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各国が推進する「データ取引市場」関連最新動向

データは、AIを育て、マーケティングや製品開発を駆動し、実体経済を支えています。現在、データの取引は、個別の領域ごとにやりとりすることが中心です。しかし、卸売市場や証券取引所のように、様々なデータを取引できる場を創設する構想が浮上しています。そして実は、いくつかの国では、すでに先行事例も生まれています。

前回の記事では、2021年6月に閣議決定された「包括的データ戦略」において、日本のデータ戦略の全体像が初めて示され、とりわけデータ環境整備の具体策として「データ取引市場」が注目されているとご紹介しました。

今回は、各国で試行が進みつつあるデータ取引市場の取組みについて概観します。


AI向けのデータセットが取引される「北京国際ビッグデータ取引所」

中国では、データ取引市場がすでに定着しつつあります。中国政府による強い後押しもあり、各自治体や民間企業によって2001年ごろからデータ取引市場が創設されはじめ、現在、10以上の取引所で、金融、エネルギー、モビリティ、農業、観光、教育、ヘルスケアなど多分野のデータセットや分析結果などが売買されています。

例えば、中国における車載カメラの画像データ(道路、通行人、車両、信号機、標識のアノテーション付き)が取引され、道路状況を検知するAIの教師データとして利用されています。

データセットが取引されるだけでなく、データの収集代行、加工(クレンジングやアノテーション付与)、品質評価、APIの構築などのサービスも提供されていると報告されています

直近では、2021年3月、「北京国際ビッグデータ取引所(Beijing International Big Data Exchange)」が設立されたことが話題になりました。資本金は、2億元($30.46 million )で、国際的なデータ流通のハブとなることを計画しているとされています。

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ルール、システム、エコシステムの一体的整備を進める欧州「GAIA-X」

欧州では、データ基盤プロジェクト「GAIA-X(ガイア・エックス)」が2020年6月に発足しました。背景には、GDPRをはじめとする法制度はできてきたものの、実際のクラウドサービス市場は欧州外のプレイヤーに席巻され、「データ主権」が脅かされており、このままでは「絵に描いた餅」になりかねない、との課題意識があります。

GAIA-Xの特徴は、ルールとシステムとエコシステムを一体的に整備する点にあります。

ルールとして、パーソナルデータを保護するGDPRだけでなく、さまざまな法案が検討されています。例えば、データ媒介者(Data Intermediary)を規制することによってデータ取引の信頼性(Trust)を確保する「Data Governance Act」が提案されていたり、企業間(BtoB)や企業・行政間(BtoG)の公正なデータ共有に関する規律「Data Act」が提案されています。こうしたルール整備を進めることで、「自動車の走行履歴や家電の使用履歴に関するデータは誰のものか?」などの疑問に答えて権利の所在を明確できます。製品やサービスの提供側に有利になりがちな契約慣行の公正化を図ることも期待されています。

また、システムとして、データ連携基盤の整備が進んでおり、データの開示や利用権限を制御するツール(「IDSコネクター」)の提供も推進されています。業界横断のデータ流通を容易に行える標準・認証の仕組みが構築されつつあります。

エコシステムの形成は、実証への投資として行われる予定です。エネルギーやヘルスケアなどのユースケースを想定しつつ、2024年末までに合計で約1億9,000万ユーロの拠出が見込まれています。そして、エコシステム形成のためにデータ取引所の創設が目指されています。

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DCPIの取組み:コロンビア、インド、ノルウェイ、日本

世界経済フォーラムが推進するDCPI(Data for Common Purpose Initiative:共通目的データ・イニシアチブ)では、コロンビア政府と提携して、データ取引市場に関するムーンショット・プロジェクトを推進しています。データの評価(Data Valuation)に焦点を当て、データに経済的価値を割り当てるためのメカニズムの検討・提供を目指しています。

さらに、第四次産業革命インドセンター農業データに着目し、ノルウェイを拠点とする同海洋センター海洋データに着目した取り組みを進めています。

そして、第四次産業革命日本センターは、データ取引所に関するガバナンスインフラ、特に、売り手と買い手の「仲介者」の役割と責任に着目して、取組みを進めています。詳しくは、後日改めてご紹介したいと思います。

私たちのグローバルなイニシアチブが、日本政府の「包括的データ戦略」で取り上げていただいたことは、先日の記事で触れた通りです。包括的データ戦略で述べられたデータ取引市場の3点のポイントは、私たちの分析とも、方向性を共にしています。


世界各地で広がりつつあるデータ取引市場ですが、さまざまなチャレンジも存在します。そうした課題への対応についても、引き続き情報発信していきます。ぜひ今後ともご注目ください。


企画・執筆:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター プロジェクト戦略責任者 工藤郁子


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