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国境を越えたデータ流通の信頼を確保するための5つの方法

パンデミックでのDFFTの重要性の高まり

パンデミックによってデジタルサービスの需要が急増しています。例えば、東南アジア地域では、感染症拡大以降、デジタルサービスを新たに利用し始めた人は3人に1人にのぼります。これは、データが国境を越えて移転することの重要性が高まることも意味します。

もしも、どの国も隣国を信用せず、「転ばぬ先の杖」とばかりに国境を越えたデータ流通を制限すれば、インターネットの世界はたちまち断片化し、崩壊してしまいます。これにより、私たちが普段利用している通販サイトの競争が低下して売られている商品が大幅に値上がりするなど、様々なデジタルサービスが不便になる恐れもあります。

こうした事態を防ぎ、国境を越えたデータ流通をグローバルに促進する上で、2019年の安倍晋三元首相のスピーチに始まった「信頼ある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust:DFFT)」は、非常に重要な概念となります。

4カ国のオンライン官民対話

とはいえ、DFFTという構想を提唱しただけで、その理想とする世界が実現されるわけではありません。

そこで、世界経済フォーラム第四次産業革日本センターが推進するDFFT(Data Free Flow with Trust)のイニシアチブにおいて、インド、フィリピン、タイ、ベトナムにおけるオンライン官民対話を開催し、データガバナンスに関するさらなる国家間連携のあり方を探求しました。

産業構造、データ利活用で得られる恩恵、データ保護関連政策など、状況は各国で様々です。しかし、共通点もありました。4つの経済圏は、製造部門の活性化のために迅速なデジタル化を望んでおり、また、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)部門の拡大を目指して、海外市場からのデータ移転について信頼性を担保する手段を求めていました。

対話を通じて、国境を越えたデータ流通において信頼を確保するために重要な5つのアプローチがあるとわかりました。


1.  双方向性のある流通メカニズムの構築

各国は、自国とデータ移転先国のルールを遵守しつつ、双方向に国境を越えてデータを流通できるメカニズムの構築を目指し、迅速に相手国と協議を行う必要があります。

近年では、経済の成熟度や憲法秩序によらず、すべての国においてこのような国境を越えたデータ流通が可能であると見込まれています。

2. 監査機関の設置

各国で国境を越えたデータ流通上のポリシーとその実施状況を定期的にレビューする機関の設置を検討すると、信頼性を担保できます。このアプロ―チはG7への提案としても提出されています。

3. 国際機構との協議

長期的には、特定の国だけでなく、複数国・地域の間や、よりグローバルな舞台においてデータ流通が行われるよう、プライバシーやサイバー犯罪、データの保護の基準等の諸ルールについて議論すべきでしょう。

こうした協働を契機に貿易協定や移転メカニズムを構築し、オープンなデータ流通を確保することを目指します。

4. 規格標準化への新興国の参加

IoT、AI、ビッグデータ、オートメーションといった新技術は、急速に規格の標準化が進んでいる一方、一部の新興国がこうした議論に参加できていない現状があります。

データ流通における包括性や互換性を確保するためにも、こうした議論は新興国を含め、グローバルに行われるべきです。

5. 官民連携の促進

政策立案者が、設定したルールの影響力を理解し、さらなるデジタルトランスフォーメーションを促進するためには、政府と民間セクターが協力することが必要不可欠です。官民連携を欠いたルールはさらなるデジタルデバイドを招き、アジア全体の競争力の格差へとつながる恐れがあります。


データガバナンスのためのグローバルな協力は、一夜にして完成するものではありません。まずは隣国、あるいは重要な貿易上のパートナー国と協議を重ねて信頼を築き、一歩ずつ、新たな技術から得られる恩恵を最大化するために努力することが何よりも大切です。


執筆:Hosuk Lee-Makiyama(Director, European Centre for International Political Economy)、Kimberley Botwright(Community Lead, Global Trade and Investment, World Economic Forum)

翻訳・編集:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 松下雄飛(インターン)

企画・構成:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)

※ この記事は、下記アジェンダブログの日本語による紹介です。



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