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【ネタバレ有】アニメ・虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会第12話「花ひらく想い」感想


今(1−11話)までの感想はこちらから


 2020年12月19日、22時30分。ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のアニメ第12話が放送されました。

 とんでもなかった……。
 まずは歩夢が踏み出せて良かった、というのと、侑の夢が形になって良かった。ただ心が……もう……どうしましょう、という感じです。
 次回予告を見終えた後、本編の内容と、次回が最終回であると言う事実に心底震えています。
 同好会のメンバーとファンの子たちとの交流や、いよいよ直前となったお祭りの雰囲気も感じられ、それぞれの「らしさ」やクライマックスへの盛り上がりが描かれた回でした。
 あと個人的に、侑だけでなく歩夢の中でもせつ菜の存在がきちんと夢の始まりに見合う大きさを持っていたのがめちゃくちゃ嬉しかったです。下でも触れます。

 この記事はアニメ感想ですが、若干スクスタの各種エピソードのネタバレ(中核とかではない部分)を含む可能性があります。
 アニメの内容についてはネタバレし散らかすのでご注意ください。

 ところでパスケース、定期券の使い方が凄すぎるし道路標識などの隠喩、本編でも歩夢ファンの子や侑の口から語られた花言葉での比喩など今回も細かい演出がすごかったです。すごかった……。
 11話の道路標識同様、感想の流れで触れるところは触れます。ただ心が良い意味でいっぱいいっぱいなので、おそらく細かい話はできないでしょう。

 では以下より、限界乱文をしたためます。
 なおこれは感想であって、考察や解説とは全く異なります


上原歩夢の恐れ

歩夢「私がスクールアイドルを始めたのは、みんなのためじゃないんだ。見て欲しかったのは、たったひとりだけだったの」
せつ菜「……侑さんですね」
歩夢「だけど今は変わってきてて、こんな私を『良い』って、応援してくれる人がたくさんいて。その気持ちが嬉しくて、大切で……
歩夢「今は私の大好きな相手が、侑ちゃんだけじゃなくなってきて。ホントは私も離れていってる気がするの
歩夢「でも……」


 なるほどーーーー!!!!!!!!! となりました。
 天才。このアニメを見ていて幾度となく「なるほどね〜〜〜!!!」となり続けてきましたが、これは自分にとって最大のなるほどです。本当にすごい。

 歩夢の恐れは侑の変化だけではなくて、歩夢自身の変化でもあった。
 幼なじみが離れていくのも、自分が離れてしまうのも、同じように怖かった。

 これはもうとてつもなく大きくて、今まで筆者が書いてきた感想や抱いてきた印象もあちらこちらがひっくり返されるような気持ちでした。
 そしてそれが感動的で、気持ちいいほど。

 思い返せば1話、踏み出す前の上原歩夢という少女は、幼なじみに「自分の着たいものを着れば良い」と言われてもなお、自分がピンクや可愛い服を着たいと思っていることを言い出せないような性格でした。

 少し内気で、自分に自信のない少女。そんな歩夢の手を引っ張る存在は侑で、だからこそ歩夢にとって侑はとても大きな存在だった。
 そんな彼女とずっとふたりの世界で生きてきたのに、それが相手の変化だけでなく、自分自身の変化から崩れていこうとしている

 歩夢にとってはそのことは、ただ幼なじみに置いていかれることよりも怖いことだったのかもしれません。

 置いていかれたのなら走って追いつけるかもしれませんが、自分自身も離れていってしまうのなら、走れば走るほど遠い場所へ辿り着いてしまうかもしれない。
 少なくとも、同じ場所で同じ夢を見るのとは違った、自分でも想像のつかない未来になってしまうのかもしれない。

 定期券=パスケースの示す「決められた範囲」で生きてきた歩夢にとっては、どこにいくのか分からない未来は恐怖の対象だったのではないかと感じました。


 端から見ている視聴者の自分にですら、歩夢が侑をどれだけ重要な存在として見ているかは十分すぎるほど伝わってきています。
 2話以降に見られる、侑の言動に対する細かな反応などで積み重ねられてきました。

 そしてそれは「きっと歩夢だってスクールアイドル自体に憧れて、せつ菜から受け取ったときめきから全てが始まって、ファンの存在だってもう知っているはず」という留保をもってしても、「それでも歩夢にとって侑が唯一の存在なのだろうか?」と考えてしまうほどに。

