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生まれ変わったらよだかになりたい。

もし生まれ変われるなら、世界中の誰かや何かの苦しみの上に立って生きたくありません。
というまさに偽善者のような独善的な感情があります。
究極のことを言うならヴィーガンになりたいし、禁欲的な生活をしたいのですが、それはもう無理な話です。
なぜなら私は肉の味を知ってしまったからで、肉の味を知らない私に戻れないからです。なんなら、他の人よりも命を奪って肉を食らうことに対しての執着が強いと思います。
釣りが好きで活きた魚を平気で締めて捌くし、もし狩猟免許と銃を持ってたら色んな肉を食えるなあ、家にガンロッカーを設置できたらなあ、なんて考えるくらい魚鳥の味が好きです。そのくせに何を言っているんだ、という話なのですが、これはもう肉の味を知ってしまったのでどうしようもありません。今後も何かから奪い続けて生きるしかありません。
これは知恵の悲しみ、というものかもしれません。
性についてもおんなじで、童貞のまま生涯を閉じることができればよかったのにと思いますが今更そんなわけにもいきません。
(性的に何かを無理矢理傷つけてしまったことは当然ありませんが、ただ懇ろになった人を後々傷つけてしまったかもしれないという過剰な自意識もあり、また自身も非常に繊細な男女の仲において傷つけられたと思うことはあります)
何かを知る前に戻れるなら戻りたい、生まれ変わりたいと思います。
だから、本当にえらいのは、何も知らずに若い時分に神父になって禁欲生活を送る人よりも、元はヤクザ者で神父になった人だと思います。それはきっと大変な葛藤の中で生きなければならないからです。

具体的にいうなら宮澤賢治の『よだかの星』に出てくるよだかのような存在になりたいです。
というより、『よだかの星』のよだかは賢治そのものだと思うので賢治になりたい。
『雨ニモマケズ』に出てくるような食生活を送って人生を過ごしたい。
賢治の逸話で、性欲を解消する手段としてひたすら森の中を散歩するという話があるのですが、できることならそうして生きたいと思うのです。

そんなことを考えていると、自分の好きな漫画のキャラクターもそのようなキャラクターが多いと気づきました。
今まで読んだ漫画の中で最も好きなキャラクターは『BEASTARS』という漫画のレゴシというキャラクターです。
この漫画は、肉食動物と草食動物が同じ文明社会の中で生活している、ディズニーの『ズートピア』に似た世界観の作品ですが、主人公のレゴシはとにかくひたすら優しいオオカミで、作者の板垣巴留先生が意識されているかはわかりませんが、おそらく『よだかの星』のよだか、あるいは賢治のようなキャラクターとして描かれています。
レゴシはオオカミですが、できればこんな人間に生まれ変わりたい。

次いで藤田和日郎先生の『月光条例』の主人公の月光という人物も好きです。
『月光条例』は藤田先生の『うしおととら』『からくりサーカス』に続く週刊連載の漫画です。この主人公の月光は、まさに賢治そのもののような人物で(作中にほんとに登場する賢治の弟子)、彼を好きになるのは、『うしとら』のうしおや『からくり』のマサルのようなただただひたすらに熱い良い男だからはなく、少し悟った表情も見せて尚ヒューマニズムを感じさせる人物だからです。

レゴシや月光になりたいという、おそらく『注文の多い料理店』の猟師のような生涯を送るであろう人間による生まれ変わりの願望です。

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