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包括的データ戦略とデータ取引市場構想

6月18日、政府初の「包括的データ戦略」が閣議決定されました。世界トップレベルのデジタル国家を目指すための包括的データ戦略が、理念、ビジョン、行動指針、そしてアーキテクチャとしてのレイヤー構造とともに明らかにされています。また同戦略のなかでは政府資料として初めて「データ取引市場」の構想が登場し、国際的にも注目を集めています。

原文はこちら(「別紙」参照)↓


世界各国で進む「データ戦略」の策定・推進

欧州、米国、英国、中国など、現在、世界各国でデータ戦略の策定と推進が進んでいます。その背景には、データこそが、国の豊かさや国際競争力の基盤になるとの現状認識があります。

そのため、各国のデータ戦略は、データの利活用環境の整備や投資戦略、データ利用への懸念に対応する国内ルール形成などを示すだけに留まりません。それらに加えて、システムや制度の輸出、国際標準化、国家間の合意形成といったグローバルへの展開戦略も盛り込まれていることがほとんどです。

翻って、日本では「デジタル社会実現の中核となるデータについて焦点を当てた戦略の不在」が続いていました。

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初めて示された、日本としての包括的データ戦略

2020 年10 月よりデータ戦略タスクフォースで議論を開始され、「第一次とりまとめ」で課題の頭出しが行われました。これを受けて、今回の「包括的データ戦略」において、日本のデータ戦略の全体像が初めて示されたことになります。

包括的データ戦略の理念、ビジョン、行動指針は次の通りです。

理念:信頼と公益性の確保を通じて、データを安心して効率的に使える仕組みを構築するとともに、世界からも我が国のデータそのものやその生成・流通の在り方に対する信頼を確保し、世界で我が国のデータを安心して活用でき、また、世界のデータを我が国に安心して預けてもらえるような社会
ビジョン:フィジカル空間(現実空間)とサイバー空間(仮想空間)を高度に融合させたシステム(デジタルツイン)を前提とした、経済発展と社会的課題の解決を両立(新たな価値を創出)する人間中心の社会
行動指針:
・ データがつながり、いつでも使える
・ データを勝手に使われない、安心して使える
・ 新たな価値の創出のためみんなで協力する

こうした基本的な考え方に基づいて、インフラからルールに至るまで構造的・網羅的・整合的なデータ環境整備の具体策が示されています。

注目される「データ取引市場」は、アーキテクチャのプラットフォーム層(下記3・4層)に登場しています。

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データ取引市場とは

データ取引市場について、包括的データ戦略ではそのコンセプトを下記のようにまとめています。

ここでいうデータ取引市場とは、データアクセス権等を設定し、公正・中立で信頼できる運営事業者がそれらの取引を仲介することにより、データ流通の活性化とダイナミックな市場形成を実現するものを想定する。

その必要性は、適切なマッチングの増進取引に関するトラストの担保にあります。

つまり、データ流通では一般的に、企業同士がそれぞれ個別に(相対で)やりとりするだけでは、データの利用者・提供者ともに取引相手の発見機会が乏しいといえます。しかし、よく知らない相手とのマッチングは、データ提供者・データ利用者ともに不安になって、何らかの手当がないと、うまく成立しません。

加えて、取引されるデータの権利や品質が明確でなければ取引を躊躇してしまうなどの課題があるとされています。

そこで、データ取引市場の運営事業者が、中立な立場から、取引の安全と信頼を担保することが重要になります。つまり、関係者の利害・関心の整理状況の担保、契約項目の明確化・標準化、取引プロセスの正当性の担保等、公正な取引が担保される措置を講じることで、こうした課題を解決することが期待されています。

まず、データ取引市場の運営事業者は公正・中立である必要がある。 次に運営事業者が提供すべき機能としては、時々の状況に応じた契約条件 の変更に対してより柔軟に対応できる契約支援機能、及び一定期間の様々な 取引を一括して処理するクリアリング機能等が考えられる。さらに、市場機 能の利便性の向上や投資家の裾野拡大のための取組も求められる。今後、こ れらの市場の運営事業者の要件を確保する方策を検討する必要がある。


データ取引市場の3つのポイント

包括的データ戦略で述べられたデータ取引市場のポイントは以下3点です。

① データの価値を最大限に活かすために、様々な関係者が参加してデータを利用できる権利(アクセス権)を取引する『データ取引市場』が必要

② 市場が正しく機能するために、市場参加者が簡単に、そして安心して取引に参加してもらうためことが必要

③ そのため、取引市場を運営する事業者の要件(公正・中立性の確保、契約支援機能の提供等)を明確にすることが必要

証券取引所や商品先物市場といった市場をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。

とはいえ、扱われる財の性質が異なりますから、市場におけるルール、機能分担、責任のあり方も異なってくるでしょう。そこで、現在、実証実験やパイロット・プログラムなどが各国で推進されています。


「包括的データ戦略」にDCPIが登場!

世界ではデータ流通のための新たな取組みとして、データ取引市場への試みが加速しています。

同戦略では、欧州のGAIA-X、中国の北京国際ビックデータ取引所に加えて、世界経済フォーラム第四次産業革命センターのDCPI(Data for Common Purpose Initiative)を取り上げていただきました。

特にWEF の第四次産業革命センターにおいて、データ主導型経済への移行促進手段のひとつとして、政府が主導するデータエコシステム構築に向けた調査を行っている。この取組では、データ取引市場の構築の可能性や試験運用を目指すにあたっての主要な技術、産業分野や政策的位置付けの特定等が行われており、コロンビア、インド、ノルウェー、日本などの国々が参加している。
コロンビアでは、2020 年の初めに第四次産業革命コロンビアセンターのムーンショットプロジェクトとしてデータ取引市場のモデルのコンセプト化が開始された。(中略) DX とデータ経済に資するData exchange platformの設計がなされており、2021 年後半にアーキテクチャ、法的、倫理的枠組み、既成や技術要素等が発表される予定である。
インドでは、第四次産業革命インドセンターが、インドにおけるデータ経済の構築に向けて、政府などの関係者と連携した取組が行われており、近々に「Towards a Data Economy through DCPI」と題した文書が発刊される予定である


加速する市場構想

本記事でご紹介したように、データ取引市場の原点には「データを安心して効率的に使える仕組みがない」という課題があります。そして国境を簡単に超えるというデータの性質を考えれば、グローバルな枠組みと連携は必須です。

データ流通というデジタル社会の中核テーマへの取組みとして、データ取引市場という構想も、その実現に向けて加速していくことが予想されます。

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターでは、このテーマを引き続き情報発信していきます。ぜひ、注目ください。


世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター ティルグナー順子、野田由比子(フェロー)、工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)

世界経済フォーラム第四次産業革命センター(サンフランシスコ) 中西友昭(フェロー)



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