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【開催報告】G7勉強会「そもそもG7サミットとは?」

来年2023年は、日本が議長国となりG7サミットが開催されます。
岸田総理大臣は、2023年のG7サミット議長年も見据え日本が国際的な議論を主導していく決意を強調するとともに、私たち「第四次産業革命日本センター」に言及しつつ、世界経済フォーラムへの期待を述べています。

こうした期待を受けて、私たちは、G7での各会合の議論に貢献すべく、様々な準備を進めています。

その一環として、2022年9月29日、G7に関する内部勉強会をオンライン開催しました。当センターのスタッフ、フェロー、インターンなど約30名が参加し、活発な議論が展開されました。
勉強会では、当センターのフェローを務める太田代身生さん(外務省)が発表しました。この記事では太田代さんの発表を中心に勉強会の様子を紹介します。


そもそも論~G7サミットとは

首脳会議

まず、G7とは、「Group of Seven」の略で、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7か国のことです。そして、G7サミット(主要国首脳会議)は、7か国とEU(欧州理事会議長及び欧州委員会委員長)が参加して毎年開催される国際会議を指します。
G7の歴史については、外務省「G7に関する基礎的なQ&A」を参照ください。

G7の議長国は、1年ごとに交代制となっていて、2023年1月からは日本が担当します。同年5月19〜21日に広島において「G7広島サミット」が開催されます。

2022年G7サミットの様子(首相官邸「G7広島サミット」特設ページより引用)
https://www.kantei.go.jp/g7hiroshima_summit2023/index.html


関係閣僚会合

G7では、総理大臣や大統領が集まる首脳会議に加えて、関係閣僚会合も開催されます。2023年に開催される閣僚会合は下記の通りです(開催日程順)。


背景:国際経済秩序の複雑化

G7が開催される意義とは何でしょうか。国際経済秩序は、どのような構造になっており、各国の間でどのような関係性が築かれているのでしょうか。

大まかに言えば、国際経済秩序のもと、以下のような関係性で様々な作用・反作用が引き起こされています。

(1)一方的(Unilateral)
例としては、ある国が、他の国に対し、一方的に関税をかける行為が挙げられます。一方的行為は、他国の一方的行為を引き起こしたり、二国間・数カ国間の関係性に様々な影響を引き起こしたりします。
 
(2)二国間(Bilateral)
例えば経済連携協定や投資協定などが挙げられます。日本も様々な国との間で、経済連携協定を有しています。
 
(3)地域間(Regional)
APEC、RCEP、CPTPP、ASEAN、IPEF、DEPA、MERCOURなど、地域をベースにした枠組みも多くあります。
 
(4)多数国間(Multilateral)や複数国間(Plurilateral)など
WTOのように、164か国・地域が参加する、多角的貿易体制の中核となるようなマルチから、その中のいくつかの国が参加するプルリ交渉などがあります。このほか、OECD、QUADなど様々な目的で作られた枠組みもあります。

もちろん、国際経済秩序はWTO(World Trade Organization, 世界貿易機関)を基礎としています。しかし、WTOの交渉原則である「一括受諾方式」(Single undertaking: Virtually every item of the negotiation is part of a whole and indivisible package and cannot be agreed separately. “Nothing is agreed until everything is agreed”)があり、多様性に富む国々との間で、コンセンサスを得ることが難しい状況にあります。
そのため、現在、地域や複数国間の枠組みを通じたルールメーキングや、経済連携協定等のほか、一方的措置も多く発動されるようになっており、国際経済秩序を作る動きは、さらに重層化・複雑化しています。

このような国際経済情勢において、G7サミットを活用して、議長国がどういったメッセージを主導していくか、手腕の見せ所になります。

参考:2022年9月15日のG7貿易大臣会合のWTOに関する記述(抜粋)
「我々は、WTOを中核とするルールに基づく多角的貿易体制を再活性化させ、改革するとのコミットメントを再確認する。WTOは、開放性、透明性、公正な競争及び法の支配といった、我々が共有する価値を反映する必要がある。我々は、これらの目標を達成するために、WTOのルールブックの改善及びWTO改革に向けて協働する。
我々は、我々の世界貿易のルールブックが、経済の変革を可能にし、持続可能で包摂的で強靭な成長を促進し、世界の人々のニーズに応えるものでなければならないというビジョンを支持する。」

