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三宮のとある喫茶店にて

わたしは三宮の町をさまよっていた。
おいしい、朝ごはんを求めて。

その日は友人の結婚式のため三宮に来ていた。
前日がちょうど、あの歴史的大型台風が直撃する日であり「行けるのか!?これはお祝いに行けんのとちゃうか!!!???」とざわざわしていたことを覚えている。

幸い、わたしは深夜バスで旅費を抑えたいタイプだったので、関東に台風が来る前にバスに乗車、台風をかすりながらなんとか雨風で荒れる三宮に到着できた。お店はほとんど閉まっており、頼みの綱はチェーン店。朝は上島珈琲店、お昼はほぼほぼサイゼリアで過ごした。(結婚式の友人代表のスピーチをてんぱりながら考え、ぶつぶつ念仏のようにつぶやいてぱっと見不審者になっていたのはよき思い出。あおの時間があったから、スピーチが書けました。台風のなかあけてくださって、お店の方には感謝しかない~)
ゲストハウス泊のため、夕飯もなく。なか卯の親子丼をありがたくいただいた。旅に出ても安心を与えてくれる、それがチェーン店だ。

しかしである。
旅行に来たからには、現地で食べた、という思い出もほしい。

その思いをかなえるべく、わたしは朝ごはんを求めて町へ繰り出した。
コンビニご飯なんて、やーだよ。

ゲストハウスがある場所が三宮の賑わってる方、じゃない方だった。
つまり、朝ごはんが食べれそうなお店が少なそうだった。
かつ、台風の直後ということもあり、お店が開いてなさそう…。

これは、甘んじてコンビニ朝ごはんを受け入れるしかないのか…。

そのとき、「モーニング」という言葉を発見した。
そこは喫茶店のようだった。お店の扉はあいており、営業していそう。

もう、ここにしよう。おなかが限界です。

飛び込んだそのお店は、カウンター席が10席もないくらいの小さなお店だった。

チャキチャキしたおばあちゃんが一人、カウンターの中に入っている。
お客さんは、そのおばあちゃんと同じくらいの年齢の方が2人。
ぺちゃくちゃおしゃべりに興じていた。

わー、すごいところ入っちゃった。地元のお店って感じだわ。
そう思いながらモーニングを注文する。トーストと卵とコーヒー。オーソドックスなモーニング。

狭い店内なので、聞こうとしなくてもお話が聞こえてくる。
どうやら、ここの常連さんらしいということがわかった。

聞き慣れない関西弁で軽快に話が進んでいく。話題はもっぱら健康の話。
その話がとてつもなくおもしろい。

 年をとって痩せちゃったので二の腕とかびろびろ
 銭湯行くとみんなびろびろ
 でも、頭だけがてかてかしとる
 足の水貯めるんじゃなくてお金貯めたい
 でもお金貯めてもやることなかね

なんて愉快に話を進めていくんだろう。
一人、ニヤニヤをこらえながらモーニングをいただく。うん、オーソドックス。

「よっ」

常連さんっぽい雰囲気のおじいちゃんが入ってきた。

「わ~久しぶり~!!元気しよった?」

手をふりながら迎える店主。
おじいちゃんは慣れたように奥の席につく。

「最近あんま来んかったから、どうしよるんかなと思って~」
「いやぁもうね、いろいろあって」

と今度は免許の話で一盛り上がり。

これも、おもしろかった。
ニヤニヤしながらコーヒーを飲む。この空間ではわたしだけ異質だった。

モーニングとおもしろい話をたくさんいただいたので、お店を出ようとした。そのとき、店主のおばちゃんがこう声をかけてくれた。

「なんかごめんねぇ。こんな若い方に来てもろおて。ありがとね~」

いやいや、こちらが逆にお邪魔してしまってすみません。
そういう気持ちで、いえいえそんなそんな…とか言いながらあとにした。

オーソドックスなモーニング。だけど、この場所でしか味わえない空気に、とてもあたたかい気持ちになった。

ーーーーーーーーー

あの喫茶店のおばあちゃんと、そこに集う人々はどうしてるんだろうか。

ふと、思い出した。
なかなか「集まる」ことが難しい昨今。ご高齢者のコミュニティも開けないため、引きこもりが進んでいるというニュースをちらちら見る。

あの三宮の喫茶店で思ったことは、集うことでお互いを支えあっているんだ、ということ。
じぶんの体の変化や大変なことを笑い話にかえてしまう。それを、みんなでわいわい話して笑い合う。でも、その心の根っこには、たしかに気遣いがあって。わいわいと笑いながらみんなで楽しく生きる姿がそこにはあった。
その中心になっていた場所が、あの喫茶店だった。

オンラインで話せる時代になった。
それでも。
人が会える世の中に、なってほしい。

あの喫茶店で、笑い声が響いているといいなぁ。

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