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【開催報告】 注目の「DFFT」は今どこまで進んだ? 官民パネルディスカッション

2021年10月26日(日本時間)に開催された第11回サイバーセキュリティ国際シンポジウムにて、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターとの共同企画によるDFFT官民パネルディスカッションが行われました。テーマは「Digital Social Security - DFFT: Data Free Flow with Trust」。2019年の提唱から3年経ち、国際的なイニシアティブとなったDFFTの現状と展望について、外務省、総務省、日立製作所からのパネリストを迎えて議論しました。

この記事では、その概略をレポートします。

登壇者(敬称略)
キンバリー・ボトライト (世界経済フォーラム国際貿易投資部門 コミュニティ・リード)
原田 貴(外務省経済局サービス貿易室長)
飯田 陽一(総務省 国際戦略局 情報通信政策総合研究官)
鍛 忠司(日立製作所 研究開発グループ 社会システムイノベーションセンタ/主管研究長)
モデレーター:工藤 郁子 (世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター プロジェクト戦略責任者)


なぜいま DFFT ?

世界経済フォーラム国際貿易投資部門のコミュニティ・リードであるキンバリー・ボトライトより、DFFTなどグローバルなデータガバナンスが、なぜいま重要で、どんな取組みがされているか、プレゼンテーションを行いました。

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今や、データ流通は社会にとって不可欠で、地域社会とグローバル社会の両方の基盤の一部です。にもかかわらず、各国間の越境データ移転に関するガバナンスは未解決の課題となっています。

この課題に対応すべく、2019年6-7月に日本をホスト国として開催されたG20にて大阪トラックが立ち上げられました。実は、これに先立つ2019年1月、スイス・ダボスで行われた世界経済フォーラムの年次総会において安倍元首相はDFFTを提唱して、信頼性とデータフローが共存し、互いに補完し合うというビジョンを示していました。大阪トラックは、このビジョンを基盤としています。

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DFFTという構想を実現するためには、詳細な情報とより具体的なフレームワークが必要です。そこで世界経済フォーラムでは、さまざまなステークホルダーの協力のもと、既存の越境データガバナンスに関する各種の取組みを分析・構造化しました。その成果は、白書「Data Free Flow with Trust (DFFT): Paths towards Free and Trusted Data Flows」にまとめられています。国際的なデータ流通に関する既存の取組みを、相互補完的な4つの柱として整理しています。

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プレゼンテーションの最後には、越境データ移転の信頼性を確保して経済成長につなげるための5つの提言も示されました。


DFFTはビジネスの力を最大限発揮してもらうためのイニシアチブ

プレゼンテーションを受けて、パネルディスカッションが行われました。外務省経済局サービス貿易室の原田貴室長は、ご自身の取組みを紹介した上で、日本がDFFTの提唱国として、より広く、深く、透明な規律作りを目指していると述べ、日本のビジネスが、この規律の中で最大限に活動できるよう努めていると話されました。

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原田室長によると、データ流通や電子商取引に関する国際的なルール作りの現在の主要課題は、(1)データ規律の例外の設定、(2)政府関与についての考え方、の2点だそうです。

(1)データ規律の例外をどのように設定するかは、各国の立場・文化的背景などの違いから、しばしば見解がわかれます。特に新興国を中心に、プライバシーに関して協定に干渉されたくない、また、安全保障や治安に関するデータは協定の例外にすべきだとの主張が見られます。

(2)政府の関与についての考え方の典型例として、ガバメントアクセスがあります。なお、ガバメントアクセスとは、公共部門による民間部門のデータへのアクセスのことで、裁判所が発行した令状に基づく捜索・差押えから、国家安全保障上の理由に基づく情報提供協力までさまざまで、どこまで認めるかが議論になっています。日本は政府関与を最小限にとどめたい方針ですが、政府の裁量をなるべく広範囲に取ろうとしている国々もあります。ガバメントアクセスの観点では、全ての国の間で、なるべく共通の枠組みを作ろうと努力しています。

こうした課題に対応して行くためには、WTOの電商取引交渉参加国の共通理解を作り上げることが必須となりますが、そこはアカデミアやビジネスの影響力が非常に大きいと原田室長は指摘します。

現在、WTO電子商取引の枠組みに参加していない国や地域が大多数ですが、その要因として、グローバルなデータ流通に関する不安感・恐怖感が官民問わず広がっている点があります。他方、データ流通によるベネフィットが十分に理解されていない可能性もあります。例えば、越境データ流通は地域経済の成長に大きな恩恵を与えられるはずです。

そこで、アカデミアには経済や技術などさまざまな分野において理論の構築と発信を、ビジネスにはデータ流通による利益獲得を実演することが期待されると原田室長は述べていました。


