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IT調達改革はなぜ必要か

アジャイルガバナンスチームでは、調達に関わる官公庁、ベンダー、海外の有識者など様々なステークホルダーと共に「公共調達改革プロジェクト」に取り組んでいます。公共調達というテーマは、一見関連が薄いものの、デジタル臨時行政調査会が出したデジタル5原則の一つとして注目を集めるアジャイルガバナンスを実現するために、避けて通れないテーマです。本記事では、なぜ今IT調達改革が必要かを整理していきたいと思います。

公共調達とは

公共調達とは政府が物やサービスを民間から購入することを指します。どのような条件で発注するかを定める仕様書(要件定義書)には、市場の方向性を決めるソフトローとしての機能があります。公共調達には概ね各国のGDPの15〜20%が費やされ、この巨額の資金をどう使うかは、公的部門の効率化だけでなく、戦略的な政策の推進、市民との信頼醸成に寄与する重要な政策ツールです。

重要性を増すITシステム調達

公共調達の中でも年々費やす金額が増加し、重要性を増しているのがITシステムの開発・運用のための調達です。新型コロナ感染症対策の中で、私たちはデジタルガバメントが進んだ国とそうでない国のギャップを目の当たりにし、日本でも行政DXの重要性が社会の共通認識になりました。ここでいう行政DXは、行政サービスのデジタル化、政治家・行政職員の日常業務のデジタル化、規制のデジタル化を指します。

これらのデジタル化を推進するには、それを可能にする組織体系、業務プロセス、評価基準の抜本的改革を前提とした上で、ITシステム調達の成否が鍵を握ることはいうまでもありません。

アジャイルガバナンス推進には公共調達改革が不可欠

また、第二回デジタル臨時行政調査会で採用されたデジタル5原則の中にアジャイルガバナンス原則(機動的で柔軟なガバナンス)が盛り込まれました。変化対応を前提としたガバナンスの構築を可能にするために、調達にも以下のような変化が求められています。

(1) 急な社会要請に柔軟かつ迅速に対応できる体制
(2) モジュールでの受発注 
(3) AI等の新技術の採用 

(1)急な社会要請に柔軟かつ迅速に対応できる体制

新型コロナ感染症対策において、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)やワクチン接種記録システムなど非常に短い期間でのシステム開発とサービス運用が求められました。こうした社会要請に迅速に対応し行政サービスを提供するためには、従来のように、詳細な仕様書を買い手である行政が詳細に定め、数週間の公募期間を踏まえ調達するという従来のやり方から、必要な機能(サービス・人材)を外部から即時に調達できるような体制を整える必要があります。

また、政府情報システム改革検討会でも指摘されているように、ITシステムの企画・要件定義段階での見積額には不確実性を伴います。そのため、決められた予算の枠組みではなく、開発の段階に合わせ漸次的に予算枠を調整していくようなことも求められます。

(2)モジュールでの受発注

ソフトウェアの世界では、サーバーからアプリ、保守対応まで一社が担いリスクを負う体制から、得意とするレイヤー(アプリケーション、データベース、サーバー)のサービスを異なる事業者が個別に提供し、API等で連携することで価値提供を行う、System of Systems(SoS)へ移行しつつあります。公共調達においても、システム構築に必要な機能/サービスをモジュール化し責任分界点を明らかにした上で、カテゴリー別に契約、調達ができる仕組みが必要です。英国政府では、サービスカテゴリーごとに契約雛形(Framework Agreement)を策定し、これに合意をして審査が通っているサービスについては、中央政府、地方行政問わず、公募なしに直接購買できるとするデジタルマーケットプレイスの仕組みを導入しています。

(3)AI等の新技術の採用 

アジャイルガバナンスの実現には、AIやブロックチェーン、IoTといった技術も適切に活用し、リアルタイムでのモニタリング(データ収集、分析)や、スマートコントラクトによる契約の自動執行など、ガバナンス方法自体のイノベーションが求められます。こうした新しいソリューションの開発を成功させる手法として、問いの設定から行政、事業者が対等な関係性の中で連携し、実証を踏まえた上で調達を行うスキーム(Pre-Commercial Procurement) がEUをはじめとする諸外国でも導入されています。そして小さくはじめて、社会のニーズや課題洗い出すというプロセスを行政でも可能にすることは、新技術のみならず、ユーザー中心のサービス構築という意味でも不可欠です。

世界経済フォーラム AI・機械学習プラットフォームでは、AIサービスの調達にあたり考慮すべき10の原則を盛り込んだ「AI Procurement in a Box」を発行しており、これをベースに英国やブラジル、UAE、イスラエル等で、AIシステムの調達ガイドライン策定の試みが始まっています。

おわりに

私たち世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターでは「テクノロジーと政策のギャップ解消」をその活動目的に掲げています。なかでも公共調達というテーマが、デジタル戦略・政策の推進に大きく寄与するという事実、さらにその調達プロセスが市民との信頼醸成に寄与する重要な政策ツールとなるという点は先述したとおりです。こうした視点を踏まえ、アジャイルガバナンスチームでは、公共調達改革に向けて産官学のマルチステークホルダーとの連携のもと、コンセプトの実践・実装に向けて国内外においてさまざまな活動を開始しています。

この記事を皮切りとして、これから複数回の記事を通して海外の先進事例などを発信していく予定です。是非そちらもご覧ください!

執筆:
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 伊藤龍(インターン)・隅屋輝佳(アジャイルガバナンスプロジェクト担当)
企画・構成:
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)・ティルグナー順子 (広報)

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