 でもそうではなかった。

 きっと大好きで特別なのは事実としても、もう見てほしいのはたったひとりではなくなっていた。
 それはふたりにとってもネガティブな意味を持つものではなくて、今まで描かれてきた「侑にとって大切な存在が増えた」のと同じように、「歩夢にとって大切な存在が増えた」ということ。
 世界が広がったということなのだと思います。

 あとはそれを歩夢が肯定的に受け止められるかどうか。目を逸らすものではなくて、受け入れて新しい未来のスタートへ立てるかどうかの問題。
(ここについて大きく関わったのが全ての始まりであるところのせつ菜というのが個人的にマジで最高なのですが、この点は下で触れます)。


歩夢「私、侑ちゃんだけのスクールアイドルでいたい。だから、私だけの侑ちゃんでいて……?

 これは前話の歩夢のセリフです。

 自分はこれを聞いて、すっかり「歩夢と侑の『スクールアイドル』は食い違っていて、だからこそこの爆発に至ってしまった」と思い、それを感想に書いていました。

 今話を見ると印象がものすごく変わってきます。
 後段がとてつもなく重要なのだと思っていたら、前段も歩夢にとって非常に重いものだった

 あれは侑への懇願でもあったのかもしれないけれど、自分への確認のような意味合いも持っていたのではないかと思います。
 自分の気持ちが、スクールアイドルを始めようと思ったときと同じままであると確認したかった。自分の願いが形を変えつつあることを認めたくなかった。というような。

 侑を引き留めていた、というのはそうなのでしょうが、その動機付けについて受ける印象が、今話視聴後だとかなり変わります。

 アバンでの前日のやりとりを無かったことにした態度も、「今日は一緒に部室に行けるの?」と言いながら腕を組むのも、きっとその意味合いを持つもの。
 続けてモノローグにあった

離れたくなんて……ない

 というセリフも、離れていく侑を引き止めるようなニュアンスもあるのかもしれませんが、それと同じくらいかそれ以上に、自分自身へ確認のために言い聞かせているようにも感じられました。

 自分にとって侑は離れがたい存在で、同じ夢を同じ場所で見ているのが理想で、という、1話段階ではきっと本心からそう思っていたのだろう未来像。
 それが自分の内側から変わっていっていることから目を逸らすために、侑と少しでも多く時間を過ごそうとしている自分と、腕を組んで寄り添う自分とを確認していたような。

 ただこれは1周目で歩夢の真意を知ってから見返した後の感想なので、初見だとしんどさのあまりこのモノローグから続いた「虹色Passions!」のイントロに対して初めて「めちゃくちゃだよ!!」となってしまいました。

 前回はEDをどんな気持ちで見ればいいかわかりませんでしたが、今回はOPをどんな気持ちで見て良いか分からなくなるとは……。


 とにかくすごかった。歩夢の不安の根拠が分かるとここまで見てきたものの印象が変わるとは。

 前話の感想内で、ざっくりと言うと「歩夢には侑以外のファンもいて、同好会のみんなとの絆や関係性もちゃんとあるはず。あとは歩夢がそれをどう捉えているか」みたいなことを書きました。
 あれはもはや「でも歩夢ってそれ本当に分かってるのかな……?」という言外の疑問と、「分かっていてくれ……!」という願いのような気持ちを雑な語彙につめた文章です。

 でも歩夢は、そんな地点はとっくに通過していました。

「自分では良いところなんて分からないけど……今日子ちゃんたちがああ言ってくれるのは嬉しい!
「同好会に入って数ヶ月。スクールアイドルとファンが一緒になって、どんどん世界が広がってる!」
「侑ちゃんもすごくはりきってて、楽しそうで良かったなって……そう思ってるのに」

 きちんと分かった上で、それだけ自分が侑以外のことも大好きに思い、大切にしていると理解しているからこそ怖がって、悩んでいました。

 予想を遥かに超えていた……こちらの心配と願いのずっと先に歩夢がいました。

 たぶん11話の後に書いた感想で考えていた歩夢にとっての「スクールアイドル」や侑の存在については、実はもっと前段階の彼女の心境だったのだと思います。
 おそらく全てが変わったと言うより、新しい意味合いがドドンと追加されたような感じだとは思うのですが、追加された新しい視座がとんでもなく鮮烈だったのでひたすらにすっげぇな……と感じていました
 直接歩夢から語られたのは23、4分の内の数分なのにインパクトがデカすぎる。

