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DM企画から考える体験作りのエッセンス

僕の所属するBUTTON INC.では、毎年「子どもの日」にお世話になっている方々へDMをお送りさせて頂いています。

これは、会社の設立間もない頃に「僕たちは子ども向けコンテンツのプロダクションだし、年賀状じゃなくて、子どもの日にグリーティングを送ってはどうだろう?」というスタッフからの意見をもらって、それ以来毎年恒例として制作しているものなのですが、昨年制作した「影絵こいのぼり」が全日本DM大賞で入選作品に選出されました。
( 賞には届かなかったけど、数ある作品の中で取り組みが評価されたのは素直にうれしい! )

普段はデジタルコンテンツの企画・制作が主領域ですが、この「こどもの日DM」は完全にアナログに振り切ったコミュニケーションを考えよう、ということで毎年頭をひねっています。
そんな中で、子ども ( 親子 ) 向けのDMの企画には、体験作りを考える上で結構大事なエッセンスがたくさん含まれているなあ、と感じており、過去の企画の上で考えていたことを思い出しながら、少しメモしてみたいと思います。

体験コストを考慮する

体験コストというのは、こちらが意図した体験をしてもらう上でかかる時間や労力などの代償のことです。
子ども ( 親子 ) 向けにDMを作る上で、出来るだけ体験の伴ったコミュニケーションを作りたいと考えているのですが、体験というのは、小さなものでも実は結構なコストがかかります。この体験コストが、想定される価値に見合わないと、そもそも体験することを見送られてしまったり、体験後にガッカリさせてしまったり...という事が発生します。

コンテンツ自体の体験コストを下げる事を考えるのも、もちろん重要なのですが、あまりやり過ぎると面白みも無くなってしまうので、その体験コストにフィットしたタイミングや環境も併せて考えるのが良いと思っています。

1. 提供するタイミングに見合った体験コストのバランスを考える

子どもの日は例年ゴールデンウィークの真っ只中で、家族で過ごす時間が取りやすいタイミングです。もちろん長い連休なので、旅行などのレジャーで忙しいケースも多いと考えられるので、体験に丸一日かかってしまうようなものは、難しいかもしれませんが、20-30分以内で子どもと一緒に楽しめるものであれば、体験してもらえる可能性も高そうです。

2. コンテンツ自体の体験コストを考える

2019年に制作した「影絵こいのぼり」は影絵をつかって大きなこいのぼりを泳がせよう、という主旨で厚紙を使って影絵をつくるというものです。企画当初は「クラフト作業の共有による親子の関わりの時間」という部分にも大きくフォーカスを当てており、厚紙をハサミで切り出す所からやってもらおうと考えていましたが、体験コストとその結果得られる価値のバランスを考慮した時に「影絵」というポイントにフォーカスを絞った方が全体的な体験価値が上がると判断して、最初から型抜きされた状態で封入することにしました。

3. 体験コストに影響する環境要因を考える

影絵を楽しむには、当然のことながら光源が必要になります。それも、出来るだけ明るく、指向性の強い光源があった方が体験として楽しいものになります。「影絵こいのぼり」では、この光源として「スマートフォンのライト機能」を利用する旨を明示しました。

もちろん影絵は懐中電灯などの他の光源でも遊べます。でも、懐中電灯はどこの家にでも当たり前のように有るか、というとそうでもなさそうだし、有ったとしても「あれ、どこにあったかな...」という人が結構多いんじゃないかと思います。この「何かを考えなければならない」「必要なものを探して用意しなければならない」というのはちょっとした事でも非常に大きなコストであり、体験の大きな阻害要因になります。

しかし、スマートフォンは現代人にとってもはや身体の一部と言って良いほどの存在になっており、スマートフォンのライト機能を使うことに殆どコストはかかりません。この考え方はとても重視していて、もし今ほどスマホが普及していない頃であれば、この企画は途中でお蔵入りにしていただろうな、と思っています。

体験しよう!と思った時にちゃんと意図した体験が、すぐにできる状態を可能な限り整えることが大切です。

昔ながらの価値の再解釈

親子のコミュニケーションを考える時、僕は自分が子どもの頃から存在する文化や体験などに考えを巡らせるようにしています。これは自分自身が単純にアナログな物事が好き、というのももちろん有るのですが、長く続いているもの、伝わっているものにはそれだけの価値がある、親にも子どもにも共通するテーマになりうる強度があると考えているためです。

2018年に制作したDM「折り紙かぶと」は、「子どもの日に大きな紙で、かぶとを作って楽しもう」というとてもシンプルな企画です。大きな紙に、折り方のガイドをつけて印刷したものを封入してお送りしました。

単純に考えると「ただの大きな折り紙」なのですが、この企画の背景には「作ったかぶとが、かぶれるくらいの大きな紙って意外と家にないよね」という考えがあります。

昔は新聞紙を使ってかぶとを折って、遊んでいました。でも新聞の発行部数も減少傾向にあり、若い家庭には意外と大きな紙がない。それを遊びかたと一緒に提供する事で、昔からある文化や遊びを「子どもの日」の親子のコミュニケーションとして持ち込めるのでは、という考えがコンセプトになっています。

上で紹介した「影絵こいのぼり」も同様の考え方が根っこにあり「昔に比べて大きな鯉のぼりってみかけなくなったよね」という背景から「じゃあ影絵を使って大きな鯉のぼりを表現しよう」というアイデアに結びついています。

昔からある価値を、現代の環境や状況を踏まえて再解釈しつつ、企画として考えることで、また現代にふさわしい文脈で価値を見出していけるのかなと思っています。

こういった、昔ながらの価値の再解釈によるアイデアは、子どもだけでなく親もなつかしさを感じながら、童心にもどって遊べたり、昔の思い出を子どもに聞かせる、そういった会話が生まれるきっかけになるというのも良いポイントです。

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上に挙げた考え方は、DMに限らず、またデジタル・アナログ問わず、何らかの体験を伴う企画を立てる際に応用して使える内容ではないかなと思っています。もちろんこれが全てではないと思いますし、他にも大事なポイントや考え方がたくさんあるとおもいますが、ひとつの考え方として読んでいただければ嬉しい限りです。

今年もあっという間に3月に入り、もうそろそろ次のこどもの日が見えてきました。色々と不安な情勢が続きますが、少しでも家庭にあたたかい親子の関わりを作れるように、楽しい体験が作れればと思います。

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