【開催報告】第4回 「予算編成と政府調達改革」
硬直的な予算編成と調達契約、ソフトウェア開発の多重下請構造、ベンダーロックインーーデジタルサービス構築のためにはこうした構造的な課題を解決する必要があり、調達改革はDX成功のための重要な鍵であるということができます。第4回目のデジタルガバナンスラボでは「予算編成と政府調達改革」をテーマに、日本行政が「デジタル時代の賢いバイヤー」になるために必要な視点やスキル、予算・組織・契約のあり方、インセンティブ設計について検討しました。
開催報告
デジタルガバナンスラボ
第4回「予算編成と政府調達改革」
2021年1月30日@オンライン
登壇者(敬称略)
中島聡 (一般社団法人シンギュラリティ・ソサエティ代表/元マイクロソフトチーフアーキテクト)
平本健二 (政府CIO補佐官)
廉宗淳 (e-Corporation.JP株式会社代表取締役社⻑)
<モデレーター>
⻘木尚美 (東京大学准教授)
政府調達のソフトウェアはオープンソースに
「なぜ、日本政府が作るソフトウェアは使えないモノばかりなのか?」と題する講義を行った中島さんは、ソフトウェアエンジニアの立場からみた政府調達の構造的な問題を取り上げました。
まず現状の政府調達の問題として、①請負元の大手ITベンダーとコーディングを行う下請け会社というゼネコンのような構造があり、設計とコーディングが分断されている、②変更やアップグレードは最初に発注を受けた会社しかできないというベンダーロックインが起きている、という見解が示されました。
これらの構造的な問題を根本から解決することは難しいとしつつ、1つのアプローチとしてオープンソース化の採用を提唱。ソースコードをパブリックドメインにすることで、①プログラムや設計の担当者が可視化されて質の高い設計・コーディングが実現する、②最初に発注を受けた会社以外でも変更やアップグレードが可能になり、大手ITベンダーへの依存を回避できる、といった可能性を提示しました。
電子政府ランキング上位の韓国
廉さんからは「予算編成と政府調達改⾰」というテーマの下、日本と韓国の電子政府推進への取組みの違いについて多くのポイントが提示されました。
韓国では一貫した戦略の下、正確な予算を取るためのプロセスを示す「電子政府マニュアル」の作成、一括した「調達プロジェクトの品質管理」の導入、調達プロジェクトを監査する「情報システム監査法人」の設置、「調達審査のプール制」、「政策実名制」等の複数の施策を総合的に組み合わせることで電子政府化を実現しているという事例を共有頂きました。
一方、日本のアプローチは「馬も買わずに鞍を買う」状態であると指摘。日本が電子政府を完成させるためには、その基盤システムを作ることから始める必要があるとの考えが示されました。
政府が「賢いバイヤー」になるためには?
平本さんによるレクチャー「デジタル時代の調達のあり方やインセンティブ設計」では、日本政府の調達と予算編成は執行までに1,2年かかるためデジタル時代の変化スピードについていけていないという問題や、情報システムをただのコストとして位置付ける風潮、システム構築の失敗を振り返らないメンタリティなどについて指摘がありました。
そのうえで、デジタル時代の調達に必要なこととして制度のアジャイル化およびシステム全体を捉えたアーキテクチャ・プラットフォームの視点での基盤づくりの重要性を訴求しました。
また、中島さんと廉さんの講義を受け、日本政府が「賢いバイヤー」になるためには、①オープン化によって各省庁の予算執行の状況・成果を徹底して透明化する、②調達の審査を専門家で構成されたプール制にすることで癒着や不正行為の発生を抑え、予算査定の妥当性を上げる、③政策実名制によって大きな政策に取り組むインセンティブ設計を行う、等を検討していく必要があるとの見方が提示されました。
電子政府推進は、技術の問題ではなく制度の問題である
現在、日本政府はマイナンバーカードの普及や脱ハンコ等、デジタルサービスの成功のために様々な取組みを実施しています。ここで重要なことは、システムの作り方を支える制度もアップデートや最適化が必要であるということです。そのためには、全体戦略のなかでそれぞれのプロジェクトを位置付ける「ホリスティック」な視点を持ちながら、取り組むべき課題を明確にしていくことが重要になります。
デジタルガバナンスラボは「ホリスティック」な視点から革新的なソリューション創造に向けて、デジタル時代の”ガバメント”をマルチステークホルダーで検討するべく今後も活動を続けて参ります。
Author: 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 岡本直樹(インターン)
Contributors:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター ティルグナー順子(広報)