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グローバルサプライチェーン強靭化のカギとなる、データ連携のアーキテクチャ 【前編】

この度、9月17日(金)に開催が予定されているJETRO主催の第2回サプライチェーン強靭化(SCR)フォーラムに、世界経済フォーラム第四次産業革命インドセンター長の Purushottam Kaushik が登壇することが決まりました。

SCRフォーラムでは、サプライチェーンとデジタル技術について産官学の取組や研究の紹介を通じ、サプライチェーンマネジメントの最先端と今後の見通しについて認識について議論されます。

Purushottam からは、インドで議論が進む、サプライチェーンデータ連携のアーキテクチャのULIP  (Unified Logistics Interface Platform) の取組みを紹介する予定です。

SCRフォーラムへの参加は、事前登録制です。

日時:2021年9月17日(金曜) 13時00分~17時00分(日本時間)
場所 :オンライン開催 (ライブ配信)/ YouTubeにて配信
JETRO申し込みサイト https://www.jetro.go.jp/events/bda/bb3b3c113232e8d5.html

SCRフォーラム開催に先立ち、本記事ではサプライチェーン×データに関する最新の世界での状況と今後想定される課題について紹介していきます。


1. なぜ、今、サプライチェーンが脚光を浴びているのか?

サプライチェーンとは、プロダクトやサービスが消費者の手元に届くまでの一連の企業間活動のプロセス全体がチェーン(鎖)のように連なっていることを指す概念です。個々の企業がそれぞれ調達・製造・出荷という各プロセスを持ち、複数の企業を経由し鎖状(チェーン)として連なった先で、最終製品として消費者の手元にプロダクトやサービスが届いていきます。

サプライチェーンの例(衣類):原料の綿やシルクを作る農家やポリエステルを作る化学メーカー>糸を作る繊維企業>糸を使って生地を編む企業>生地を裁断・縫製し服にする工場>出来上がった服を工場から店頭に送る小売業

更には、それらの企業をつなぐ陸運・海運業や倉庫業もサプライチェーンの一部を担っています。このように、サプライチェーン上の企業内でそれぞれが複数の注文をさばき、物の形を変え、次に送り出すという活動が連続していきます。

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かつてサプライチェーンは地域内で多くが完結していましたが、21世紀に入り、世界全体が複雑につながるよう進化してきました。中国が世界の工場と呼ばれたように、国を跨いで最も良い条件で物を消費者に届けることが企業間の競争優位達成の観点から必須となり、グローバル調達・生産・物流を活用することが一般的となりました。

先進国は経済の高度化、新興国は労働集約型産業の誘致を通じた経済成長の達成というように、国際的な思惑もかみ合い、国際貿易の枠組みもより自由化が進展してきました。例えばRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership)のような多国間貿易の枠組みの整備も進んできたことが、この動きに対応します。

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しかし、最近ではサプライチェーンが世界でつながっていることによって世界規模に影響する問題が生じています。

グローバルな課題の例:COVID-19のワクチン供給での混乱や世界的な半導体不足といったサプライチェーンの分断。脱炭素化の流れによる長距離輸送に対する社会の逆風。新興国工場での労働環境への社会的注目など。

COVID-19では、ワクチンがいつ何箱入ってくるかといった国際間貿易の課題や、国内でのコールドチェーンの構築・管理といった困難さが露呈しました。また、脱炭素の世界的な動きの中で物の移動に関わる温室効果ガス排出は全体の10%を占め、大きな排出源となっている一方で、宅配は右肩上がりに増加しており更なる輸送需要の増加が今後も見込まれており課題となっています。更には、人権の問題もここにきて様々な問題がクローズアップされてきました。例えば、ユニクロが輸入する綿製の衣料製品が新疆の人権問題の規制によりアメリカに輸入を拒否された問題では、最終的なメーカーにすぎないユニクロ側に使用されている綿が強制労働に関係していないという証明が求められました。