 そういえば10話が終わったあと某所にて自分は「Dream with Youの『繋いだ手』で手が離れるカットをまともに見られなくなるかもしれない」などとのたまっていたのですが、今は別の意味でまともに見られなくなりそうです。


優木せつ菜と上原歩夢と「大好き」

 思えば前話の買い出しのシーン、

新しい好きが増えるって、素敵ですよね!

 という言葉は、侑の好きなもの(ピアノ、音楽)が増えたということを直接的には指していますが、歩夢視点だと自分自身の心境そのものにも刺さっていたのかもしれません。
 歩夢はそれをただ「素敵」とは言えずに立ち止まっていて、けれど今話、彼女を動かすきっかけになったのはせつ菜の言葉でした。


せつ菜「私も、我慢しようとしていました
歩夢「……え?」
せつ菜「大好きな気持ち。でも……結局やめられないんですよねっ」
歩夢「……!」
せつ菜「始まったのなら、貫くのみです!


 せつ菜もただ最初から今に至るまで「大好き」をありのままに貫けていたわけではありません

 内実は少し違うとは言えど、今の歩夢と同じように立ち止まったことがありました。自分の中の大好きを止めて、我慢しようとしていました。
 せつ菜がまた新しく踏み出せたのは3話の屋上。

せつ菜「これは、『始まり』の歌です!」

 と宣言した瞬間。
 そんな彼女だからこそ、歩夢へ言葉を届けられたのだと思います。

 きっと最初からずっと眩しくあるだけでは、歩夢は「せつ菜と自分は違う、せつ菜は強くて自分は弱い」といった風に結論づけて、踏み出すことは難しかったのではないかと感じました。

 上でも下でも触れてますし触れますが、歩夢のたどり着いた、というよりも自身のそう思う心を受け入れた「今は私の大好きな相手が、侑ちゃんだけじゃなくなってきて」という言葉。
 変わっていくことが怖くて、強く感じていても言えなかったこと。それを声に出せたことが素晴らしかった。
 1話で歩夢自身が言っていた「自分の素直な気持ちをまっすぐに伝えられる」という「スクールアイドル」の凄いところが、歩夢にも確かに息づいていました。

 1話での、せつ菜についてのセリフがあります。

「本当は私もせつ菜さんに会ってみたかった! けど、会っちゃったら自分の気持ちが止まらなくなりそうで、怖かったの
けど……動き出したなら、止めちゃいけない。我慢しちゃいけない

 そしてこのときは、

「私……好きなの! ピンクとか、可愛い服だって、今でも大好きだし、着てみたいって思う!」

 と、歩夢の持っていた「大好き」を侑へと叫ぶ台詞に繋がっていました。

 今話では、夢の始まりで受け取ったものを、それをくれた相手との会話の中でまた改めて受け取ります。

 1話でせつ菜に「ときめき」と「大好き」をもらい、同じようにそれをもらった侑がせつ菜をすくい上げ、今話ではせつ菜がみんなへの「大好き」を抱えて動けなくなった歩夢の背中を押した

 たくさんの感情が巡って重なり、繋がって、同好会の向く方向がひとつになりました。

 せつ菜との会話を終えて走り出した歩夢、その先に映り込んでいたのは青信号とUターン禁止の道路標識
 前回の赤信号で止まり、非常口へと駆け込んだ姿とは対照的です。
 もう進める。振り向かない。ひとつの話だけで完結しない細かな隠喩もすごいシーンだと感じました。

 直前のグータッチもせつ菜らしくて超熱かったし、走り出した想いの先、侑やファンの子たちとの会話の先の「みんな、大好き!」に繋がっていくのが最高です。

 歩夢の前進の大きなきっかけは、彼女に夢を与えたスクールアイドルが何よりも大切にしている「自分の中の『大好き』を否定しない」という気持ち。
 たくさんの感情が交差する中で、最初のスクールアイドルの心がここへきてまた人の心へ光を灯すのがはちゃめちゃに好きです。

