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ブラジル大統領はコロナ軽視?ーブラジルのコロナの影響は本当のところはどうなのか(その3)

そもそもこのnoteを書こうと思ったのはブラジル大統領への批判記事が多い中で正しい状況が伝わっていないという問題意識からです。今回のnoteでお伝えしたいのは以下の2点です。

1.他メディアの古い記事を引っ張りすぎ

この数日を振り返っても以下のような記事が”一流メディア”から出ている。

ブラジル大統領は感染増に無頓着 防止策より経済 | 2020/5/23 - 共同通信

コロナ軽視の大統領が招くブラジル危機、経済低迷にレアル安と懸念山積
2020/5/27 - Diamond Online

特別リポート:なぜブラジルは「コロナ感染大国」に転落したのか 2020/5/28- Reuter

ブラジルのコロナ無策は高齢者減らしのため?2020/5/28 - Newsweek Japan

その中に出てくる大統領のコメントは割と共通されている。上記ロイターの記事から引用すると下記のようになる。

ボルソナロ氏はさきごろ、「犠牲者の増大について質問した記者たちに対し、「それがどうした」と応じた。「私にどうしろというのか」

確かに上記の発言は問題だと思います。いくらなんでもぶっちゃけすぎ。そしてこの大統領は問題発言で以前から物議をかもしています。メディアの大好物という点ではアメリカの大統領と類似していると評されています。

ただ、このインタビューは4月29日のものである。

もう1か月前のもの。記事を書いた人は動画を一瞬でも見たのでしょうか?しかもこのインタビューの中で、もっと問題だと思われる発言すらしているんで僕ならそちらを使います。

誰かが使ったこのインタビューの断片を再利用して意味があるのでしょうか?それなら参照にした記事のURLでも張って終わりにしたらどうでしょう?

ご興味ある方はこの30分に渡るインタビューをみてください。屋外でソーシャルディスタンスを保って行われている。CNN BrasilのYoutubeをご紹介しておきます。

2.大統領が打てる対策は限定的

もう一つのポイントは大統領が持っている権限は極めて限定的だということです。連邦制のブラジルでは各州知事の方がよほど市民の実生活に対する影響力を持っています。

ヨーロッパで例えてみると、ブラジルはヨーロッパの2個分の面積があります。格差も大きいし、密集度も市によって異なります。医療体制ももちろんいろいろな地域差、貧富差の影響を受けています。そんな中で、すべてをひとまとめにした対策なんて取れないと思いませんか?EUが全ヨーロッパ市民の活動レベルの施策を決めていたらおかしいと思いませんか?

国全体で行う施策の例に貧困層への経済的サポートがあります。大統領が決定して国レベルで実行しています。しかも議会の提案した金額を大統領が増額して実施されている。無策ではありません。

州レベルで考えると感染状況もかなりばらつきがある現実を理解しなければいけません。結果対策も州によって異なります。他地域同様、感染防止と経済対策というジレンマを抱えた中で、政策の難しいバランスが求められます。

このあたりについてはサンパウロ歴も長い平野氏の下記の記事で非常に詳しくまとめられています。

ブラジルのCOVID-19報道に接するためのモノサシ

サンパウロ州知事のドリア氏は次期大統領候補とも言われるほど実績も支持もあるやり手の政治家です。サンパウロ州では感染防止の観点から多くの商業活動が禁止されています。一方で働きたいのは市民で街中で対ドリア知事のデモが起きているのが実態です。この人たちはむしろ大統領の方針を支持しているわけです。そして、もちろん大統領を非難するデモも行われてきました。

デモは自然に発生するものではありません。火付け役がいるんです。そしてその火付け役は多くの場合政治的な対立陣営が間接的にかかわっている場合がほとんどです。

非常に残念なのは、現大統領のボルソナーロ氏と次期大統領を狙うドリア氏の政治的対立の中でコロナ対策ですらきっかけを与えてしまっていることです。これは日本でも同じような状況かもしれず、政治家の大半はそういう生き物なのか、という感じすら個人的に受けてしまいますが。

なお、下記の辻本氏によるDiamond Onlineの記事を読むとそのあたりも含めた全体感をバランスよく理解できると思います。

ブラジル大統領が取る「厳格でないコロナ対策」の背景と国民の苦悩

ということで、ブラジルが無策ではないこと、ブラジルの大統領は物議をかもす人物ではあるが、やはり無策ではないことをご理解いただければ幸いです。

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