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100394688.pdf


共通の価値観と多岐にわたるアジェンダ

G7諸国は、民主主義や自由貿易体制の維持など、根本的な価値を共有しています。共通の価値観があるからこそ議論できることがあり、この点がG7の最大の強みです。

G7では多岐にわたるアジェンダが議論されています。アジェンダの例としては以下のようなものが挙げられます。

G7アジェンダの例:ロシアのウクライナ侵攻、エネルギー安全保障、食料安全保障、経済安全保障、サプライチェーン、新型コロナウイルス感染症、気候変動、貧困、ジェンダー、雇用、少子高齢化、デジタル経済、AI倫理など 

アジェンダは、どれも分野横断的なものばかりです。例えばDX(デジタル・トランスフォーメーション)とGX(グリーン・トランスフォーメーション)は、イノベーションと新しい市場の創出と競争のメインアリーナである一方、環境やデータは共に非競合財であるため、ルール形成が新しい市場の形成に大きな影響を及ぼします。
そのため、今後のG7では新しい国際ルール形成に向けて、DFFT(*)の具体化など、様々な議題が議論されることが期待されます。

*DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)とは、「プライバシーやセキュリティ・知的財産権に関する信頼を確保しながら、ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが国境を意識することなく自由に行き来する、国際的に自由なデータ流通の促進を目指す」という、我が国が2019年1月のダボス会議及び同年6月のG20大阪サミットにおいて提唱したコンセプトです。

デジタル庁ウェブページより引用
https://www.digital.go.jp/policies/dfft/

G20との比較:新興経済国の台頭

G7に類似する会合として、G20があります。
G20サミット(「金融・世界経済に関する首脳会合」)は、G7(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、欧州連合)に加え、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコの首脳が参加して毎回開催される国際会議です。

G20の起源は、1997年のアジア通貨危機を受けて開催された、1999年のG20財務大臣・中央銀行総裁会議です。その後、2000年代にBRICSや新興経済国が台頭する中、2008年のリーマン・ショックを契機とした経済・金融危機への対応として、財務大臣・中央銀行総裁会議が首脳級に格上げされるかたちで現在の形になりました。

近年、G7以外のG20諸国が世界経済において存在感を増しているところです。
G7が発足した1970年代当時、G7諸国のGDP合計は7割近くを占めていました。新興国経済秩序(NIEO)の考えに基づき資源ナショナリズムや貧富の是正、途上国の発展の権利といった主張はあったものの、G7の圧倒的な経済力のため、G7諸国は貿易ルールの形成においては大きな影響力を維持していました。
2020年になると、G7諸国の世界のGDPに占める割合は31%に低下、一方でG7以外のG20諸国は42%まで増加しました。このように新興経済国の台頭により、G7諸国のGDPの優位性は失われつつある中、共通ルールの形成や多様性の受容が大きな課題となっています。


トップダウンとボトムアップ

G7は、首脳が個人的に議論し、トップダウンの決断する場です。首脳会合はシェルパという補佐役が準備をしますが、シェルパはは本来、「登山者が山の頂上(サミット)にたどり着くための手助けをする案内人」という登山用語です。
G7は、近年はテロ対策などの治安対策もあり、離島や城など、物理的にアクセスが困難な場所が選ばれることが多くなってきています。
 
サミットを成功させるため、ボトムアップの会合も重要な役割を担っています。閣僚級会合や、様々なエンゲージメント・グループ(T7、Y7、W7、S7、L7、C7、B7)による詳細な議論の積み上げ、世界経済フォーラムを含む国際機関やシンクタンクからのインプットもG7の重要な一部です。

