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「異星人」との出会い

私には「親友」と呼べる人間が2人います。

その2名が同様に私のことを「親友」と考えてくれているかどうかはさておき、

その2人には共通点があります。

それは、

初対面の印象は最悪で、ともに
生理的に受け付けないタイプだった

ということです。

今日はそのうちの1人のことについて書きたいと思います。


以前、犬の話にからめアフリカのザンビア
で仕事したことを書きましたが、ザンビア
から帰国し、しばらくしてから東京新宿で
サラリーマンをしました。

彼と出会ったのはその勤め先で、彼を一言で
表現すると

チャラ男

です。


私はその会社に中途採用で転がり込み、情報
管理部に配属されました。

「チャラ男」は同じフロアーのお隣の法人
営業部にいました。

私の出社初日、

同じフロアーの方たちにご挨拶をして周り、
そこで出会ったのが「チャラ男」です。


私の目よりさらに細い目、
自分で描いたと思われる眉毛、
妙に日焼けした顔、
ド派手なピンクのシャツ、
深紅のネクタイ、
手首にブレスレット、
裁縫で使う指抜きのような大きな指輪をはめ、
妙にピカピカの黒い靴をはいていました。

一番敏感に「異変」を感じ取ったのは私の鼻
でして、彼の方角からほのかに変な香水の
匂いが漂ってくるのです。

「くさっ・・・」

「なんだ、こいつは・・・?」

彼を目の前にして一瞬で私の気持ちが引いて
いくのを感じました。

「こんなチャラ男が営業?
 私がお客なら、
 絶対にこんな奴から買わないな。。」

「チャラ男」を目の前にし、私は間違った
異星に降り立ってしまったかのように呆然
としてしまいました。


後日談ですが、その「チャラ男」も私に対
する第一印象が最悪だったようです。

一見して安物とわかるヨレたスーツ、
ダイソーで買ったような青ネクタイ、
磨かれていない靴、
曇った黒縁メガネ、
ラグビーのスクラムで押し潰されたような
歪んだ面構え。
(私はラグビー部ではありません)


そう、お互いに

瞬きしている間に嫌いになる男

だったのです。


人間の心理って不思議なものですね。
嫌いな人間については、その「嫌い」を
上書きするようなネガティブな情報だけ
が蓄積されていく
のです。

「チャラ男」についてもそうでした。


会社の金でキャバクラで豪遊している説、

車はBMWのなんとかという車種のオープン
カーである説、

酔っ払うと、自分は営業にかけてはナンバー
1のデキる男であり、

お前ら社員の給料は、ほとんどチャラ男が
稼いでいるんだと周囲に絡む説、

カラオケは英語の歌ばかり歌う説、

コンビニのおにぎりは、決まって一番高価
な「いくら」しか食べない説、

ピザの端っこは「持つところ」で「食べる
ところではない」と捨てる説、・・・


安い「塩サバ」のおにぎりが好物の私から
しますと、「チャラ男」に対する印象はさら
に悪い方へ悪い方へと傾いていくのです。

・・・・・・・・

私は会社でデータの収集や分析をする仕事
をしており、よく「チャラ男」のいる営業
部にも足を運んでいたのですが、

入社当初、「チャラ男」が私の仕事に何か
と難癖をつけてくるのです。

いわく、

「このデータ、ここ間違ってない?」
(間違ってません!)

「なんでこんなに紙が多いの?」
(しるか!)

「もっと早くデータもらえない?」
(だったらさっさと元データ渡せ!)