(あと直接本筋に関わりはしないのですが、「始まったのなら、貫くのみです!」という言葉を聞いてふと5話Bパート最後のエマのセリフ、
 「やりたいと思ったときから、きっともう始まってるんだと思う
 を思い出しました。スクールアイドル通と呼べるレベルでめちゃくちゃ好きという共通点がある2人なので、どこか思想も似通っている部分があるのかもしれません)


高咲侑の夢

「私ね、音楽やってみたいんだ
「2学期になったら、音楽科への転科試験を受けようと思ってる

 今まで言葉にされてこなかった侑の「何か」、夢。今回本人の言葉ではっきりと聞くことができました。

 今話までの感想で度々「侑の言う『何か』や『夢』がなにか気になる」と書いていましたが、薄々していた予想の方向性は当たり、中身は外れ、といった感じです。

 ピアノからして音楽関係のなにかとは思っていて、作曲(歩夢のための曲か全体曲)をすることかと思っていましたが、転科までとは思わなかった
 ごく僅かに有りうるかなとは考えていましたが、実際にそうなるとは思っていませんでした。

 高校2年生の2学期。それこそ普通科の準備が早い子なら受験を考えて予備校に行っていてもおかしくない時期です。
 この時期に転科というのは並々ならないことで、それも元から音楽経験があるのならまだしも、どれだけ長く見積もってもせいぜい数ヶ月程度の経験で向かうには大きな試練だと思います。

 虹ヶ咲の転科試験がどれだけハードかは分かりませんが、人気校である以上(生徒受け入れ数も激多いとはいえ)入学の段階でそこそこにふるいにかけられているはず。
 専用設備や機材、講師を必要とする専門性の高い学科ならなおさらで、途中での転科試験となれば輪をかけるはずです。

 だからこそ、これを決意した侑の気持ちは相当に重く、それこそ一番近しい幼なじみには自信がついたらすぐにでも伝えて、応援して欲しいものだったのではないかと思います。

 知った上で見る対話拒絶パートの凄まじいしんどさがヤバいですが、逆にそれを歩夢に伝え肯定してもらえたBパート終盤以降の流れの「良かった……!!!」という感情がすごいです。

 10話や11話で明言されたように、侑もまた自分の夢に自信を持ち切ることのできない、未来を手探るひとりの高校生
 その彼女が支えられる相手を得られたことは、本当に大きな出来事だったと思います。

 ここについては歩夢だけが作用したかと言うとそうではなくて、今までの同好会のみんなとの積み重ねや、10話の音楽室でしたせつ菜との対話も重大なキーになっていて、ここに至るまでの話は決して歩夢と侑の間だけで完結するものではない、というのも好きです。
 11話分の物語がちゃんとそれぞれの中に息づいているように感じます。


 Cパート、スクフェスに向けてそれぞれの過ごし方をする同好会メンバーが描かれながら、ピアノの音が鳴っていました。
 どうやらそれは侑の作った曲。できているところまで弾き終えた後、侑は歩夢に向けて笑います。

侑「曲作りにチャレンジしてみたんだけど、今の私にはここまでがせいいっぱい

 夢として宣言したけれど、やっぱりどこか口調には弱気が滲みます。

 けれどそれは、1話で同じように夢を伝えた幼なじみの姿と重なるように感じました。
 1話で、歩夢は歌い終えた後、

歩夢「今はまだ、勇気も自信も……全然だから。これが、せいいっぱい

 と、1話の冒頭で「いまいちときめきが足りない」と言われたパスケースを、それでも侑に向かって差し出します。
 歩夢はパスケースで、侑は曲。足りない勇気と自信の中で、せいいっぱいの何かを相手へ差し出すのは、ふたりとも同じでした。
 なんだかこんな場所にもリンクを感じてしまいます。

 ところでこの侑の上達ぶり、10話でも思いましたが凄くない……? 恐らくマネジメントやらフェスの準備やらで忙しい中、好きな曲弾くどころか途中までとはいえ自力で曲作りだしましたけど……!?