G7のトップダウンとボトムアップ


G7の成果物

G7で話し合われた事項はその後どのように実行されるのでしょうか。G7の成果物には、以下のようなものが挙げられます。 

  • コミュニケ(共同声明)

  • 緊急声明

  • 議長サマリー

  • ロードマップ

  • アクション・プラン

会合の経過や結果をまとめることで、目標や合意事項を提示・確認することができ、次回会合や各国の政策などにつなげることができます。

2016年G7伊勢志摩サミットの例

G7サミットの実際のスケジュールや、出席者、成果文書はどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、2016年の伊勢志摩サミットを例にみてみましょう。

首相官邸「G7伊勢志摩サミット」特設ページより引用
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/iseshima_summit2016.html

G7伊勢志摩サミットの出席者

  • G7首脳:安倍首相(日本、議長)、オバマ大統領(米国)、オランド大統領(フランス)、メルケル首相(ドイツ)、キャメロン首相(英国)、レンツィ首相(イタリア)、トルドー首相(カナダ)、トゥスク欧州理事会議長およびユンカー欧州委員会委員長

  • アウトリーチ国、その他:チャド、インドネシア、スリランカ、バングラディシュ、パプアニューギニア、ベトナム、ラオス、国際連合(UN)、国際通貨基金(IMF)、世界銀行(WB)、経済協力開発機構(OECD)、アジア開発銀行(ADB)

上記を見ても分かる通り、G7以外の国や国際機関が招待されていることがわかります。

G7伊勢志摩サミットのスケジュール

G7サミットは、アジェンダごとのセッションにより構成され、複数日に渡って開催されます。
セッションに加えて、二国間会談、サイドイベント、配偶者プログラムなどさまざまなイベントが開催されます。

G7伊勢志摩サミットのスケジュール

G7伊勢志摩サミットの成果文書

外務省ウェブページ「G7伊勢志摩サミット」には、成果文書として、「G7伊勢志摩首脳宣言」に加えて、その他の関連文書が多数掲載されています。

●G7伊勢志摩首脳宣言
・質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則
・国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン
・女性の能力開花のためのG7行動指針
・サイバーに関するG7の原則と行動
・腐敗と戦うためのG7の行動
・テロおよび暴力的過激主義対策に関するG7行動計画
 
●その他関連文書
・女性の理系キャリア促進のためのG7イニシアティブ(WINDS)
・富山物質循環フレームワーク
・食糧安全保障と栄養に関するG7行動ビジョン
・CONNEIEX持続可能な開発に向けた基本方針
・伊勢島進捗報告書(要約―和文仮訳)
・G7ドーヴィル・パートナーシップ高級実務者会合成果文書
・原子力安全セキュリティ・グループ(NSSG)報告書
・G7伊勢志摩サミットに向けた我が国の主な貢献策
・G7食料安全保障作業部会議長レポート:食料安全保障・栄養に関する支援資金報告手法


G7伊勢志摩サミットのおもてなし

サミット開催中の食事や贈呈品などもG7サミットを通じた外交の重要な一部です。
伊勢志摩サミットでは、安倍総理大臣からG7各国首脳への贈呈品として、萩焼の花瓶や、玉虫塗小物入れ、肥後象がん万年筆などが供されました。


おわりに

今回は、「そもそもG7サミットとは」をテーマに、国際経済秩序の現状やG20との関係性やG7の成果物などについて紹介しました。

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターは、2023年に日本が開催するG7広島サミットに向けて有益なインプットができるよう、各チームが着々と準備をしています。

勉強会の最後には、当センター長の山室氏から、G7に向けて「具体的に」、「現実のニーズに立脚」し、かつ「野心的」に提案していきたい、とのコメントがありました。この3つの言葉を軸として、今後も積極的に準備を進めていく予定ですので、続報にご期待ください。


執筆:佐山優里(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター)
企画・監修:太田代身生(同日本センター外務省フェロー)、工藤郁子(同日本センタープロジェクト戦略責任者)

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