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4IRアジェンダブログ:持続可能でアジャイルな未来を創る政策立案

パンデミックの間にも、持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限は刻々と迫り、2030年まで10年を切りました。深刻化する不平等・教育・気候変動といったグローバルな課題に立ち向かうため、2021年9月20日~23日に世界経済フォーラムは持続可能な開発インパクト・サミット(SDIS21: Sustainable Development Impact Summit 2021)を開催しました。

第四次産業革命(4IR)のテクノロジーが消費者や投資家の注目を集めている一方で、政策立案者が不確実性の中で複雑な意思決定を行うために必要なデータや知見を提供する技術はあまり注目されていません。本記事では、持続可能でアジャイル(迅速)な政策立案を進めるためのテクノロジーとその領域について議論するアジェンダブログ「How 4IR is enabling policy-making for a more sustainable and agile future」をご紹介します。

原文(How 4IR is enabling policy-making for a more sustainable and agile future)はこちら↓

4IRテクノロジーと政策立案

4IRテクノロジーを利用した政策立案の事例を紹介します。

1.環境モニタリング                          CO2排出などの汚染が起きている場所や、保護すべき森林の場所を検出する環境モニタリングのために、HyperSpectral Imagingは高解像度の工学データを提供しています。衛星やドローンといった遠距離から近距離における検出までさまざまなスケールで利用できるテクノロジーですが、技術コストは依然として高止まりしています。低価格版の開発が進み、予算の少ない機関でもこうした環境モニタリングを利用できるようになると、地域に密着したより正確な意思決定に役立ちます。

2.意思決定の透明性と説明責任を高める分散型台帳技術(DLT)       意思決定の透明性と説明責任を高めることができるDLTは、近年注目を集めるブロックチェーン技術など、多種多様な分野でその応用が進められています。OECDによると、DLTプラットフォームはESG基準やSDGsの追跡などの分野でコンプライアンスを強化する方法を提供するほか、排出権証明書やグローバル・コモンズを保護するためのメカニズムなどへの活用も期待されています。

3.環境管理システムを改善するバイオテクノロジーと合成生物学       バイオテクノロジーや合成生物学は、資源の大量消費などにつながる商品や製品の置き換えに貢献することが期待されています。動物性たんぱく質はその典型例ですが、その他にも皮革、プラスチック、ゴムなど天然資源を模倣した代替素材や食品も存在します。規制や安全面において課題を抱えていますが、人々と地球のために環境管理システムを改善する機会を提供しています。

4.意思決定のスピードと精度を高めるAIとデータサイエンス         複雑なデータからインサイトを得て、将来のシナリオ予測を提供することで、AIとデータサイエンスは政策立案者の意思決定のスピードと精度を高めます。例えば、AIやデータを用いて山火事や干ばつなどの自然災害の大きさや頻度に関する正確な予測によって、人命を救い、経済的・社会的なリスクを最小限に抑えることが出来ます。さらにこうしたシミュレーションを基に地方自治体や地域当局が資源を正確に配分することで、より効率的に備えることが可能になります。

責任あるテクノロジーガバナンス

4IRテクノロジーが持続可能な開発のための政策に貢献できる一方で、その適用には責任あるテクノロジーガバナンスが必須です。

1.データおよび政策の一貫性を担保するための業界基準。業界主導のガバナンスメカニズムを利用することで、規制介入よりも早期に目標を実現することが可能になります。

2.意図と結果の検証。規制のサンドボックスはメリットや改善点を見極めるうえで効果的です。

3.プライバシーとデータセキュリティを保護する信頼できるシステムの構築。

4.法律と人権の遵守、民主主義の尊重。意図しないテクノロジー利用の可能性を踏まえた対応が求められます。

5.人間中心の政策。人間中心主義を欠いた場合、例えば貧困を緩和するための技術的介入が、問題の根源にある社会経済的・文化的要因を無視し行われている可能性があります。

政府はいかにして道を切り開くか

4IRテクノロジーは持続可能な未来を支えることに役立つ一方で、その社会実装には適切な政策・インセンティブ・規制環境が欠かせません。具体的には、P2Pでの太陽エネルギー取引を可能にする市場構造、国境を越えたデータフローを可能にする法的な枠組み、炭素隔離のモニタリングと追跡方法の改善などが挙げられます。

テクノロジーは、適切な政策を立案し、ガバナンスを改善し、持続可能な開発アジェンダを支援するためにより多くの情報と知見に基づいた意思決定を行うことを可能にします。精度を高め、透明性を向上させ、政策にまつわるトレードオフを明確に把握することで、政策立案者は複雑さと不確実性のなかでも気候や環境に優しいイノベーションと開発を促進するための法的な枠組みを社会に導入していくことが可能になります。

4IRテクノロジーの活用は、政府が「潮目を変える」ために欠かせないものだといえるでしょう。今後の動向に目が離せません。

執筆:
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
佐藤良磨(インターン)


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