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2. 最大の武器となる、データ連携

サプライチェーンの高度化はテクノロジーの相性と非常に良いと考えられており、世界では様々な取り組みが進んでいます。その中でも、データ連携が最大の武器とされています。物流という観点では配送ルートの効率化や積載効率の最適化、また受発注や生産管理という観点では高度なアルゴリズムやデジタルツインといった技術が企業内において実用化され、大きな成果につながっています。

他方で、こういった経済的ベネフィットの刈り取りの取組みのほとんどは依然として企業内に留まっています。これはサプライチェーンのデータが基本的には企業内に閉じたものとしてこれまで管理・活用されてきたからということも影響しているでしょう。

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少しずつではあるものの、企業横断の取り組みも始まりつつあります。その動きの中で、サプライチェーンのデータをプラットフォーム上でまとめ上げる主導権を握ろうと一部のテクノロジー企業間の競争も激しくなってきています。

複数企業のサプライチェーンデータを活用した協調の事例:日本のSIPのプロジェクトは、消費財企業と卸売業、物流企業、小売り企業がデータを連携させての協働配送や需要予測の精緻化に着手しています。
単一のテクノロジー企業によるプラットフォーム化の事例:アリババは、小規模生産者間をつないで誰でも商品を少量・多品種で生産・販売できるようにするサービスを提供しています。

究極的にはフィジカルインターネットのように、物流網がハブ・アンド・スポークから現在のサイバー空間上のインターネットの仕組みのように有機的に結合することで、効率化していく可能性も見えてきています。最近のアメリカの大学の研究では、現状のハブ・アンド・スポーク方式の輸送から、小型トラックによるリレー形式の輸送で物を送るほうがコストもリードタイムも大幅に削減できるというシミュレーション結果が報告されています。

しかしながら、データ通信のパケットのように輸送単位を現在のコンテナよりも大幅に小さく標準化するといった社会インフラの大掛かりな変更も伴うため、実現にはまだ時間がかかる見込みです。

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3. サステナビリティの観点からサプライチェーンの見える化・信頼の保証は急務

経済的なメリットに限らず、サステナビリティの観点からも最終的な製品が作られるまでに、サプライチェーン上の各主体でどれぐらいの温室効果ガスが排出したのかという情報や、人権問題のある地域で製造されていないかの証明が社会的により強く求められるようになってきています。

温室効果ガスでは炭素税の導入も世界的に検討が進められており、より精緻で信頼できる温室効果ガスの排出の見える化への要請は高まっていくとみられます。既に一部の業界、例えば自動車産業では先行的な取組みが進んでいます。

ケーススタディ(トヨタ):トヨタでは排出量を見える化するためのツールをサプライヤーに提供しはじめており、VWもサプライチェーン間のデータ共有を進める「カテナ-X」に参加するなどしています。

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別の視点では、新疆綿に関する国際的な不買運動やその後の対応に追われる企業活動、違法な長時間の児童労働の抑制に対する発注者側に求められるサプライチェーンの監督責任の高まりも、末端に至るまでのサプライチェーンの可視化・信頼性の担保への圧力の高まりの証左です。

ケーススタディ(UNDP):国連開発計画(UNDP)は、エクアドルにおけるカカオのトレーサビリティを担保しようとしています。コンゴにおけるコバルト鉱業において、ブロックチェーンを活用し、データの修正を誰が、いつ、どのように修正したのかを記録し、サプライチェーン全体を通して管理するような取組みも進んでいます。

このような社会の高まる要請に対し、抜け漏れのないサプライチェーンの可視化・信頼の保証は一企業・一国だけで取り組むだけでなく、国際的な枠組みとして取りまとめていくことが今後必要です。

ケーススタディ(WBCSD):WBCSD(World Business Council for Sustainable Development)の動きのように、温室効果ガス(GHG)排出量に関するエンド・ツー・エンドのバリューチェーンの透明性のデータの可視化を推し進める地域内の企業横断の取り組みも始まっており、徐々にではありますが世界的な議論が起こりつつあります。

※ 「グローバルサプライチェーン強靭化のカギとなる、データ連携のアーキテクチャ 【後編】」につづきます。


執筆:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長 山室芳剛、同プロジェクトフェロー 沈和曦


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