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Innovation for Healthy Ageing-最大多様の最大幸福-

「超高齢社会」というテーマにおいて課題先進国である日本。しかし、世界の多くの国々でも、この超高齢化という問題は確実に迫っています。こうした状況下、G20 Global Smart Cities Allianceが提唱するスマートシティ5原則では「Equity(公平性), Inclusivity(包摂性) and Social Impact(社会的インパクト)」に焦点を当てていますが、超高齢社会において、データやテクノロジーによって多様性、包摂性そして持続可能性を併せ持つ社会を実現するにはどうすれば良いのでしょうか。グローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミット(GTGS)開催記念セッション”Innovation for Healthy Ageing-最大多様の最大幸福―”と題し、産学官民のエキスパートが議論を行いました。 

注目!セッション動画を本記事の最後で公開しました。     

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登壇者(敬称略)

慶應義塾大学 教授 宮田 裕章(モデレーター)
SOMPOホールディングス 介護・シニア事業オーナー 執行役 笠井 聡
福岡市長 高島 宗一郎 
ブロードバンドスクール協会理事 若宮 正子

介護人材、あと4年で38万人不足

「介護人材の不足」。Healthy Ageing実現に向けた課題は?という問いに対して偶然にも、SOMPOホールディングスで介護・シニア事業を担う笠井氏と福岡市長の高島氏から同じ答えが返ってきました。「2025年には介護人材約200万人に対して2割に相当する38万人が不足する」と、眼前に迫った課題を笠井氏は示します。大手の介護事業者のSOMPOや、政令指定都市の中でも若者が多いイメージがある福岡市にとっても、介護人材不足が対岸の火事ではないことが課題の深刻さを物語っています。

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デジタルは効率主義や高齢者切り捨てではない

「デジタルは効率主義や高齢者切り捨てと言われるが、決してそうではない。むしろ、災害時の防災無線による避難勧告など、現状の方がよほど個々人に寄り添えていない」そう語るのは、デジタルの利用による高齢者の社会参画を進める活動に従事し、「世界最高齢プログラマー」としても知られる若宮氏。

笠井氏は高齢者ニーズの多様化による「質」への対応として、介護現場のDXの重要性を語りました。一見両立が難しそうな、「介護人材不足(量)と、多様化ニーズへの対応(質)の問題を解決するのがデータ」だと言います。利用者の状態を正確かつ詳細に把握することで、一人一人に合った適切なケアの計画と実行が可能になります。高島市長からはAIを使ったケアプラン構築によって、ケアプランナーに求められる高度な知識や経験を、データがサポートすることが可能となってきている事例が紹介されました。

「むしろ、シニアにこそデジタル・データの活用が必要である」と宮田教授。行政・民間問わず様々な分野で、データの活用により個に寄り添い、より効果的な価値の提供が可能となります。

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福岡市ではDXデザイナーを採用

超高齢社会でのデータやデジタル活用において常に大きな問題となるのが、デジタルデバイド。「誰も取り残さず、高齢者を社会に包摂するにはどうすれば良いのか」が論点となりました。

デジタルデバイドはユーザーインターフェース(UI)の問題」と話すのは高島市長。福岡市では、自治体のサービスをローンチする前に、デジタルやITが苦手な方でも使えるか、ユーザーインターフェースをチェックし改善するためにDXデザイナーを採用していると紹介。例えば高齢者向けの「らくらくホン」には文字が大きい、選択肢が少ない、分かりやすい、というUIの工夫がされているだけで、裏の仕組みはスマホと同じであると語りました。「高齢者や初心者でも使えるか、チェックする機能をデジタル庁に設置してほしいと要望を出した」と、デジタル改革関連法案ワーキンググループの構成員を務める若宮氏。