 ピアノに触れたことはほぼ無いので分からないのですが、独学でこの期間でこれくらいって一般的なんでしょうか。
 分からないのが歯痒いですが仕方ないので諦めます。ただ少なくとも、侑が大きな壁を伴う夢に対して本気で向き合い続けていることには違いないでしょう。

 あとCパートの場面、多分このアニメで初めて侑の部屋に電気が点いたのになんだかとても安心しました。
 これまで夜でも幼馴染を呼ぶときでもお構いなしに真っ暗だった部屋に明かりが点き、そこで初めてされるのがピアノの演奏というのがなんだか……良いですね……!


高咲侑と上原歩夢と新しい形

 Bパート終盤、歩夢が歌う前の「今までありがとう」。歌った後の「これからも、よろしく」。


 「今までありがとう」は、描けないままの夢や変化を恐れる心を抱えて、それでもここまでたどり着いたこれまでのお互いへ対して。

 「これからもよろしく」は、形を持ち目指し始めた夢と変化した夢を受け入れ、違う夢を見ながら同じ方向を向くこれからのふたりに対してなのかな、と感じました。

 別離ではなくて、新しい約束の形。新曲の「Awakening Promise」というタイトルが完璧で最高です。
 そしていろんなものは変わっても、侑が渡し、歩夢が髪へ挿したピンクのローダンセのように「変わらぬ想い」がふたりの間には確かに存在しています。

 夢を持っているかどうかについてで言えば、歩夢は侑よりも先にいました。
 侑は歩夢の夢を一緒に見ながら、自分の夢を探す段階だった。この点でいえば侑は歩夢に引っ張られている関係でした。

 歩夢が歌う間、「スクールアイドル」と「ファン」である間は、手を離して階段の上と下。
 けれど終わってからは、歩夢と侑は手を繋いで、互いに同じ高さで階段を登っていきます。

 1話と同じ場所、同じふたりで描かれる、少し変わった関係性。
 別々の夢を見始めることで離れたようでいて、より真なる意味で隣に立ったのかもしれません。
 

 あと終盤、「みんなが大好き」とファンと侑とを抱きしめた歩夢に対して、帰り道で

歩夢を最初からかわいいと思ってたのは私なんだからね

 とか歩夢に言う侑……本当に……そういうところ……!

 ふたりともみんなのことが大好きで、でもやっぱりお互いのことが特別だと感じている部分もある。大切なものは増えたけど、元々大切なものは変わっていない。
 今までとこれからもあり続けるであろうふたりの形が見えたようなセリフでした。


 ここまで色々とふたりの変化について書きましたが、侑は歩夢の隣にいて、共に夢を見ている、ということについては、多少ニュアンスは違えど変わっていないと思います。
 立場が違い、それぞれの持つ夢自体は違っても「相手の夢が叶って欲しい」という気持ちを持つことや、支えることはできます。

 侑がそうしてきて、歩夢がピアノを弾く侑の曲を素敵だと褒めて笑ったように。
 また、同好会のメンバーがそれぞれの物語で影響しあい、街一つをまるまる巻き込んで、そこに集う十人十色の夢を叶えるお祭りを作り上げているように。

 個性や考えなど何もかも違うけれど、頑張ることは同じ。夢に向かっていることは同じだけれど、その夢の中身は違う。
 この「違い」についてずっと優しく、前向きで、愛に満ちた熱い気持ちを描き続けてきてくれているからこそ、筆者はこのアニメのことを心から大好きだと感じています。

 

 ところで。
 最高で心が温まっているのをいいことにしんどみポイントの話もします。

 アバンとAパート後半の対話と拒否の流れで描かれた高咲侑の誠実さと、だからこそ際立つ上原歩夢の恐れ、侑にとっての歩夢の大切さについてです。

 アバンは11話のラストのシーンからその翌朝、歩夢と侑がいつも通りに登校時の待ち合わせをし、歩き始める場面からです。

侑「ねえ、昨日のことなんだけど」
歩夢「ごめんね? 変なこと言って……
侑「っ……」

 アバン内のやりとりはここで終わります。
 上に書き出した会話の最後で、侑は歩夢の顔を見て息を呑みますが、おそらく「この会話は今ここで続けるべきではない」と気づいたからでしょう。

 幼なじみの様子がどうやら尋常のものではないとは昨夜の時点で分かっていたでしょうし、一度やんわりと拒まれた話に朝一番で踏み込むのは重いし、あの深刻な様子を「変なこと」と片付けてしまう幼なじみに対して、すぐに適切な言葉は出なかったのかもしれません。
 今までは良い意味で発揮されてきた侑の相手の気持ちを察せられる聡さが、ここにきてコミュニケーションの枷となっていました。

