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【物理】 力のモーメント

ここで理解すること…回転しないにはどうする?/どんな時に使う?/重心とは?

① 剛体の運動

質量はあるが,大きさは考えない(点扱い)物体を質点といいます.反対に形や大きさを考え,力を加えても変形しない理想的な物体を剛体といいます.力を加えると場所によっては物体が傾いたり転倒してしまうかもしれません.ここでは物体を剛体と考え,回転運動について学んでいきます.
まずは回転運動に対してのイメージを膨らましてもらいます.

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上の図のよう細長い直方体の剛体を摩擦のある床に置き,右上の部分をひもでもをくっつけて力Fで引っ張るとしましょう.まず細長い直方体を横に寝かしたとき,このくらいの直方体であれば倒れずに床を滑りそうですね.このように構成するすべての点が同一の速度で移動する運動を並進運動といいます.
では次に下のような置き方をしたときの細い長い直方体ならどうでしょうか.これだとさすがに倒れそうです.このようにある点(今回は図の〇の部分)を中心に回る運動を回転運動といいます.
剛体の利点は質点と違って物体の大きさがあることです.最初の図なら回転も特にしないので質点として考えてもよいですが,細長い物体の置き方によっては回転運動する可能性があります.よって回転運動する場合は質点ではなく,剛体としてみなし判断していく必要があります.

② 力のモーメント

まず,回転運動を考えるために剛体の大きな特徴を1つ提示します.

剛体にはたらく力を作用線上で移動させても,その効果は変わらない

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要するに力の矢印を作用線上であれば,力の加わる場所を移動していいよということです.これの効果は後程わかりますのでまずはこのことを頭に入れておいてください.

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図はドア(どこでもドアっぽいやつ)を天井からみた図です.ドアノブをちょうつがいから離れたところに設置すれば簡単にドアを開けることができます.でも,もしちょうつがいに近いところにドアノブを設置してしまったら,開けるのにかなりの力が必要になりそうです.

つまり,回転運動には力だけでなく距離という概念も必要だということがここで分かると思います.そこで力と基準からの距離をかけて(垂直方向同士です.あとで詳しくやるので分からなくて結構です),回転能力を表す度合いを考えます.このことを基準点からの力のモーメントといい,

M=Fℓ(M:力のモーメント,F:力の大きさ、基準点からの距離)

と表すことができます.単位はニュートンメートル[N・m]です.

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③ モーメントの解釈

モーメントの計算のときに重要なのが

力と距離を垂直に

ということです.モーメントを表すお約束として,二つを垂直に掛け算することが決められています.そうするとモーメントというものは力を分解する解法と距離を分解する解法があることになります.何を言っているかわからないと思うので,具体的に計算してみていきましょう。

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上図のように剛体の点Pにはたらく力をFとし,そこにはたらくモーメント(Oを基準=回転軸に設定)をMとします.OPの距離をlとします.O基準ってことを忘れずにモーメントの式を立てていきます.

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まず上のように距離を分解する方法でいくと、Fと垂直になるのは分解してlsinθとなりますね.このときFは剛体では作用線上を動けるのでモーメントをMとるとM=F×lsinθ=Flsinθとなりますね.

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続いて今度はFを分解するやり方で計算してみます.
このとき距離lと垂直になるのはFsinθとなりますね.よってモーメントは
M=Fsinθ×l=Flsinθとなり答えは一致しましたね.以上からモーメントを求めたければどちらかを分解して垂直同士をかければいいということです.
以下にポイントを軽くまとめておきます.

キーポイント

・力のモーメントとは回転中心からの距離×力
・お互いに垂直成分どうしの積をとる
・力のモーメントが大きい⇔力が物体を回転させようとする度合いが大きい


④ 剛体のつり合い


その前に質点のつり合いの復習を.質点のつり合いの条件は力のベクトルの和が0だということ.これは並進運動(構成するすべての点が同一の速度で移動する運動)しないための条件です.剛体がつり合うためには並進運動しないことともう一つ、回転運動しないということが追加されます.この条件を考えるにはさっきやった力のモーメントがつり合えばよいです.つまり力のモーメントの和が0になることが,回転運動しないための条件になります.というわけで,剛体が静止するための条件をまとめるを以下にまとめましたのでチェックしてください.

剛体のつり合いの静止条件

・力のつり合い(並進しないための条件)
・力のモーメントのつり合い(回転しないための条件)

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⑤ 力のモーメントの式の立て方

例えばしたの石ころを考えます.