ルールを組み込んだインフラの整備により、DFFTの実装を

総務省国際戦略局の飯田陽一研究官は、OECDデジタル経済政策委員会の議長も務めています。飯田研究官は、今年のG7における議論の進展やOECDの取組みを紹介した後、DFFTの推進のためにプライバシーなどを保護できる環境の整備が重要と指摘されました。

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飯田研究官が想定されるDFFT推進の具体的なアプローチは、以下の通りです。

1.  データローカライゼーションを撤廃する
2. プライバシー保護に関する各国間の規制枠組みのギャップを埋める
3. ガバメントアクセスの容認程度を決める
4. 医療や交通など、特にイノベーションが期待できる分野におけるデータ共有を推進する

もっとも、現在はこうしたアプローチの途上にあると飯田研究官は続けます。まずは、各国のデータローカライゼーション関連法が緩和できる可能性を分析し、また、プライバシー保護に関して、どのように各国の制度の相互運用性を高めていくのかを検討したいと述べていました。

飯田研究官は、OECDで進行中のデータ流通関連プロジェクトも紹介され、特にガバメントアクセスの論点について非常に重要な問題なので、来年に向けて成果を出したいとの意気込みを示しました。

さらに、デジタルインフラの整備については「デジタルインフラの中にルールを入れ込もうとしている」と説明。データ連携を実現するためのソフトウェアであるコネクターの中に、いかにルールを埋め込んでいくかと言うことを現在検討していると述べました。

もっとも、コネクターやインフラの設計を進める際、日本だけのガラパゴスにならないようにする必要があります。そこで日本政府は、諸外国の同様の取組みとの間でも相互運用性を確保できるよう努めています。例えば、欧州が進めているGAIA-Xでもコネクターの整備が推進されており、ルール遵守やデータ標準規格への準拠を求めています。現在、日欧間でこのコネクター同士の相互運用性のテストを行っているそうです。

最後に、総務省の計画として、民間企業が海外でデジタルインフラ整備を展開する際に政府が支援する計画も検討中とのことで、エコシステム形成の後押しにも意欲を示されていました。


トラスト担保のためにガバナンスのイノベーションも必須

DFFTは、民間企業にとってどのような意義があるのでしょうか。日立製作所 研究開発グループの鍛 忠司 主管研究長は、「DFFTの実現によってビジネスでのイノベータがデータを入手することができるようになる」と期待を述べた上で、デジタルインフラの信頼性確保の重要性を強調しました。

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鉄道や電力といった既存のインフラとは異なり、デジタルインフラの多くは人目に触れないため、インフラとしての信頼性獲得がより難しいという課題があります。

この課題に対応するためには、共通の視点やフレームワークを作ることが大切だと鍛主管研究長は続けます。信頼できるという主観的感覚である「トラスト(Trust)」と、証拠・実績・観測などから客観的裏付けのある「トラストワージネス(Trustworthiness)」とを区別した上で、トラストを獲得するためのガバナンスを適切に実施する必要があります。その上で、トラストワージネスを蓄積し、それをステークホルダーに認知してもらうことで、トラストを構築していきます。

trustworthiness → trustの流れが重要です。例えば、自動運転車が安全だというトラストを得るためには、安全に作る・動かすというガバナンスを実施するのみならず、そのガバナンスにより自動運転車両が安全だということを積極的に示す必要があると鍛主管研究長は指摘します。

そして、ガバナンスを実施するためにもトラストが必要になります。ガバナンスとトラストの連鎖と、結節点としてのトラストアンカーの役割について、日立製作所・経済産業省・世界経済フォーラムの三者が協働執筆した白書「Rebuilding Trust and Governance: Towards Data Free Flow with Trust (DFFT)で詳述されていますが、トラストの対象は人によって異なるので、トラストアンカー同士での相互認証が重要になると鍛主管研究長は強調しました。


2023年、日本がホスト国になるG7に向けて

最後に、2023年に日本がホストするG7サミットを見据えて、今後12か月間で目指したい目標を各パネリストに伺いました。

鍛主管研究長は、前掲の白書で提案した「トラスト・ガバナンス・フレームワーク」を、今度は実際のユースケースに適用したいとの意向を示しました。

飯田研究官は、ガバメントアクセス、DFFTのロードマップ、そして新興国の説得の3点をそれぞれ前進させたいとの意思表明をされました。

原田室長は、WTOでの交渉を進めるとともに、価値観を共有する二国間や複数国間などでの枠組み作りにも努めたいと語りました。そしてそれらを元に、2023年のG7を視野に「DFFT 2.0」で具体的に何が可能になるか考えていきたいと述べました。

パネリストの方々が宣言された目標からもわかるように、当初は構想だったDFFTが現在は具体化し、実装・実践の段階に入ってきたことがわかるセッションとなりました。

執筆:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 郭弘一(インターン)
企画・構成:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)

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