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年次総会(通称ダボス会議)2022 - データエコシステム

2022年5月、世界経済フォーラムの年次総会が開催されました。約2年半ぶりとなるスイス・ダボスでの開催です。公開配信されたセッションのうち、データ・AIエコシステム関連のものをいくつかご紹介します。

今回は、現地時間で5月23日夕方に行われたセッションBuilding Responsible Data Ecosystems(責任あるデータエコシステムの構築)です。

社会のためのAIに関するセッションはこちら↓

官民データ連携に関するセッションはこちら↓


登壇者

下記のスピーカーの皆さんにご登壇いただきました(敬称略)。

Nicholas Carlson - Global Editor-in-Chief, Insider
André Kudelski - Chairman of the Board and Chief Executive Officer, Kudelski Group
Brett Solomon - Co-Founder and Executive Director, Access Now
Christian Lanng - Chief Executive Officer, Chairman and Co-Founder, Tradeshift
Subha Tatavarti - Chief Technology Officer, Wipro Limited


中小企業も巻き込んだ、データエコシステムの構築

冒頭でモデレーターである Carlson 氏 は、魚が水の存在を認知していないという比喩を用いて、データがとても身近なものになっていることを確認。
その上で、データ利活用をどのように行っているか尋ねました。

Nicholas Carlson - Global Editor-in-Chief, Insider

Tatavarti氏 は、自社サービスについて企業のトップライン・ボトムライン双方の底上げにデータを用いていると説明しました。なお、同氏 がCTOを務める WiPro社 は、インドのバンガロールに本社を置くITサービス企業で、日本でも1998年から事業提供をしています。
また、AI分野に進出する際にその基盤としてのデータ活用を行なっているとも述べました。

Subha Tatavarti - Chief Technology Officer, Wipro Limited

「中小企業やグループ経営について、今後どのようにデータエコシステムが発展していく必要があると考えているか?」を問われたのが Kudelski 氏 です。
同氏が会長・CEOを務める Kudelski Group は、スイスを拠点に、デジタルセキュリティや統合メディアシステムを提供しています。
ルールとエコシステム構築の順序について、欧州と米国の違いを比較しつつ、データに対して様々なアプローチが考えられると述べた Kudelski 氏。これからはデータなしでは解決策を考えることのできない局面も増えてくるとコメントしました。

André Kudelski - Chairman of the Board and Chief Executive Officer, Kudelski Group

話題は、企業の成長に寄与するような責任あるデータ利用に移りました。
190国で150万社が利用するグローバルなB2B取引プラットフォームを提供する Tradeshift 社の共同創業者・会長・CEOである Lanng 氏 は、大前提として、データを各企業で囲い込んでいるのが現状だと述べました。
そして、データを「解放(Unlock)」する必要があると主張し、あらゆる関連企業で連携していくことがより良いデータの利活用に繋がると指摘しました。また、これらは営利企業だけでなく政策立案者などについても良い影響があるはずともコメントしました。

Christian Lanng - Chief Executive Officer, Chairman and Co-Founder, Tradeshift


人権としてのデータプライバシーと適切なルール形成

責任あるデータ利用には、データプライバシーに関する取り組みが必須です。
世界中の人々のデジタル公民権を擁護すべく2009年に設立された非営利団体「Access Now」の共同創業者である Solomon氏 は、人権に関わる問題だと指摘。企業のトップや政治家がデータ利用に関するテーマを議論するとき、そのイノベーティブな側面にばかり注目するのではなく、デジタル社会における人権の根幹に関わると認識することがとても重要だと述べました。
そして、マルウェアの「ペガサス」を例に、データはニュートラルでもセキュアでもないと述べた Solomon氏 は、どれほどイノベーティブで役立つものであるとしても武器としてや人権侵害に使われてしまうこともあると警鐘を鳴らしました。

