石像寺 お百度まいり

 本尊の地蔵菩薩様の拝観を終え、いつものように受付で御朱印をお願いすると、「うちは、御朱印の方には、数え年の数か百回か、どっちか好きな数だけ本堂の周りを廻って貰うことになってます。」と、御住職がゆったりとした口調でおっしゃいました。

 「えー!何で?」

と思いましたが、お百度参りはしたことがないし、これも何かのご縁だと思い直し、やり方を伺うことにしました。

 まず、やっているうちに何度廻ったか分からなくなるので、本堂の横にある箱から長さ30cm位の竹の棒を、廻る数だけ手に取り、次に本堂の前で地蔵菩薩様に手を合わせて拝み、さらに時計回りに本堂を廻り、先程の箱に竹の棒を一本返す。これの繰り返しですと教えて下さいました。

 あまり早く廻ると目が回りそうだったので、ごくゆっくり廻り始めました。

 初めは、「なかなか棒が減らないなぁ」等と思いながら、廻っていました。そのうち、御本尊様に手を合わせる時に、自分の心がそわそわしていることが、気になり出しました。

 いつもは、御本尊様に手を合わせるのは一回だけなので気がつかなかったのですが、地蔵菩薩様の前で何度も手を合わせているうち、自分が、真剣に何かを仏様に聞き届けて頂きたいと思って、手を合わせていないことに、気づいたのです。つまり、仏様の前でしっかりと心が定まっていなかったのです。
 
 そこで、少し立ち止まって自分の心に問うてみました。「何が望みなのか、本当はどう在りたいのか」と。

 そして、少し時間を取って、自分の心からどんな答えが湧き上がって来るのか待ちました。

 仏様に向き合うことは、やはり自分に向き合うことなのだと、この時も改めて思いました。

 自分望みがハッキリしてからまた廻り始めました。

 淡々と本堂の周りを廻っている内に、頭がしーんとしてきました。それは、周囲のものが見えてはいるけど、今はそれをたいへん客観的に見ている感覚と、次々に移ろう自分の心にぴたっと意識が貼り付いている様な不思議な感覚が同時に来たような感じでした。
 しばらくして全ての棒を返し終え、お百度参りを終えました。

 縁台に腰掛け、お寺が準備して下さったお茶を頂きながら、心地良い疲れとともに、久何か心がクリアになった感じがしました。

 初めは、正直、御朱印を頂くのに何十回も廻るのは大変だなぁと思いました。ですが、終わった後は、他のお寺でもここと同じようにお百度参りをしてから、御朱印を頂く様にしても良いのかなぁとすら思いました。

 改めて受付に御朱印を頂きに行くと、「如何でしたか。何か、変わりましたか。」と、御住職に聞かれました。

 私が「心が軽くなった様に思います。」と言うと「そうですか、それは良かった。」と仏様のように笑っておられました。