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無国のまり子(short short)

「いよいよ明日から、我が国も、個人の独立した個人政府となる訳でしてーー」
朝のニュースバラエティ番組ではしきりにコメンテーターが解説している。
どこのチャンネルもその話題一色である。
まり子はトーストをかじりながらぼんやりとテレビを見ていた。
「急がないと学校に遅れるよ」。お母さんがまり子を促す。
お父さんはコーヒーを飲み、新聞を読んでいる。
お兄ちゃんは、昨日も部屋から出なかったようだ。
明日からこの国も、国籍がなくなる、国境もなくなる。一足早く独立を宣言した他の国では、大移動が始まっている。
自国の首相や政治家たちはどこか遠くへ移動(逃亡?)するようだ。
明日からはある意味自由である意味自己責任の時代に移行する。
15歳のまり子には、それがどれほどのものかはあまりわからないが、
学校の授業では政府についての授業が行われ、“あなたのじぶん政府計画書”を作らされた。
じぶん政府の方針、予算管理など、おおよそ100年計画を作った。
現政府は、家族の計画書類の提出を役所に促している。強制ではないが。まり子一家も先月には提出を済ませた。
主権はお父さんにある。王様はお父さんだ。
いまと何も変わらないじゃん、と、まり子は思った。
ある日、クラスメイトのシオンが言った。
「個人政府になったら、学校をやめるんだ。学校が嫌いな訳じゃないんだけど、同じ制服を毎日着ることとか、そもそも私、ズボン派だし。出席番号が男子からとか、細かいことがいちいちストレスなのよね。
お母さんに話したら、じゃあ、家で勉強すればいいじゃないって。
で、シオン政府では、学校に行かない自由を掲げることにしたのよ」。
「へえ、そんなことできるんだ」、まり子はびっくりした。
「当たり前じゃん。じぶんの政府だもん。なんでも自分で決めていいんだよ」。
それからまり子は、ずっと考えてた。
まり子政府はどんな自由を掲げようか。
学校へ行かない自由も、いいな。
でもそんなこと、お父さんもお母さんも許してくれないだろうな。
でも待てよ。
それでいいのだ。だって、わたしの政府だもん。わたしが王なのだ。
お兄ちゃんの私立校入学ために諦めた美術学校。
諦めなくてもいいのだ。
学校を早退すること。
早退したっていいのだ。
早退して、ここから遠く離れた場所に行っても、別にいいのだ。
そうだ、私たちは自由に移動が出来るのだ。
そしてまり子は、今日の放課後、本屋さんへ行って、世界地図を買おうと決めた。
在庫があるといいな、まり子はグビッと牛乳を飲み干し、
さて、どうやって本を買うお金をもらおうかと考える。
相変わらず、朝のニュースバラエティ番組は、話題を繰り返している。
The end.

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