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エンジェルナンバー

これは理恵さんという、現在26歳の女性のお話です。

彼女は両親の影響もあって、心霊やオカルトなどは一切信じないタイプの人でした。
怪談はすべて作り話だと思い、ホラー映画を観ても驚きこそすれ怖いとは一度も思ったことはないそうです。
現在住んでいるマンションも、事故物件という説明を受けましたが、まったく気にせず、家賃の安さで即決したという、そんな性格の女性でした。

ところが2年ほど前、今のマンションに引っ越してまだ間もない頃のことです。
理恵さんは真夜中にふと目を覚ましました。
ふだんは布団に入ると朝まで熟睡することが多い彼女でしたので、自分自身でも珍しいなと思いながら、何気なくスマホの時計を見ると、時刻は2時22分を示しています。
〈ああ、私の誕生日と同じ数字だ〉とぼんやりと思いながら、その夜は再び眠りに落ちていった理恵さんでした。

しかし、それからというもの真夜中に目が覚めることが多くなり、そのたびに時計を見ると決まって2時22分と表示されているのでした。
偶然かも知れませんが、これだけ何度も繰り返されると、さすがの彼女もこの「222」という数字には何か意味があるのではないかと考えるようになっていったのだそうです。

そして、そのように思いはじめると、日常生活の中でも「2」とか「22」という数字がやたらと目につくようになりました。
横断歩道を渡ろうとして停まってくれた車のナンバー、レシートの金額の末尾、何気なく開いた本のページやコンサートのチケットの予約番号など、いたるところで「2」という数字が目に飛び込んでくるのでした。

これだけ目に付くということは、この「2」という数字に何か特別な意味があるのではないかと考えた理恵さんは、ネットで検索してみたそうです。
すると「エンジェルナンバー」に関する多くのページがヒットしました。
よく見る数字や妙に気になる数字は「エンジェルナンバー」と言って、「天使からのメッセージが込められている数字」で、自分にとって意味がある数字、あるいは関わりの深い数字だという考え方です。

理恵さんはさっそく、気になっている「2」という数字の意味を調べてみました。
すると「現実を受け入れること、そして周りの人と協力し合うことの大切さ」を示している数字で、「周りを思いやったり、配慮をもって振る舞ったりするように心がけよう」という意味だと書いてありました。
ことにゾロ目の数字は桁数が増えるほどその力も増してゆき、4桁の「2222」は
これから奇跡のような出来事が起こるサインということでした。
理恵さんは明日にでも「2222」という数字を偶然目にして、運命の人に出会えるかもしれないと期待に胸を膨らませたそうです。

しかし、意識すればするほど「2222」という数字にはなかなか出くわしませんでした。
一番手っ取り早いのはデジタル時計の時刻表示ですが、午後10時22分という時刻にはテレビを観ていたり、お風呂に入っていたりして、その時刻ちょうどにたまたま時計を見ることはありませんでした。

そんなある日、理恵さんは友達の誘いもあって、よく当たると評判の占い師の元へ行くことになりました。
深夜2時22分に目が覚めるという現象はまだ続いていたので、それを含めて4桁の2のゾロ目の運命の人はいつ現れるのかを占ってもらおうと思ったのです。

占い師は小太りな中年女性で、タロットと水晶占いのほか霊感診断もしていて、その霊視がよく当たると職場の女性たちや友人たちの間で話題になっていた人物でした。
理恵さんも友達といっしょに長時間順番を待って、女性占い師の前に座ったのでした。

先に友人の診断が終わり、次に理恵さんがが生年月日と占ってほしいことを書いた紙を渡すと、占い師はしばらく無言で水晶玉を覗き込んでいましたが、やがて「運命の人の登場はしばらくはなさそうね」とあっさりと言ったのです。

その言葉を聞いて気落ちしている理恵さんにおかまいなしに「それよりも」と占い師は言葉を続けます。
「それよりも、あなたが今住んでいるお部屋は、以前に女性の方が亡くなっているわよねえ。あなたと同じくらいの年格好で…。まだ成仏できてないみたいで,
今でも部屋の中をうろついていると思うんだけど、何か心当たりはないかしら?」

そう言われてみると、夜に家鳴りのような物音や女性の呟くような声が聞こえることがありましたが、マンションの造りの影響や隣の部屋の話し声程度に思って、まったく気にしていませんでした。
また、金縛りにも時々合いましたが、これも仕事の疲れからくるものだろうと思っていたそうです。
しかし、幽霊の姿などはまったく見たことはなく、首を締められるなどのよく聞く実害もありませんでした、

理恵さんは話し声や金縛りのことに加えて、真夜中の2時22分に何度も目が覚めることを話しました。
すると占い師は、
「そう…、その2時22分というのは、おそらく彼女が亡くなった時刻なんでしょうね。決まってその時刻に目が覚めるのは、なんとか気づいてもらおうとして亡くなった女性が毎回起こしているのよ。
そうやってほかにもいろいろサインを出しているのに、あなたがまったく気づいてくれないものだから、ほら、そうやって今もあなたの後ろに憑いてきてるのねえ」と、理恵さんの左肩越しに背後を見つめながら、見えない誰かに語りかけるように言うのでした。

「今、左肩が重いでしょ?しっかり肩にしがみついてるからねぇ。
…まあ、そんなに悪い霊じゃないから安心して。ただ同じ年頃のあなたに気づいてほしい、相手をしてほしいという思いだけだから。
今日帰ってから、部屋のどこかに場所を決めて、お線香とお水、それにたまにはお菓子なんかをお供えしてあげれば、悪さはしないはずよ」

「えっ?エンジェルナンバー?…うーん、まぁあれはほとんどは偶然よね。
一度気になると、意識してないつもりでも、無意識のうちにその数字を探すようになるしね。
エンジェルナンバーって言われる数字はものすごく沢山あるし、それを意識し始めると切りがないから、まあほどほどにね」
そう言われて占い師のもとをあとにした理恵さんなのでした。

「ふーん、幽霊やオカルトは信じないのに、エンジェルナンバーとか天使とか、スピリチュアルなものはすぐに信じちゃうんだねぇ」と私が皮肉交じりに言うと、理恵さんは
「だってオカルトは暗くてマイナス思考なことばっかりですもん。それに比べたらスピリチュアルなものはポジティブで明るくて、元気になれることが多いんだから、そりゃぁそっちのほうを信じるでしょう」とあっけらかんと言い返します。

「で、占い師さんに言われたとおり、お線香とお水はちゃんとお供えしてるの?」と尋ねると、
「うん、たまに忘れることもあるけど一応はやってるよ。だって、今も時々2時22分に起こしてくれて、私のエンジェルナンバーを意識させてくれるんだもの、感謝しなくちゃね」と笑顔で答える理恵さんなのでした。

気づいてほしくて、いろいろアプローチしている幽霊と、それにまったく気づかずに,
スピリチュアルなことばかりに夢中になっている理恵さんを比べると、幽霊の方に同情したくなるのは、私がオカルト好きだからでしょうかねえ?

初出:You Tubeチャンネル 星野しづく「不思議の館」
テーマ回「数字に纏わる不思議怖い話」
2023.11.11

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