 ですが、ここで流したとはいえそこで放置はしなかった、というのが侑の誠実さというか、強さを表していました。

 Aパート終盤、打ち合わせ帰りにせつ菜に様子のおかしいことを問われ、大丈夫だと押し切った先(ここで踏み込ませなかったのは、侑がこのことを2者間の対話で解決すべきだと考えていたからだと思っています。Bパートで歩夢が動き出したのはせつ菜との会話がきっかけだった訳で、せつ菜というキーを欠いた対話が失敗したのは必然だったのかもしれません)。

侑「昨日のこと、ちゃんと話そう!」
歩夢「だから良いよ、それは……」
侑「良くないよ!」
侑「こんなモヤモヤした感じ、絶対良くないって……!
侑「……私、昨日、歩夢に伝えたいことあったんだよ?」

 前日のアレからの今朝のコレからの改めての「その話はもう良いよ」からのこの対応。
 しかも前日ピアノについて「せつ菜ちゃんには話してて、私には……!」と言っていた歩夢に、

せつ菜ちゃんが知ったのは偶然で、歩夢には最初に言うつもりだったんだ
内緒にしてたのは、悪かったけど……ちゃんと考えて決めたから、だから、歩夢には聞いてもらいたいんだ。良いかな……?

 と事実の説明、隠していたことの謝罪夢への気持ちの重さと、だからこそそれを大切な相手である歩夢と共有したいという意思表示、昨日拒んだ彼女に対して、これから話して良いかという確認をしています。

 歩夢の心が立ち止まっているという前提を無いことにすれば恐ろしいまでにパーフェクトな対応だと感じました。
 数行分のセリフに誠実さが満ちまくっています。なんだこの高校生……いや人としても……丁寧にも程がある……。

 通常の回ならこの3分後くらいに傘が開いている可能性すらあります。
 侑の言葉選びが侑視点で歩夢を傷つけないように丁寧に誠実に選ばれているからこそ、よりこの後の歩夢の叫びが心を苛んできました。


歩夢「……やだ……」
歩夢「それって、私と一緒じゃなくなるってことでしょ!? 分かるよ! だって侑ちゃんがこんなこと言うの初めてだもん!!」

 何がとりわけきついかって歩夢に拒否されてるときの侑の顔です。

 こんな表情見たことなかった……1話で同好会廃部の話を聞き、見つけかけた「何か」がなくなりそうなときも、前話終盤で押し倒されたときも、こんな顔はしていませんでした。

 やりたいことを共有したいのに、それを拒まれていること。目の前で大切な相手が泣きそうなほどに傷ついていてその原因が自分の初めて持てた夢にあるという状況。
 言葉ではっきりとぶつけられているさなか、その表情は驚きと戸惑いと、歩夢を傷つけていることで侑自身まで傷ついているようにすら思えました。

 3話で憧れの存在が夢を捨てようと叫んだときですら、すぐさま真っ直ぐ毅然と言い返した彼女。
 2度拒まれてもなお続けようとしたとき、幼なじみのか細い拒絶の息遣い(ここの息遣いがマジですごい)が聞こえ、口を閉じました。

侑「また……今度にするね」

 高咲侑のこんな震えている弱気な声も……聞いたことが……なかった……

 それだけ侑にとって歩夢を傷つけていることは重大なことで、恐ろしいこと。痛みすら伴っているかもしれません。
 真摯に対面する相手へ言葉を渡し続けてきた侑が止まるほどのことで、そうさせる歩夢は侑にとってもそれだけ大切な存在なのだと分かります。

 このシーンの後に同好会みんながフェスの準備をしている場面に切り替わり、劇伴もそれに伴ってポップなものになるのですが、見てる側の気持ちはそんな簡単に切り替えられなくない!? いや引きずられても困るけども!! と感情がおかしくなってしまいました。

 あとここ、侑の夢を「私と一緒じゃなくなる」と察してるの、自分の夢を一緒に見続けるというのが変わってしまうというのはもちろん、もしかしたらそれが転科や進路に関わるものだと当たりがついていたのかもしれません。

 転科にせよ進路変更にせよ、それが今まで触れていない音楽が関わるものである以上、どの想定であれなかなか実際には無い選択肢です。
 でももしそれを歩夢がある程度想定したのだとしたら、この幼なじみは相互に解像度の高さがヤバい普通はありえがたいことですら察することのできる領域にまで分かり合っていたのかもしれません。
 そうするとそのふたりがすれ違っていたことの重大性がさらに増してきて……なんだこれは!!

