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かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろうのかっこいいことってなんだろう

早川義夫のソロアルバム『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』(1969)は音楽よりもそのタイトルのキャッチフレーズ的な求心力によって生き長らえる作品です。内容は装飾のない弾き語りが多く、聞き手にまるで媚びるところのない、独自の抑揚(これが早川のオリジナリティ)による歌唱の数々は、好きな人は好きでしょうし、引っかからない人はまるで引っかからない、聞き手を選ぶものです。唯一、「サルビアの花」は、1971年頃に深夜ラジオ番組「コッキーポップ」で火がつき、1972年にレコード会社4社がそれぞれカバーシングルを競って出して大ヒットしポピュラリティを獲得した作品です。あ、今回は音楽の話ではなかった。

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かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう。このフレーズをつい言いたくなってしまうのですが、これどういう意味なんだろうと時々不安になりました。このフレーズを正しく理解してないのに使ってしまったら、自分がかっこ悪いことになってしまうではないか……と。思いませんか? なので正しく使いたい!と思って調べたことがあります。こういうのを調べる行為は明らかにかっこ悪い! 人に見られたくない! と思って長いあいだ秘密にしていましたが、そろそろ書いていいかと思い、ここでは三つ紹介します。

(1)裏ジャケットの文章から推測する

このアルバムには「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」という曲は収録されていませんし、そのフレーズが出てくる曲もありません。そもそも早川本人の手による歌詞は「聖なるかな願い」の1曲だけで、しかもそれはジャックス時代の曲です。新曲はどれも他の人に歌詞を任せており、高田渡が一曲歌詞を書いたあとの残りは、どれも早川の演劇仲間が作詞を担当しています。

柏倉秀美(4曲)……和光高校時代の一年先輩。早川と劇団「パルチ座」で一緒だった
相沢靖子(1曲)……柏倉と同じく和光の一年先輩。「パルチ座」で一緒だった
出来里望(5曲)……いずきり・ぼう。和光高校の同級生。ジャックスのポスターデザインなども

ただ、裏ジャケットに「能書」という早川の短い文章が掲載されていて、そこにキーとなる話が出てきます。

僕はこのレコードをどうしても流行に乗り遅れてしまうような方に捧げようかと思う。多分に時代遅れぎみのこれらの詞曲は、けっしてかっこよくはなくなんともみじめな歌ばかりなのである。

流行に乗り遅れ/時代遅れ=かっこよくない、という話ですから、流行に乗っている音楽=かっこいい、とまず判断できます。しかし実は流行に乗っている音楽なんてかっこ悪いんだ、とタイトルは言っているように見えます。かっこいいこと(流行に乗っていること)はなんてかっこ悪いんだろう。というわけですね。

これでもう正解に見えますが、他の二つのエピソードも読むと気になってくると思います。

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2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定の定額マガジン(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。あとnoteの有料記事はここに登録すれば単体で買わなくても全部読めます(※登録月以降のことです!登録前のは読めない)。『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』も全部ある。

2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定です(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。テキストを発掘次第追…

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