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キラキラ星

これは今から60年以上前、私が3、4歳の頃の記憶です。

当時、私の一家は市内中心部の、戦後すぐに建てられた古い平屋の一軒家に住んでいました。
玄関の引き戸を開けると、目の前には道幅3メートルほどの歩道があり、その先は片側2車線の県道が東西に通っています。
玄関の目の前の県道を右に少し行けば、「新京橋」という大きな橋へと続いていて、左にまっすぐ行くと市役所方面に出る、今も変わらない幹線道路沿いに住んでいたのです。

玄関先の軒には浅い庇があり、足元にはその庇よりも少し大きいくらいの、ポーチとも呼べないような、道より一段高くなっている箇所がありました。
一人っ子で幼稚園にあがる前の私は、このコンクリート打ちっぱなしのポーチもどきに腰をおろして、歌をうたったりハーモニカを吹いたりするのが好きでした。

秋のはじめの頃だったでしょうか。
その日も、目の前の歩道を行き交う人たちにはまったくおかまいなしに、というかむしろ聞かせようとしてだったのか、私は大きな声で歌をうたっていました。

時刻は夕方の5時くらいだったと思います。
歌いながらふと上を見ると、夕闇が兆(きざ)しはじめた濃い青空を、東の「新京橋」の上から、まっすぐに西の市役所方面へと飛んで行くものがありました。

形は丸でも楕円でもなく、いわゆる五芒星…、典型的な星型をしていました。
正確に言えば、星型の角を少し丸くしたような形です。
大きさは500円硬貨より少し大きいくらい。
色は西日を反射していたからなのか、オレンジっぽい金色でキラキラと輝いていました。

そんな形のものが、上空数百メートルとおぼしきあたりを、自転車ほどのゆっくりとしたスピードで飛んで行ったのです。
音はまったく聞こえませんでした。
見上げる私の視界を右から左に、音もなく、滑るように飛んでいくそれに、歩道を歩いている人たちは誰ひとり気づいたようすはありませんでした。

そのあとその飛行物体がどうしたのか、私がどのような行動をとったのかはいっさい憶えていません。
ただ呆然と空を見上げていたあの数秒間が、60年以上たった今でも、最も古い記憶の勲章のように、キラキラと私の中で輝き続けているばかりです。

初出:You Tubeチャンネル 星野しづく「不思議の館」
テーマ回「UFOに纏わる話」
2023.12.16


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