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エピローグ(NYLON100%)

もう一度、本書のプロローグに書かれたナイロン100%の要約を読み返してもらいたい。ナイロン100%に関わった人々や出来事が時系列に羅列され、内容に間違いはないはずだ。だが、ここまで読んだ貴方なら、いかにこの要約が要約でしかないか、出てくる名前の一つ一つに、どれだけの物語が隠れていたのかがわかると思う。
本書に登場したほとんどの人にとって、ナイロン100%にいた時期は現在に通じる何かを始め出した時期と重なっている。それらはナイロン100%が影響を与えたというよりも、各々にとっての大事な季節に、たまたま渋谷にナイロン100%という便利な喫茶店があったということになる。
そう、ナイロン100%は喫茶店という場である。場とは不特定多数に共有される媒体であり、人と人をつなぐ交点である。だからこそ誤解しやすいが、ナイロン100%という店にあった魅力は、あくまでそこにいた人達が生み出した魅力なのだ。最先端ニューウェイヴという方向性を打ち出したのは中村直也の力であったし、それを引き継ぎつつ大衆化させようとしたのは増戸実の考えである。彼らの趣味趣向と人柄、興味やセンスが店という形になって具現化し、それを魅力的に感じた人々が出入りするようになる。この「はじめに人ありき」の視点を忘れて、まるでナイロン100%という店自体が何かを発信していたかのように考えてしまうと、そこに正体不明の〝伝説〟を見てしまうのだろう。だからもし、ナイロン100%が喫茶店ではなく、そういう名前のDJイベントだったり、コンピレーションCDだったとしても、関係する人々の行動の軌跡は変わってくるとはいえ、その印象は変わらなかったと思うのだ。なぜなら、それはあくまで人が作り出す価値観だからである。その上で、たまたまナイロン100%は、お茶を飲みながらゆっくりとお喋りができる、意図しない意志が反映されやすい喫茶店だった。そういうことだ。

ナイロン100%が開店してから三〇年経った。これから一体、何が起きていくのか──。

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2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定の定額マガジン(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。あとnoteの有料記事はここに登録すれば単体で買わなくても全部読めます(※登録月以降のことです!登録前のは読めない)。『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』も全部ある。

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