心を見つめ、穏やかに保つために、エニアグラムが役に立つ。

 エニアグラムをご存知でしょうか?エニアグラムは大変古くからある、人の性格のタイプについての知恵です。

 エニアグラムを簡単に言えば、「人の性格のタイプは、生まれつきその人が囚われている考えが何かによって9個に分けることが出来、その割合はそれぞれ9分の1ずつであり、これはどこの国でも変わらないし、時代によっても変わらないし、男女差などもない。そしてそれは一生涯を通じて変わらない。」というものです。

 エニアグラムという言葉を聞いたことがある人の中には、自分はどのタイプなのかなぁと簡易テストをして、出てきた性格タイプの説明を読んだだけという人が多かったのではないでしょうか?

 でも、エニアグラムには、より有効な使い方があります。今回はその方法を簡単にお伝えできればと思います。

 ところで、修行中のお坊様は、自らの心をまるで深い森の奥にある湖の様に静かな状態に保つことを、目指しています。(或いはもっと先の何も無い状態を目指している僧もいると思います。)

 そこまで極端ではなくても、世間一般の方の中にも、何とか心を落ち着けて、穏やかに過ごしたいと思っている方は多いのではないでしょうか。

 その為には、まず、自分の内側に意識を向け、自分はどのような人間なのかを知る必要があります。

 何故なら、人間は日頃、自分では気付かないところでいろいろな思い込みや、観念に縛られていますが、その事実を一度でも自分の力で客観視できると、それ以降思い込みや観念に縛られないという、不思議な機能が人間には備わっているからです。

 どうしてか分からないが、ついつい毎回同じ行動をとってしまうことに疑問を持ったり、自分が無意識の領域から操られているように感じてたりした経験はないでしょうか? そういった経験のある方が、何かの折に、それら原因が、自分の中のある思い込みのせいだと気づき「そうだったのか!」と肚の底からドスンと解ることがあります。すると、それ以降はもはやその思い込みから自由になるのです。

 坐禅や瞑想という手段を使っても良いのですが、ただ一つ問題なのは、人によっては効果が現れるのに時間がかかり過ぎるということです。

 今まで何も瞑想の経験が無い人が、自分の内面に目を向け、自分を知ろうとすることは、広い砂浜で落としたコンタクトレンズを探すようなもので、初めはどこを探して良いのやら分かりません。闇雲に目をつむり、じっと坐っていても、次から次に湧き上がって来る思考に入り込むだけで時間が過ぎて行く事が多いと思います。

 そんな時にエニアグラムは役に立ちます。

9つの性格のタイプにはそれぞれ中心となる思考の囚われがあります。そして、そこから導かれた性格のタイプには、特有の行動や思考の癖があるのです。それを仮の自分の性格として、意識を内側へ向けて行くときの手がかりにするのです。

 具体的には、インターネット上で公開されているエニアグラムの性格診断テストで、自分のタイプを特定し、そのタイプの特徴の部分を見ます。それを自分の仮の性格と想定し、そのことを頭の隅に置き、時々思い出しながら暮らしていると、ある時ふと、いつも自分がとっていた行動や、考え方の原因が、その性格タイプに固有な囚われにあることに気がつきます。するとその囚われから派生した考えは徐々に消えていき、自分をコントロールする力を失うのです。

 このように初めから坐禅をしていたのではなかなか見つからない自分を知るためのヒントを、エニアグラムは与えてくれます。 

 砂浜に落したコンタクトレンズでも、この中に有ると、狭い範囲を特定してもらえば、探しやすくなるのと同じような感じです。

 自分の行動を陰から操っていた者の正体が分かると、次に同じ行動をとりかけた時、「ちょっと待てよ」と立ち止まることが出来るようになってきます。そして今までなら無意識にしていたことを意識的にする事もできるようになります。また、今までとは別の選択をする事もできるようになります。言い換えれば無意識の領域が減っていくのです。

 私の場合、最初「ああ、こう考えてしまうのも囚われのせいだ」と気づくことが繰り返されるにつれ、何かにせきたてられるように短い時間にたくさんの用事を詰め込んでいたのが、無くなりました。

 また、エニアグラムの理解が進み、周囲の人たちの性格のタイプを、表面に現れた言動からある程度推察出来るようになると、以前よりずっと怒りにくくなりました。「この人のこの行動も、あの性格タイプの囚われから来ている。恐らく本人も苦しんでいる。」と思えるとあまり腹が立たないのです。

最後に

 冒頭で性格タイプは9つであると言いましたが、勿論、人間はそれほど単純ではありません。同じ性格タイプに属する人でも、全く異なる印象の人がいます。それは、1つの性格タイプの中にも崇高な意識に目覚めたレベルから、性格タイプの中に埋没して自己破壊を起こすレベルまであるからです。

 また、主になる性格タイプは9つですが、誰しもその隣り合う性格タイプをサブタイプとして何割か副次的に持っているので、正確に言えば、全ての人を単純に9つに分けることはできません。

 ですが、専門的なエニアグラムの書籍には、この副次的な性格タイプをも含めた全ての性格タイプの説明がなされています。

 アメリカでは大学でエニアグラムの研究をしているところも有りますし、たいへん詳しく論じられた専門の書籍も有ります。ご興味のある方は下記の書籍をお読み頂ければと思います。

「性格のタイプ 自己発見のためのエニアグラム」ドン・リチャード・リソ、ラス・ハドソン著 橋村令助訳 春秋社
(残念ながら品切れ中です。古書価が高額なので、図書館での閲覧をお勧めします。)

 この記事はあくまでも自己を見つめる入口において、エニアグラムが役に立つことを紹介したものです。

 本格的に坐禅や瞑想に進まれる方は、どうぞ熟練された師について学ばれることをお勧めします。独学でされた場合、人によっては、坐禅や瞑想が有害であることもあります。ご注意下さい。