介護事業のDXへの挑戦にも従業員のデジタルデバイドの問題が存在しますが、ここでの経営のリーダーシップの重要性を笠井氏は語ります。また、SOMPOが実証予定の会津若松市におけるデジタルデバイド解消についても明かしました。SOMPOは保険事業と介護事業を手掛けていますが、両者を繋ぎ健康で幸せな時間を可能な限り長く過ごして頂くことに携わっていく意欲を見せました。

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高齢者が親しみやすいデバイスとは

デジタルの世界から外へ飛び出していき、外にいる人たちを引き寄せてくることが必要」と若宮氏は訴えます。インターネットを利用しない人に向けてYoutube等を用いた情報発信をすることは無意味です。「ボタン一つでテレビを媒体としたネットへのアクセスを可能にするなど、高齢者にとって親しみやすいデバイスによって、世界観は変わる」と笠井氏は語ります。

「電子決済でお年玉を送金するとポイントが2倍になるという仕組みを作ったところ、シニアユーザーが爆増しユーザーが数億人増えた」と中国の事例を慶應義塾大学の宮田教授が紹介。利用シーンをデザインすることの重要性も指摘されました。

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支える側と支えられる側のバランスが崩れる超高齢社会での持続可能性を担保するには

シニアの人にこそデジタルやテクノロジーが必要であり、データの活用で多様性と包摂性の実現が可能だという議論が展開されてきました。

超高齢社会では、支える側と支えられる側のバランスが崩れます。「いかに多くの人が支える側に長く留まるか、あるいはそのバランスが崩れてもデータとテクノロジーにより効率化し、支える側の不足をどうカバーできるのか」と高島市長は語ります。これらの問いに向き合うことで、持続可能な社会の構築が見えてきます。

アナログが大事

そしてデジタル、テクノロジーの恩恵を高齢者に届けるためのラストワンマイルには、アナログが重要です。介護におけるデータやテクノロジーの活用は介護職員が個人に寄り添うという価値あるアナログを実行するための時間を作るためであり、またデジタルデバイド解消のためのスマホ教室には地域の絆というアナログなつながりがなければ人は集まりません。

本セッションのテーマ「最大多様の最大幸福」を提唱する宮田教授は「大量消費社会から、経済合理性だけではない多様な豊かさを実現する社会を目指し、多様性、包摂性、持続可能というテーマのもとに仕組みを作り替える時期を迎えている」と締めくくりました。

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おわりに

実際にテクノロジーやデータの活用を広げていくためには、「我々は変わらなければならない」と、最後に若宮氏は強く訴えました。これは、高齢者だけに対するメッセージではありません。限られた資源の中で、人にしか出来ない価値あるアナログサービス続けていくためには、データやテクノロジーによって生産性を高めることへチャレンジすること、そのためにはこれまでのやり方を変えなければならない部分が出てくることを医療や介護現場も受け入れていく必要があります。

医療や介護における生産性とWellbeingの両立や、防災減災のためのデータ・テクノロジーの活用への挑戦はまだ道半ばですが、一朝一夕にできるものではありません。一方で生命や身体に関わるサービスへのデータやテクノロジー活用には様々な議論や世論が起こります(*)。しかしいま、この歩みを止めてしまうことは将来、高齢者にとってデストピアになりかねません。これは高齢者や自治体、医療介護事業者だけの課題ではなく、私達自身の課題です。


(*)データの活用に対する様々な議論や世論に対する処方箋のヒントを知りたい方は、世界経済フォーラム発行の「Good Data -- Data Sharing, Public Trust and Willingness」をご参照下さい。

日本語版:http://www3.weforum.org/docs/WEF_Good_Data_JPN_2021.pdf

英語版:http://www3.weforum.org/docs/WEF_Good_Data_2021.pdf


本セッションの動画はこちらからご覧ください(00:54:41)。

G20 Global Smart Cities Alliance https://globalsmartcitiesalliance.org/
   

Co-author: 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター ヘルスケアデータ政策プロジェクト 鈴江康徳(フェロー)、井潟瑞希(インターン)

Contributors: 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター ティルグナー順子(広報)



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