Brett Solomon - Co-Founder and Executive Director, Access Now

これに対して Lanng 氏は、「ペガサス」などマルウェアの利用は犯罪であるため別軸の話だとした上で、過剰規制のリスクを指摘しました。
例えば、従業員のメールアドレスという企業の公式サイトにも掲載されうるようなレベルの情報の開示と、社会保障番号を漏洩することに対して同等の罰金が課されていると同氏は言います。すなわち、異なるレイヤーの情報を保護するために、同じ基準が使われている点にも課題があるということです。
こうしたデータ利用制限のあり方により、商業的な発展が押し留められていると Lanng 氏は主張しました。

Christian Lanng and Brett Solomon

Tatavarti 氏は、 Solomon 氏と Lanng 氏の双方の立場に一定の理解を示しました。不必要なデータ利用の制限はイノベーションを阻害するが、一方でしっかりとしたデータの利用がなされているかのデータガバナンスを企業が怠らないこともまた重要であると同氏は述べます。
そして、データだけではなく、データと技術の両輪をもって初めてイノベーションや革新的なサービスが生まれていることにも留意したいとコメントしました。

Lanng 氏は、悪質なマルウェアと企業が自社サービスを無料でユーザーに提供する代わりに利用データを取ることとを混同してはいけないと改めて強調しました。
後者について、他の業種に置き換えて考えた時に、無料でサービスを提供する企業などほとんどないとした上で、データを集めている企業にとってはデータとサービスとの交換がビジネスモデルの一部であるため、その部分を制限している現状の制度について一度見直すべきと主張しました。

Solomon 氏は、Lanng氏の意見に納得できる点も多いとしつつ、一方で、データは個人のものであると同時に、より大きなフレームワークで捉えるとその子や孫にも関わるものであるという繊細さをもっていることも認識しておく必要があるだろうとコメントしました。

AM22 session "Building Responsible Data Ecosystems"

データ利用における同意と教育

セッションはフロアとの質疑応答に移り、サービスを利用する人々にデータ提供時の判断を委ねる方法や、そのための教育に関する質問が示されました。
この質問の前提には、データ利用について、欧米では厳しいルールがあるものの、法整備が追いついていない国が多いのも事実であり、そうした国々でビジネスを展開する際にどのようなことに留意するべきか、という問題意識があると質問者は述べました。

Lanng 氏は、ユーザーがサービス利用時に企業によるデータの提供・利用に同意する場合、説明の量を増やすとユーザー・エクスペリエンスが低下するという問題もあり、単純な解決策は存在しないと指摘。そのため、最も本質的な解決策は、教育を通してデータ関連リテラシーを高めることにあると述べました。
データに関する法整備が進んでいない国でのオペレーションに関しては、ユーザーがどこまで心地よく(comfortableに)サービスを使えているかが判断基準になるとコメントしています。

Questions from the participants


「利活用 vs プライバシー保護」を超えて

次の質問は、データの積極的利用とプライバシー保護の立場から互いに議論している状態から一歩前進し、歩み寄れるようなアイディアを求めるものでした。

Solomon 氏は、米国でデータ保護フレームワークが作られると大きなゲームチェンジャーになるだろうとコメントしました。
Lanng 氏は、より融和的な政策がとられ、データの保護に関する議論に留まらない方向性に話が進んでいけると良いと述べました。また、現状米国で進められているような特定の企業を狙い撃ちした政策は好ましくないと考えているともコメントしました。
Kudelski 氏は、企業がデータを収集する際にその目的などが透明化され、ユーザーに伝わるようになると良いと提案しました。企業が説明しないことで人々がデータを渡すことを不安視するようになっているという現状があると分析しています。
Tatavarti 氏も、これを受けて、教育とデータ利用の透明性が何よりも重要になるだろうと述べました。

"Thank you for panelists and all participants!"


データエコシステムの構築を支援する、DCPI

ダボスにおける年次総会での議論も踏まえ、DCPIチームは、引き続き、白書の執筆やグローバル・ワークショップ開催などを通じた官民データ連携の更なる活性化を推進していきます。
DCPIの活動にご関心のある方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡いただければ幸いです。


執筆:村川智哉(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター インターン)
企画・構成:世界経済フォーラム第四次産業革命センター(サンフランシスコ) 中西友昭(フェロー)、堀悟(フェロー)、同日本センター 工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)

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