 こういう苦しい場面について、現代の人間関係を丁寧に丁寧にデフォルメして細かく描いていくアニメなので、初見の時は呻きながら胸を押さえていました。
 ただこの地に足着いたしんどさが解決、前進したときの爽快感や滲み入るような感動はだからこそ深くて、見るたびに心が打たれます。

 筆者がどのように感じたのかはこれまで書いた通り、と言いたいのですが、どうやったって感情を言葉にするにあたって取りこぼしまくっているので歯痒さもあり。
 けれど、言葉にすることでより「言葉にしきれないほどの感情を受け取った」ことの実感が湧くところもあるので嬉しくもあり。
 こんなにも心震える時間をもらえたことへの感謝が胸に浮かび続けています。

 いや本当によかった……本当に……。

 歩夢の気持ちや感情も見えた回ですが、対人についてはある意味完璧に近い存在であり続けていた侑の、より弱い部分、それを知った上だからこそより分かる真摯さを改めて実感することの出来た回でもありました。
 予告でのタイトルコールが歩夢と侑のふたりだったように、想いが花開いたのは歩夢だけではなかったのかもしれません。

 あと歩夢のモノローグが最後に来るところもう〜〜〜!!! そういうことする〜〜〜!!! ってなりました。このアニメそういうことする。そういうところがあります。無限にやってほしい。



ほか、ここすきポイントなど雑記

・「璃奈」「浅葱ちゃん」

 呼び捨て!?!? マジで!?!?!? すっごい距離縮まってるね!?
 初見時、歩夢の表情がめちゃくちゃ気がかりな中で不意を打たれて超びっくりしましたし、心底「璃奈ちゃん!!!!」となりました。
 すっごい仲良くなってるじゃん良かった〜〜〜!!!! の気持ちで満たされました。
 きっと色葉ちゃんや今日子ちゃんともグングン距離が縮まっているに違いない。本当に心が温まりました……良すぎる……。



・同好会メンバーと人間関係

 全部を書くと体力が尽きるので一部だけ。

 前話で彼方の歌に励まされてインターハイ出場を決めたバスケ部の子、校庭で眠っている彼方ちゃんを他のファンの子たちと一緒に嬉しそうに見守ってるのが可愛かったです。
 でも実際推してるアイドルが寝てるのをただただ眺めてられるのって……現実世界で考えたらとんでもないことだな……!

 あとしずくを呼びにきた演劇部部長、相変わらず出現の仕方が怖いですが8話で良い人だと分かったのでそこまでビビらずにすみました。
 そしてカットへの写り方的にもしかしてせつ菜も出……ヒーローショーとかになるかもしれないな……。すぐ近くに立っていた副会長は前話でせつ菜が好きと言っていましたが、実際に対面したときどんなリアクションを取ったんでしょうか。

 あとこれはファンというより同好会メンバー自体なのですが、フェス本番までお互いのステージ内容を明かさずに、それを「その方が面白いから」でやってみせるの、我の強い集団〜〜!!! という感じで大好きです。

 お互いにアドバイスやらなんやらは難しくなるかもしれませんが、ライバル同士、お互いにとことん自分のやりたいことをやってみせる! という強さを感じます。ほんとすき。もっと無限に自己主張し続けて欲しい


 歩夢のファンだと6話段階でも言っていた璃奈の友達(今日子ちゃん)が、今回大きな役割を果たしていました。
 打ち合わせを通じて歩夢の元気がないことに気づいた結果、起こしたアクションは侑に声をかけ、ステージを作る上でのアドバイスを仰いだというもの。

 6話のジョイポリスではほぼ侑をスルーで歩夢たちまっしぐら(侑は裏方だし動画に顔出してるわけもないのでそりゃあそう)だったけれど、彼女を元気付ける上で必要なのは侑なのだということは分かっていたのかもしれません。
 璃奈の友達なのでそこからなんとなく話を聞いていた可能性もありますし、どうあっても素晴らしい。

 歩夢が侑を抱きしめたとき、感動や見守りの姿勢より真っ先に「ずるーい!!」が出て一緒に抱きつきにいくの、「同じ学校のスクールアイドル」という遠くも近い存在を推している人間として満点の行動でした。そりゃそうもなるよね……!

