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データ利用への不信の克服に向けて

市民は自身のデータをコントロールできているとは感じていない」。こうした課題の解決に貢献すべく、2021年12月15日、世界経済フォーラムは、新しいツールキットを発表しました。


この記事では、ツールキット開発の背景にある問題意識や概要を共有するためのアジェンダブログ「How to overcome mistrust of data」をご紹介します。
原文はこちら↓


より明確でユーザーフレンドリーな同意取得を

データ・エコシステムは莫大で複雑です。私たちが日々利用している業務機能やアプリケーションが動く舞台裏は、複雑で錯綜しています。経験豊富な専門家でさえ、それをはっきりと説明しきるのは困難です。では、データの源となっている「普通の個人」が、自分のデータを提供するかどうかについて、情報に基づいて判断することを、どのようにすれば期待できるでしょうか?

データの利用許諾を得る際に、より多くの選択肢を示すと、説明が複雑すぎたり、個人が理解するのに難しすぎたりするという人もいるかもしれません。しかし、そうした前提は、より明確でユーザーフレンドリーな同意管理のエクスペリエンス(体験)を作らないことの正当化としては、もはや受け入れがたいものです。

既存市場の多くは、データが中核的な資産となっていますが、それはデータが生成・収集されていることに関する一般市民の認識が乏しい時代に設計されたものです。しかし、その時代は過ぎました。現在、無認知は無関心へと移行し、そして不快感や不信感へと急速に移行しています。

ユーザー側で高まる不信感

トラストが低下しつづけることで、プライバシー・テックのような新しい市場への道が拓かれましたし、大手ハイテク企業やハードウェア企業によるcookieのブロッキングが行われるようにもなりました。規制当局も、こうした動向に注目し、対応しています(訳註:第三者が発行する cookie を利用すると、複数のWebサイトを横断してユーザーの行動を追跡・把握でき、より効率的に広告を表示することができますが、プライバシー保護の観点から利用禁止が進んでいます)。

近時の「Visa 2020 / 2021 消費者エンパワーメント調査」によると、米国、英国、オーストラリア、シンガポール、コロンビアの消費者の 68% が、ユーザー自身よりも企業の方が、個人データからの利益を享受していると考えています。

データ利用からより多くの利益を享受しているのは誰か?

こうした利益の不均衡があるとユーザーが捉えているため、データをもっとコントロールしたいという欲求は高まっています。どのようにデータが収集・利用されるかの認知が高まるとともに、データ・エコシステム内の既存組織に対する不信感が募っているのです。

VISAによる前掲の調査によると、消費者の76%が、少なくともデータをコントロールする選択肢を望んでいることがわかりました。さらなるコントロールの選択肢を提供すれば、無関心と不信感は個人のエンパワーメントに移行できます。

消費者はデータコントロールの選択肢を望んでいる


「同意とトラスト」フレームワークを確立する

共通目的(common purpose)のためのデータ連携は、システム、ガバナンス・プロセス、ユーザー・エクスペリエンスを設計するためのまたとない機会を提供し、すべての利害関係者、とりわけ個人間のトラストを生み出すことができます。そして、トラストを獲得するためには、技術アーキテクチャ、内部統制、ユーザーとの対話という3つの基礎的な領域に注目する必要があります。

最新の白書「共通目的データ:同意を利用したトラストの構築(Data for Common Purpose: Leveraging Consent to Build Trust)」では、「同意とトラスト」フレームワークを示しました。
共通目的だけでなく、より重要な 「一般に理解された(commonly understood)」 目的をも支えようとしており、データ連携における同意メカニズムを設計すべく、様々なアプローチを特定・検証しようとしています。

データ連携に対する個人のトラストを向上させるためのフレームワーク


このフレームワークは、データ連携における個人のトラストを向上させるため、様々な機会と考慮事項の全てに関する仕組みづくりを狙いとしています。このフレームワークは以下の質問に答えなければなりません。

  • 個人がデータ使用状況を自己監査するための選択肢は?

  • 特に同意に関する選択肢に関して、紛争のマネジメントのためにどのようなリソースと手段が確立されているか?他の紛争プロセスとどう比較し、どう相互作用するか?

  • データ連携において、個人のアイデンティティとデータを保護するために、どのようなプライバシー強化技術(privacy enhancing technologies)が存在するか?

  • データ連携において、規定されたユースケースに必要なデータをどのようにして伝えるか?

  • データの収集・利用・提供において、その最小化を促す技術が存在するか?

  • こうした技術の限界は何か?

  • データ連携環境の複雑性を個人がコントロールできるようにするために、どのような対策が講じられているか?

  • これらの対策はどのように個人に伝えられているか?


第一歩として、「エンパワー・ファースト」な同意を

イノベーションを広げるには、データの新たな利用が必要です。そして、急速に変化する規制要件に対応し、個人のトラストを強めるには、同意のマネジメントを見直すことが不可欠です。
トラストがなければ、個人がデータを共有する可能性が低下してしまいます。さらには、官民の共通目的のためにますます重要な分野になりつつあるデジタル経済への参画に消極的になってしまうでしょう。

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターの工藤郁子が「Good Data: Sharing Data and Fostering Public Trust and Willingness」で述べたように「信頼が強く意識されるのは、それが壊れ失われつつあるとき」です。
このような事態を回避するには、同意のマネジメントに関する「エンパワー・ファースト」アプローチが不可欠です。そこでは、データ・イノベーションの歩みと調和を図りながら、ユーザーのコントロールとデータの最小化をしていくことが中心に据えられます。


執筆:キンバリー・ベラ(世界経済フォーラム第四次産業革命センター フェロー)
翻訳:
郭弘一(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター インターン)
企画・構成:工藤郁子(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター  プロジェクト戦略責任者)





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