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グローバルサプライチェーン強靭化のカギとなる、データ連携のアーキテクチャ 【後編】

4. 企業横断のデータ連携の取組みは雨後の竹の子状態で企業から見ると混乱する側面も

前編で見てきたように、最近のサプライチェーンデータに関する世界の動きを概観すると、データの可視化と共有が、テクノロジーの進展と相まって、世界的な流れになりつつあります。どの事例を見ても、企業の持つサプライチェーン内のデータの少なくとも一部の開放・接続・共有が議論の前提となっています。

しかしながら、現状の議論はどれも国、地域内で完結し、それぞれで取得データの種類、データアーキテクチャ、データ利活用ルールの議論が行われています。特に経済的なベネフィット刈り取りについては、グローバルで事業を行う製造企業(自動車、機械)はほぼ参加せず、地域内での輸送に主軸が置かれる消費財メーカー、小売企業、物流企業が議論の中心であるようです。

また、国際貿易の貿易実務においては先行して民間主導のブロックチェーンを採用したソリューションが実装され、相互連結は加速しているように、一部のプロセスだけにおいて先行している傾向もあります。

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サプライチェーンのデータの取り扱いは、企業間の競争の源泉という側面もあり、単純に透明性を上げるアプローチでは賛同を得られず、慎重な設計が必要であるという点も強調しておきたいと思います。

今後議論が進むにつれて、センシティブなデータについてはどの企業までには共有するのか、それが意図せざる漏洩しないような対策をどうするのかといった論点や、時間経過とともに途中でスイッチオン、スイッチオフのように自由に切り替えられるのかといった議論も必要になってくるでしょう。同時に、一部の社会の共通の利益につながるデータについては世間一般に幅広くオープンにしていくといったデータ種別に応じたバランスも求められるでしょう。

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他方で個別企業の視点からこの動きをみると、結局様々な方向からくる複数の要請にこたえるためのサプライチェーンのデータの出どころは経済活動をしている1つの企業であり、同じであるという点に気を付けなくてはなりません。更には、こうした社会的な要請に応えるのは大企業に限らないことも念頭に置くと、サプライチェーンのデータの共有の議論をバラバラと進めるのは社会が負担しなければならないコストが膨大になる懸念があります。

大企業に関して言えば、例えばユニクロのように非常に関連企業間でサプライチェーンの情報・システムの統合が進んでいるところもあり、そういった企業は膨大なIT投資を実施済みで、あとからの設計の変更は大きな経営課題になり得えます。中小企業においては、まだエクセルで人力でサプライチェーンのデータを管理しているところも多々あり、今後そういった企業でどのようにデータを共有していくハードルは高いといえます。

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5. 誰もが参照できる、サプライチェーンデータの利活用に関する大きな枠組み・アーキテクチャがいま求められている

このように、全体として、サプライチェーンデータを社会として活用していくという流れが生まれつつありますが、大きな枠組みとしてサプライチェーンデータの取り扱いのポリシーやデータ連携のアーキテクチャを最上流で検討していかなければ、逆にテクノロジーの活用の浸透が進まない懸念があります。すなわち、複数のデータ共有ルール、基準が設定され、企業側で対応するための負担が増加することで、逆説的に結果として迅速な実装は進まないこととなってしまいかねません。

例えば、新たなデータ共有ルールが設定されることで、企業内のサプライチェーン管理ソフトウェアの大規模な更新(社内データの外部への接続、社内管理コード等アナログ管理の自働化など)が必要となって、企業にとって大きな負担となることが予想されます。

更には、複数の主体から様々なルール改定が通達され、そのたびに構築したシステムの改修が必要となり、作業工数が急増することもありえます。その際の負担は現在の会計システムにおける、会計基準の変更や決算期の変更といったレベルのものであり、非常に時間もコストもかかります。

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別の観点では、データの取得・管理ルールが地域・規制主体によって異なるために、データの意図しない流出が発生し、企業が競争上の不利益を被るリスクもあります。システムの開発側に立てば、サプライチェーンデータのオープン化に必要な要素技術が並行して様々な取組み内で検討、開発されるため重複が発生し非効率となります。

このような懸念に対して、世界、地域、国、産業といった複数のレイヤーでのデータに関する議論・検討をつなぎ、実際に対応する企業が右往左往することのないようなサプライチェーンデータの開放・接続に関するアーキテクチャがあれば、社会的なコストを大幅に下げることが可能になるのではないでしょうか。

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すでに国レベルでは、例えばインドのULIP  (Unified Logistics Interface Platform) はそういった構想に基づいて進められています。これはインディア・スタックで見られるように、オープンでインターオペラブルなアーキテクチャを構築することにより、巨大企業がデファクトスタンダードを作り上げ、社会全体として非効率となるリスクを低減させるというアプローチです。

インドは既にこうしたアプローチを世界に先駆けて成功させているデジタル一大大国で、インド太平洋における重要国としての存在感を高める中、地域大のデジタル・アーキテクチャをリードする役割も今後益々増していきます。まさにULIPの事例のように、有力国が青写真を描きつつ、国際的なインターオペラビリティを確保していくような枠組みも同時に議論していくことが求められています。

こうした観点で、日本とインドが、より緊密な関係の下で地域大のサプライチェーン強靭化のアーキテクチャをつくりあげていくため、世界でも先行的な取組みであるULIPに日本政府・日本企業が積極的に参画することが重要な一手となるでしょう。

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執筆:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長 山室芳剛、同プロジェクトフェロー  沈和曦


この度、9月17日(金)に開催が予定されているJETRO主催の第2回サプライチェーン強靭化(SCR)フォーラムにて、世界経済フォーラム第四次産業革命インドセンター長のPurushottam Kaushik よりインドで議論が進む、サプライチェーンデータ連携のアーキテクチャのULIP(Unified Logistics Interface Platform)の取り組みの最新状況をご紹介します。

ご興味・ご関心のある方は下記URLより参観登録ください(SCRフォーラムは事前登録制となります)。

日時:2021年9月17日(金曜) 13時00分~17時00分(日本時間)
場所 :オンライン開催 (ライブ配信)/ YouTubeにて配信
JETRO申し込みサイト https://www.jetro.go.jp/events/bda/bb3b3c113232e8d5.html

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