「結婚新生活支援事業」がパワーアップするよ!やったね!ほんとに?
昨日からTwitterのトレンドを賑わせている「60万」とか「偽装結婚」とか。これまでもあった「結婚新生活支援事業」というのものについて、補助額上限が上がったり適用範囲が拡大するそうです。
内閣府の子ども・子育て本部の少子化対策の一環なので、
「対象になる人たちが増えて補助額も増える! やったね! よーし結婚しよう! 結婚したし子ども産もう! 育てよう!」
っていう動きを政府は期待しているでしょうけど、率直に言うと「そのお金別のとこに使えない???」というのが、このnoteです。
「政府がお金を出してでも支援する」というのは「国がこういう人たちを応援します」という意思表示で、それは今苦しんでいる人たちの味方になり、そういう人たちに向かう世間の心ないバイアスを(時間はかかっても)取り除く、その第一歩になるものだと思っています。誤解を恐れつつすごーく単純化して言えば選択的夫婦別姓は「ジェンダー不平等をなくそう!」、同性パートナーシップ推奨は「いろんな在り方があるよね!」など。
では今回の動きは、どんなメッセージなのか?
「スタンダード・マジョリティたる男女カップルさーん! 子ども産も! もう子育て支援は政府が結構してるから大丈夫心配ないよー! え? 結婚できない? じゃ、そこだけ助けまーす!」
かなと。極端ですが。
なお、たとえに挙げた「大丈夫!」は政府視点で、我々視点ではもちろんありません。そして、実際「これ大丈夫っていうのは無責任では???」が次項。
適用範囲が拡大したといっても世帯年収要件が約480万⇒約540万
個人の年収ではなく世帯年収です。H25時点では二人世帯の中央値は432万円だそうなので(https://ksc.ibj.net/marriage_income)、そうすると意外と適用になるじゃん??? という感はあります。
ただし、これが子育て世帯になると、途端に中央値は跳ね上がって648万円程度になるそうです(https://hugkum.sho.jp/71346)。
「適用対象だーやったー!」と結婚する人が仮に増えたとしても、お上の期待する「出生率上昇」につながるには、やっぱり自分たちだけで食いつなぐのと同じ年収ではやっていけません。昔のように年功序列でガンガン給与が上がる仕組みなら、「結婚してしまえばOK!」と短絡的に行けるのかもしれませんが、今はそうじゃない。
政府だって年収的に厳しいことはわかっているでしょう(いろんな調査をしているんだから)。それなのに「結婚! したね? じゃあ出産! それが『普通』!」と言っているように見受けられるのがこの制度です。
※誤解を受けそうなので補足をしておくと、私は子を持たないというのも結婚しない・パートナーシップを組まないというのも普通にひとつの選択だと思っています。政府の出生率向上の支援としてはコレジャナイ感があるという意味で上の内容を書いているだけです。
結婚できないのは「お金のせい」でも「出会いがないせい」でもない
今回のアプローチは「結婚できないのはお金のせいでしょ」というひとつの状況に対するアプローチですよね。だからお金を支援しましょう。
ほかにも、行政のお金を使ってやっている「婚活パーティー」や「結婚相談サービス」、これは「出会えないからでしょ」という状況へのアプローチ。
でも、すごく浅くて表面的です。
「結婚=ゴール」
「結婚したら子をもうけるもの」
今回の拡大はそういう考えが透けて見える……というか、もう透けるとかそういう慎ましさもなく、「こういう偏見をもとに制度設計したよ!」というアピールにしか見えない代物かと思っています。
実際のところなんて私も到底把握もできていませんが、たとえば、
「なんでお金がないの?」
「賃金が下がっているのに税で巻き上げられて可処分所得がないから」
「同じ仕事をしてもいろんなバイアスで女性は男性の7割程度になってしまうから」
というのはありますよね。
「なんで出会いがないの?」
「出会いがないのではなく実はマッチングしない」
「マッチングしないのはなぜ?」
「女性は年収ベース、男性は年齢ベースでみる」
「なんで女性は相手に年収を求めるの?」
「女性では男性よりも働いて収入を得るのが困難な社会構造になっているから」
「男性が育休を取れないし早く家に帰ってくることもできない社会だから、せめて稼いでもらわないと困るから」