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これが回転しないためには点O(基準点は自由に定めて大丈夫です)の力のモーメントのつり合いより,

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となります.


モーメントの立式のポイントとして,静止している物体であれば,回転中心のどこであろうがモーメントはつり合っています.よって回転中心は自由に選んでOK!このメリットとしては回転中心を選ぶ際,いらない変数や力が多くかかっているところを回転中心にすると変数を減らして計算することができます.また問題をみてモーメントを使いそうな場面は主に2つあります.

モーメントの使い道

・力のつり合いだけでは変数が消せないとき
・距離が絡むとき

これを知っておくと問題をみたときにモーメントを使うか否かが分かるはずです.

⑥ 重心←重力のかかる場所

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剛体を細かくみると各部分には小さな重力がはたらいています.
ではこの剛体を指一本で支えるにはどうすればいいでしょうか?
これはある点からのそれぞれのモーメントの合計が0になるところを探せばよいのです.もし支えられなければ回転運動してしまいますが,支えることができれば回転運動しないですからね.そのモーメントの合計が0になる点を重心といい,重心は各力の合力の作用点として、あたかも物体全体を代表する中心として扱うことができます剛体を指一本で支えたければ重心を支えればよいわけです.では具体的な計算をしましょう.

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上のように二つの物体,座標を設定します.重心はモーメントがつり合うので重力を中心とした力のモーメント
つり合いの式を考えると,

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と原点からの重心の座標を表せるわけです.より具体例を出すなら、以下のときxを求めましょう.これは先程の重心の式を使っていきます.右端を原点としてモーメントを考えていきます.すると以下のようになります.

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モーメントは外項の積と内項の積の関係から重心位置は質量の逆比になるわけです.距離が2:1なら質量は1:2になります.このように全体の距離が与えられている場合は重心位置は質量の逆比(で内分されるとこ)ですぐに求めることができるわけです.このことを頭にいれてください.

最後に重心は必ずしも指一本で持てるところにないときもあります.
例えばドーナツ. 

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えっ,,と思うかもしれないがくわしくは大学でやります.
ここでは(* ̄- ̄)ふ~んって思って欲しいですが,でも少しもやもやを解消するためにこんなことを考えてみましょう.

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物体が4個あったとします.それらを1つの物体系とみたときの重心はO点になります.こんな風に複数の物体を扱うときにも重心は使えます.重心は必ずしも物体内にあるとは限らないことをおぼえておいてください.


⑦ 平行でない3力


結論
平行でない3力がつり合うには,3力の作用線が1点で交わる必要がある.

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上のような場合、2つの抗力と重心の焦点が1つに交わるとき全体はつり合います(動かない).これを考察すれば、2つの抗力の交点から重力方向(真下)に線を引き物体と交わった点が重心になります.なぜなら3つの作用線の交点をOとしたときO点まわりのモーメントを考えてみると,0となりますよね.つまり物体は回転しない.
ってことはこの図の場合,2つの抗力が分かっていて重力の位置(重心)が知りたいとします.このとき重力の位置は,2つの抗力の作用線の交点(点O)まわりのモーメントが0になるところにならなければなりません.よって,Oから真下に下した点が重力のはたらく場所、つまり物体の重心になるとすぐに分かることができます.
また重心の作用線と抗力のうちの1つの作用線が分かれば,もう一方の抗力の作用線が分からなくても3力のつり合いの関係から2つの抗力の交点が分かります.これは共通テストでも出そうですのでこんなテクニックを紹介してみました.たしかセンター試験時代にこんな問題が出た気がします.


⑧ 偶力

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偶力…同じ大きさの2力が物体に平行に逆向きにかかったときの全体の力.

このときモーメントは作用線の距離lで決まります.

特徴-回転運動はあるが、並進運動するはたらきはない.

つまり偶力が強いとめちゃ回転するけど,物体が動いて移動することはないということ.


⑨ 傾きと転倒


傾きや転倒ときたら

1.重力と押す力の合力と抗力が作用線上にあれば傾かない.
2.抗力は合力が大きくなるにつれて角に移動する.
3.倒れはじめは抗力が角にきたとき.でも最大摩擦力が弱いと抗力が
角にくる前に物体は滑り始める.

以上のことが分かれば大丈夫です.

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これでモーメントの導入はすべて完了です.あとは問題を通して演習していってください.この講に関して何か質問があれば言ってください.より詳しくわかりやすくなるように訂正致します.

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