。

息つく間もなく走り抜けると、燃える朝焼けを思わせるライティングに合わせ最新シングルの表題曲『awake』が始まる。

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暗く澱んだ夜を暴くように圧倒的な朱が差し込み、ステージ上の黒を塗り潰していく。

間奏では客席とメンバーが一体となり拳が突き上げられる。

それは朝の訪れを喜ぶ原始的なヒトの姿にも見えつつ、同時にこのワンマンの成功を現在進行形で誇る勝利宣言のようにも思えた。

そして満足気に歌唱を終えた5人は簡単な挨拶をして降壇。

なおも余熱の残る会場は再び暗転し、客席からは今や定着化した向きのある手拍子だけのアンコールが自然と巻き起こった。

そうして興奮冷めやらぬまま手拍子を鳴らす会場。

声での音頭が取れない環境ながら、その手拍子は一糸乱れず続く。

少しして壇上に戻ったメンバーは再度新曲の『幻光』を歌い、そのままMCへ。

終始楽曲を詰め込んだ今日のステージにおいて、初めてゆっくり話す時間が訪れる。

そこで自ら着てきたTシャツなど公式グッズの紹介を一通り終えたメンバーは、続いて順にライブを振り返っての挨拶と今の心境を述べた。

そこにはこれまで観ていた凛々しい姿とは違った等身大の5人がおり、時折笑いを交えながら和やかに、かつ丁寧に今日という日を迎えられたことの感謝を伝えていた。

その後もMCでは一切の涙もなく、ひたすら達成感に包まれた5人の満足気な笑顔が印象的だった。

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そして全員分の挨拶を終えると会場全体で記念写真を撮影。

暖かい空気感そのままに、この日最後の曲となる『VOICE』が始まった。

思えば一回目の宣言明け直後に当たる2020年5月下旬。

突如視界が閉ざされるなか、声なき声を伝えるべく足掻くように無料の配信ライブ上で初披露された同曲。

会場で曲を聴きながら画面越しに声援を送るしかなかった当時の感覚がフラッシュバックし、いままさに目の前で同じ曲を歌っているメンバーの光景が感慨深く映る。

また表現としてシリアスな表情で歌われることの多いクロノス楽曲の中で、この『VOICE』は数少ない笑顔の似合う曲だった。

そんな『VOICE』で締め括られたこの日のワンマンは、最後までステージ客席ともに暖かい笑顔に包まれながらその幕を閉じた。

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…と、ここで終わればレポートとして流れも綺麗なのだが、この話には続きがある。

ライブ終演後、詰めかけた観客が絶賛の声を漏らしながら会場外に出た頃、クロスノエシスの公式Twitterアカウントより以下のツイートが投稿された。

一見すると何の変哲もないセットリスト情報。

しかし、今まさにライブを見終えた観客の脳裏にはある疑問符が浮かぶ。

明らかに曲順が違うのだ。

より厳密にいうと、全体のセトリを転換のskitを線引きに「序盤(1~7)/中盤(8~11)/終盤(12~16)」という3部構成として見れば、実際のライブでは公式発表のセトリにおける「中盤→終盤→序盤」という順に披露されている。

それに加え、披露順ごとの各曲への付番が「15」だけ存在しない。

この時空の歪みとも思える各部の倒錯。

そして意味ありげに強調された空白の15曲目。

思い返せば、OPに当たるグループロゴやワンマンのタイトルである『blank』の文字がスクリーン上に映されたのは実際のライブにおける3部目の冒頭だったので、このセトリ情報が単なる不備や誤植であったとは考えづらい。

当然、そんな謎を唐突に突きつけられたファン達は困惑し、特典会の待機で会場の階段に並びながら思い思いの所感や解釈を口にしていた。

同じく僕も例に漏れずこの発信の意図を考えていると、おそらく大多数の人が思ったであろう私見が周囲の人混みから聞こえてきた。

「これ、明らかにブクガ意識してるよね」

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『Maison book girl』

2021年5月30日。

「削除」という表現をもって事前告知なく唐突に活動を終了した4人組。

クロスノエシスにとっては同事務所の先輩グループにして、解散後も強烈な個性の余波を残すブクガ。

そんなブクガと同じく印象的なVJやステージ内外に渡る作為的なギミックを弄するクロスノエシスが、彼のグループと比較して見られるのはある種必然のようにも思える。

むしろワンマンの演出を振り返ると、クロスノエシスの方から意識的にその影に挑んでいくような気配さえ感じた。

この「クロスノエシス×Maison book girl」という近くて遠い不思議な関係性に改めて心惹かれる。

思い返せばブクガ解散の折には、クロスノエシスのプロデューサーであるsayshineさんから、ブクガおよびプロデューサーのサクライケンタさんへの尊敬の言葉があった。

またそれは単なる憧れに終始することなく、上記sayshineさんのツイートはリスペクトを込めつつも決して挑戦心を忘れないニュアンスで「追いつけ追い越せ」と結ばれている。

これらの点を併せて考えると、現状いわゆる“ブクガ的”とも思える表現やギミックでステージの完成度を高めていたとしても、いつかその歩みが唯一無二のクロスノエシスの独創性に辿り着くということを期待せずにはいられない。

伴って上記の「謎」について。

同じく「謎」ブランディング最大の成功例ともいえる『エヴァンゲリオン』を例に考えると、多くの人々を巻き込んでマスの熱量が肥大化していくモンスターコンテンツには、受け手一人一人が見て聞いて感じたことを口にしたくなる、それぞれの解釈や感覚を他者と共有したくなる一種の引力のようなものがある。

今回のワンマンを通してクロスノエシスがそんな「引力」を帯び始めたとしたら、その核ともいえる「謎」を育てる上で最も重要なことは、作り手側と受け手側の共犯意識として「答え合わせをしない」ということであり、その不明瞭さを「解釈の余白」として受け手の個々人が思い思いに楽しめたら理想的だと感じる。

こと刹那的なコンテンツ消費の増加により、思考停止の「分かりやすさ」が幅を利かせる昨今。

その強烈なカウンターとして、緻密な楽曲に支えられた高度なライブパフォーマンスと共に、この底知れない「謎」の引力がより洗練され、今後ますます育っていくことを願ってやまない。

同時に、この先クロスノエシスが類似のギミックを用いた際に「ブクガっぽい」と言われなくなってからが本当の勝負なのだろうと感じる。

といった辺りで、「近い将来には台風の目になる」という重ね重ねの期待を述べて、この文章を結ぼうと思う。

長文ご精読ありがとうございました。

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※本編中の写真はTwitterより拝借しました。もし問題があれば削除しますので、お手数ですがご連絡ください。(@Aruiteru_4329)

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