 そしてファンの子に抱きつかれるのを待つのではなく、自分から腕を広げて
「みんな、大好き!」
 と心からの言葉をぶつける歩夢が最高にスクールアイドルしています。

 超でかいフラワーロードというものすごい頑張りと、黄色のガーベラたくさんの言葉で一生懸命に伝えられた「愛」がはっきりと見えるからこそ、それを渡した相手である歩夢から気持ちを真っ直ぐ返してもらえたのがとても良かった。
 純粋に向けた愛情が報われる瞬間というものは、見ていて本当に心地良いです。


・「かすみん」とファン

 同好会メンバーが次々ファンの子に呼ばれ、最後の砦とばかり思っていた歩夢にすら先を越され嘆いていたかすみの元にも、ちゃんとファンの子(はちゃめちゃかわいい)がやってきていました。

 このときに「かすみん……?」と呼んでいるのが最高です。

 スクールアイドルの中須かすみは自分でも言っている通りキュートな「かすみん」。その姿の彼女をきちんとその通りに呼んでいる、というところが、本当にファンなんだなと感じさせてくれました。

 また、その後にかすみのために大きなセットまで組んでくれているのを示唆するカットがあり、決して不憫なコメディ役ではなく、「スクールアイドル」としての「かすみん」の努力がしっかり実を結んでくれている描写本当に心から嬉しかったです。

 あとこの文章書いてる最中に知ったのですが、どうやら呼びに来た子は「コッペパン同好会」所属らしく。
 焼き菓子同好会といい流しそうめん同好会といい、製菓やそうめんに留まらないジャンル内での小分けがすごい。服飾同好会の範囲の広さが逆に異質なのかもしれません。
 欲を言えばこのファンの子とかすみの交流をもっと……見たかった……! 来週見られるかもしれないけど……!


 以上、12話を見た直後のオタクの感想です。

 ひとつひとつの積み重ねも、せつ菜から侑へ、歩夢からせつ菜へ、侑と歩夢の互いへ向けられる「ありがとう」も、全てが心を震わせる回でした。

 歩夢がせつ菜の思いもきちんと受け止めていたこと、同好会やファンのみんなを大好きでいたこと、「スクールアイドル」の夢を持っていたことが明確に分かって本当に嬉しかったです。

 あと書きながら感じたこととして、これ12話ももちろん感情がめちゃくちゃになるほど感動するんですが見た上で1話を見返すと累乗でヤバいですね……なんだこのアニメ……未来だけでなく過去からも情緒をおかしくさせてくる……。


 次回は「みんなの夢を叶える場所(スクールアイドルフェスティバル)」。ひとつずつの色が積み重なって、ときに分かれて、でも最後には一緒になって虹色になりました
 同好会全員、関わってきた全ての人たちがそれぞれに物語を積み重ね、形になったその先。
 みんなの大好きが広がり、ときめきを伝え合い、夢を叶えるお祭りを見届けたいと思います。


 見届け……見届け……来週最終……最終回!?
 認めたくなさすぎる……終わらないで……困る……………終わって良いなんて一言も言っていませんが…………?

 毎話毎話見ている時間が愛おしく、きっと来週も素敵な物語が描かれるのだと思います。1期13話の物語として、綺麗にまとまるのだと思っています。
 しかしこれはあまりにも寂しい。寂しすぎる。考えると心がグググーっとします。
 歩夢が力強く、明るく踏み出した回なのにこっちが「アニガサキと一緒じゃなきゃ……一歩も前に進めないよ……」となってしまいそうです。

 でもブルーレイの発売はこれからですし、アニメ版準拠のビジュアルフォトエッセイもまだまだ残っていますし、来月から再放送もあるし、他にもいろいろなことがあるので心を強くして生きていこうと思います。
 でないと心が2020年に取り残され続けてしまうので……助けて……とりあえず生活と相談しつつ買えるものは積極的に買っていきます。

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