そして「チャラ男」にデータを持っていく
と、こちらの顔を見ようともせず、手だけ
出して私の持ってきた資料を受け取ろうと
したことも一度や二度ではありません。

・・・・・・・・

しかし、その会社での彼の営業成績は本物
でダントツに良かったのです。

彼のことは当時ホントに嫌いでしたが、周囲
に有無を言わせぬ「デキる人間」だったとこ
ろは認めざるを得ませんでした。

それでも入社して1-2年、彼とはまともに
会話すらしたことがなかったのです。

そして入社して3年目、

私が考案した新しい情報管理システムの話を
上層部に持っていったとき、鈍い反応が続く
中で唯一賛成してくれたのが「チャラ男」で
した。

それでも「チャラ男」は生理的に受け付ける
タイプではなかったので、例えば一緒にお昼
ご飯に行くとか、飲みに行くことも一度も
ありませんでした。

新年会や忘年会といった会社の飲み会でも
離れた席に座るようにしていましたし、社内
でも会議中に話すとか、休憩所で会ったとき
に少し話す程度でした。

・・・・・・・・

新宿でのサラリーマン生活は4年で終止符
を打ちました。

出社最後の日、会社の同じフロアーの人達
が送別会を催してくれました。

西新宿の居酒屋で、入れ替わり立ち替わり
お酒を注がれるままに飲んでいたのですが、

ふと不思議なことに気付きました。

「チャラ男」が私の斜め一つ前に座り、
一人静かに飲んでいるのです。

普段の忘年会や新年会では、席の間をせか
せかと回っては上の人におべっかを言い、

ネクタイを鉢巻にして同僚と奇声をあげ、

ビールだの、ワインだの、ウイスキーだの
を浴びるように飲み、

女の子に抱きついたり、だらしなさ満開の
「チャラ男」が、一体どうしたんだろうと
不思議でした。

今日は体調でも悪いのか?
お昼のおにぎりの「いくら」が当たったん
だろう、ぐらいに思っていました。


でもまあ今日が最後だし、ちゃんと挨拶ぐら
いはしておくかと「チャラ男」に話しかけま
した。

「短い間でしたけど、お世話になりました」
「あ、ううん・・・」

「あの、グラス空いてるみたいですけど、
 僕のも空いたんで何か頼みませんか?」
「うん、じゃあ、すだちサワーを」

「すだちサワー?なんか地味ですねぇ」
「いやあ、俺は今日はすだちサワーしか
 飲んでないよ」
「え?体調悪いんですか?ビタミンCの補給
 ですか?」
「いや、今日はお前が巣立つ日だからね」

私は一瞬意味がわからなかったのですが、
「巣立つ」に「すだち」を掛けてたんです
ね。

それがわかって、なんかホントにあやうく
涙が出そうになったのをよく覚えてます。


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入社前はアフリカのザンビア、そして退職
を決めたのも海外に行くためです。

自分が好きに生きるために退職を決めたわけ
ですから、後悔は何もありませんでした。

でも、期待して私を採用してくれた人事の方、
情報管理部の部長などは、私が退職を決めた
ことを伝えると、彼らからあからさまに嫌悪
感を示され、嫌味を言われて落ち込んだ部分
があったのも事実です。

そうして送別会を開いて頂いたのは感謝して
いたのですが、

「一体どれだけの人が私を気持ちよく送り出
 してくれているんだろう?」

と余計なことばかり考えていました。

だからなおさら、ちびちび「すだちサワー」
をすすっている「チャラ男」が、にわかに
私に最も近い人間として私の目に映るよう
になったんだろうと思います。


その後、チャラ男と私は一次会、二次会の
カラオケでも「すだちサワー」だけをひた
すらあおり続けました。

なぜか「チャラ男」とは会話が止まらなく
なり、二人で歌舞伎町のバーへ三次会に
行き、明け方に吉野家で牛丼を食べ、その
あとも早朝の喫茶店でコーヒーを飲みながら、
ありとあらゆる話をしました。

「すだちサワー」

の一言だけで、それまでの「チャラ男」像
は見事に消え去りました。

上に触れた「チャラ男」の噂話はすべてが
粉飾されていることを知り、彼に関する悪
いイメージは全部クリアになりました。

本当に私も勝手なもので、それ以降、彼の
清々しいまでの仕事に対する信念や将来の
展望に触れ、今度は「チャラ男」に関する
いい情報ばかりが蓄積されていくのでした。

・・・・・・・・

彼も海外での仕事がしたかったらしく、数年
後に彼も会社を去り、ドイツのコンサルティ
ング会社に転職しました。

会社を去って2年後に私が結婚し、福岡での
披露宴では「チャラ男」に友人代表でスピー
チをしてもらいました。

それからだいぶたって、「チャラ男」が結婚
しました。私がヨルダンに来たばかりの頃で、
今度は私が友人代表でビデオメッセージを送
りました。もちろん内容は「すだちサワー」
の話です。


ここヨルダンでもそうですが、海外で仕事
していると、周りが「チャラ男」のように
異星人に見えることがたくさんあります。

いくら会話を重ねても理解しあえないこと
もありますが、逆に、ほんの小さな瞬間に
相手のすべてが理解できることもあります。

異星人とはいえ、人生における本当の友人
がある日突然現れるかもしれない。

そういう希望のようなものを日々枯らさずに
私が持ち続けられているのは「チャラ男」に
会ったからです。彼には本当に感謝していま
す。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとう
ございました。