とかも。
単純に考えるとこんなところ。これだけでもジェンダー平等の実現、ケア労働の評価など着手すべき課題は山積みです。
あとは「結婚」ではなく「子ども」にフォーカスすると、
「子どもはいらないの?」
「えっ。ほしいと思ったって、あれだけ母親に厳しくて、しかもそのことに無自覚な社会で、子ども育てられると思ってるの? こういうことを言うと『育ててる人もいるよ、甘え』とか言うんでしょう? そのスタンスがどこを見てもある、それが無理だっていってるんだよ?」
「小さい子を持つ母親」というマイノリティが苦しめられているのは、そこに目を向けることができる人にとっては明白なところだと思います。
さらに、
「なんで結婚しないの? 子どもはいらないの?」
「姓を変えたくないから。これまでのキャリアが絶たれてしまう。だから事実婚にした。法律で保護されていないから子どもも持てない」
「同性婚が認められていない。里親制度とかを利用して子を育てたいと思っても、社会の圧力がひどい。自分たちはそれに屈しない気持ちを持てているけれど、子どもにもそれを背負わせるのは申し訳なくて踏み切れない」
「親が宗教に入っている。日本だと偏見がひどすぎて全然マッチングできない」
私が気づいていないだけで、もっとたくさんの「結婚できない理由」が当然あると思います。
今回の支援方針に見える「婚姻届けを出して一緒に生活を始めたから次は子ども!」なんて、今や「就職できればあとは時間経過とともに給与上がるし大丈夫だね!」と同程度の謎理論です。
まとめ
言いたいのは「この制度を検討するのに掛かるコストが無駄!!!」という点です。(生産性は知りませんが)時間単価が高いお偉方の時間を使ってたたき台を作り練り直し検討し……という中でかかるコストはもちろん税金です。で、目的である「少子化解決」がどれくらい進むかといえば、私のつたない考えでは前述のとおり。
だったら、冒頭で述べた「政府の支援は世間へのメッセージになる」という側面を利用して、実際には金銭的支援の適用対象はすごく狭くなってしまってもいいから、「偏見をなくす」「実質的平等を実現する」という方向にかじ取りする方に予算を使ってもらった方がはるかにコスパがいいと思っています。偏見や押し付けを減らすことは、直接的な害を被っている人たちが救われるだけでなく、「マイノリティになったらしんどいから動けない」と思って行動に制限をかけていた(見かけ上の)マジョリティだって生きやすくなるんです。それは「親ならばこうあるべき」的な押し付けを下火になるのを意味します。
あとは余談ですが、今回の拡充が「パートナーシップ促進」、転じて「孤独により発生する医療費の抑制」を目的としているならいいです。「結婚はコスパが悪いと思ってる人ー、孤独の方が最終的にコスパ悪いよ! 心身ともにお医者と仲良しになっちゃうよ! 参入しやすくしてあげるからパートナーシップに投資しな!」っていう目的。その際は同性パートナーシップや事実婚も対象にしてほしいですが。
今回の拡充、政府のメッセージは、私は冒頭のように聞こえました。いろんな立場の人が市井にはいるというのが見えていない、あるいは見る気がない、そういうメッセージです。少し前は、男女で夫婦になり子どもを育てる、それが当たり前で、できない理由は金銭問題くらいしかなかった。だから結婚を後押しすればOK、という理論。
あるいは、面倒なんでしょうか。多様であるものを受け入れるというのは自分の信念をぶち壊すことなので苦痛が伴います。それは嫌だ、だから慣れ親しんだものだけしか目を向けたくない。
はたまた、あんまり考えていなくて、「とりあえずなにかをやった実績は作りたいけど、そんなにお金もないから適用範囲は言っても狭めにしておこう」なのかもしれません。
どれでもいいですが、私にとっては、そういう人たちが策を練ると今回のようなものになってしまうのかなぁと思うようなブツでした。
昔と比べたら、先人の皆様が勝ちとってくださったおかげで、ずっと生きやすい世だと思います。それでもまだ、「こんな世に子どもを送り出すなんてかわいそう」と思ってしまうときも多いです。
子どもも「人」であり、送り出すからには、その子が少しでも生きづらさを感じずに済む世になってほしい。
そういう気持ちに目を向けた政策に期待します。
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