子どもに教えられたこと

以前私は、身体の不自由な子が通う支援学校で講師をしていました。

講師とは、1年ないしは月単位の契約で働く教員です。

そこで私は重い障害を持つ子の担任をしていました。
 
その子は、いつも特別製の車椅子に乗っていました。視力もなく、話すことも食べることもできませんでした。手で何かを持ったり、歩いたりすることもできず、気管カニューレから呼吸をし、胃に通したチューブから栄養をとっていました。

でも、登校した時「おはよう。」と職員に声をかけられると、とびきりの笑顔を見せてくれるのです。今日も学校に来れたことがとても嬉しいと言わんばかりに。

自分がこの境遇だったら、とても笑顔を見せることはできないなとよく思いました。

その子の家族も学校の教員も、その子の明るい笑顔に勇気づけられ、「今日も頑張ろう。」と思うのでした。

人間は何か偉大なことをするために生まれてくる人もいますが、その子のように一人では何もできなくても、生きていることで十分周囲に貢献し、自分の役割を果たしている子もいるのだということに気付かされました。

その子は、息が苦しくなると、表情で訴えます。そういう時は、吸引器という機械でのどの痰を吸引するのですが、吸引が終わると、その笑顔から「先生、楽になったよ。ありがとう。」と言っているのが分かりました。

3年以上一緒にいると、言葉はなくても表情や僅かな身体の動きで、今何がしたいのか、どう思っているのか、理解することができました。

そんな時、言葉というのは、コミュニケーションのほんの一部に過ぎないと、教えられた気がしました。

支援学校に通う子には言葉のない子もたくさんいます。

でも、その子らは、常に周囲にいる大人にたくさんのことを伝えてくれています。

支援学校で働くことの醍醐味は、自分一人では気付かないことを、子どもたちからたくさん教えてもらえることです。

教師として働き、たくさんのことを教えているはずなのですが、一年を終わって思い返すと、教えたよりもずっと多くのことを教えられていて、どちらが教師だったのか分からないほどです。

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