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DCPI(Data for Common Purpose Initiative)

以前の記事でも、個人・企業・都市間の自由なデータ取引市場に関する取組み「DCPI(Data for Common Purpose Initiative)」について簡単にご紹介しました。今回、DCPIについてもう少しご説明します。

DCPIは、Data Free Flow with Trust(DFFT:信頼性のある自由なデータ流通)の柱のひとつです。

私たちの取り組む課題

多くの組織が、データ保護とプライバシーへの配慮に注力しています。ただ、現状では、データの持つ価値を完全に活かしきれないだけでなく、データガバナンスに関する政策の断片化が加速し、合意ある目的のためのデータ共有も妨げられています。

生じつつある可能性

権利の尊重を大前提として、パーソナルデータ、企業データ、行政データといった様々なデータを結び付けられる、柔軟なデータガバナンスモデルを構築できないでしょうか。そうすれば、政策上の障壁を取り除きつつ、様々なステークホルダーを力づけることができます。 

DCPIは、ユースケースを参考にしつつ、「共通の目的(Common Purpose)」に着目して、データ政策とデータモデルを方向付けることで、公共の利益と経済的利益の両方で可能性が広がるという信念に基づいて形成されています。

私たちは、(データそのものの性質だけでなく)データの使われ方に応じて、その取扱いを変えることができるし、変えるべきであると考えています。第四次産業革命で生まれた技術によって、同じデータであっても、そのデータが利用される文脈に応じて、異なる利用許諾を与えられるようになる。その途上にあると信じています。

期待されるインパクト

今でも、生体情報やライフスタイルに関する情報が身近なデバイスから収集されています。では、そうしたデータについて、医学研究や治験という目的を特定して(さらにそのなかでも、COVID-19、認知症、がん治療といった個別の目的を指定して)、データ利用の許諾ができる世界を想像してみてください。

その世界では、パーソナルデータが自動的に暗号化・匿名化され、データが他の目的に使用されないように、デジタル権利管理ルールとともに送信されます(これは現在の音楽配信における著作権保護の仕組みと似ています)。そして、まとめられたデータは、アルゴリズムも利用し、人間の専門家が見逃す可能性のある傾向を特定し、専門家がレビューするための推奨事項を示したりできます。

(目的別でコントロールすると「同意疲れ」してしまいそうという方へ:DCPIとは別のプロジェクトとして「データ仲介者:信頼できるデジタル・エージェント(Data Intermediaries: Trusted Digital Agency)」もあります。ご覧になってみてください。)


商業目的でのデータ利用について権限を設定することも選べるようにもできるでしょう。 (匿名化された)パーソナルデータを市場調査などの所定の目的に利用したい人に対して、明示的なオプトインでアクセス権限を付与し、そして、その対価を受け取ることができます。

対価をどう決めるのかについては、利用目的ごとに分けて、「データ取引市場」のマーケット・メカニズムにより決めることが想定されます。こうすることで、(現在、知的財産で対価が発生するのと同様に)、特定のユースケースごとにデータの対価を決めることができます。データが利用されたときに対価を受け取れることができ、同時に、金融当局は課税対象となる収入を把握することができます。また特定の状況下では、こうした仕組みがデータセットのバイアスを是正し、長期的には利益の還元・循環につながる可能性もあります。

これらのシナリオは現在でも十分に実現可能です。しかし、適切なプロトコルとガバナンスが存在しなければ、ディストピアにもなりかねません。データへのアクセスが過度に制限されて人類の進歩や革新が阻害されてしまう社会を生み出してしまうかもしれませんし、または、国家が(企業を含む)私人の権利擁護との両立を図らずにデータ共有を強要する社会を生み出す危険性もあります。

データ取引市場とデータ交換

DCPIは、ユースケースを通じて、鍵となる仮説を検証しており、今後もこれを継続します。政府主導のデータ取引市場の促進を目指す、コロンビアのムーンショット・プロジェクトは、そうした実証のひとつです。

世界経済フォーラムは、DCPIの中核をなす商業・技術・政策の各領域について実証すべく、リアルタイムで進むユースケースを支援します。データ取引市場の促進により、公共の利益のための戦略的資産として、データ交換を将来にわたり推進し、データ駆動型経済への移行を促します。


企画:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 野田由比子(フェロー)

翻訳・構成・編集世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 松下雄飛(インターン)、工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)

※ この記事は、下記の英語版をベースに作成されています。


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