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【F1海外記事翻訳】眠れぬ夜からF1の覚醒へ――角田の贖罪【the-race.com_2023/5/21】

眠れぬ夜からF1の覚醒へ――角田の贖罪【the-race.com_2023/5/21】
the-race.comにF1角田裕毅選手関連の記事が公開されておりましたので、翻訳し紹介します。
翻訳は筆者の意訳も含まれており、原文の意図を逸脱した文章である可能性もあり、十分にご留意のうえあくまでもご参照程度にご覧ください。
また、基本的には図や写真、元記事に貼られているリンクについては転載しておりませんことをご了承ください。

参照元

May 21 2023
By Scott Mitchell-Malm

角田裕毅は今週、エミリア・ロマーニャ(イタリア)で人々に感銘を与えているが、それは決して誰もが予想し、望んでいたような出来事ではない。

F1のイモラでのレースが中止となったあと、このアルファタウリのドライバーはチームの故郷であるファエンツァで救援活動を行うため、この地に滞在している。今年に入ってからトラック内での活躍が目覚ましいドライバーの、トラック外での活躍が我々の脳裏に焼き付いている。

もしエミリア・ロマーニャGPが開催されていたら、角田はアルファタウリにその価値を示す機会となっていたことだろう。彼の5レースで2ポイントという数字は、この若き日本人ドライバーの活躍を正当に評したものとは言えないのである。

前戦のマイアミで、せいぜいスクラップの中で生き残るのが精いっぱいなマシンに乗って今季3度目の11位フィニッシュを成し遂げるという、感慨深く、感情を突き動かされるような姿が伝えられたが、その時の角田は「今年は精神的に強くなった」と語り、その効果を感じているようだ。

「レースに対する考え方が少し変わりました」と彼は言う。「さらにレースに気持ちを向かわせられるようになりました。以前のレーシングキャリアの中で感じられていたよりもずっと専念できている、あるいは楽しめています」

「2年前までは、今ほど実感がなかったのですが、僕にとってレースが、F1が、どれほどの意味があるのかがわかるようになってきました」

「これまでも間違いなく集中はしていましたが、振り返ってみると、毎レース毎レースで持てる限りのパフォーマンスを、強さを、結果を出し切れていなかったような気がしています」

これはF1ドライバーとしては意外な告白であり、角田がレースに対してあまり熱心でなかったと解釈されるかもしれない。

特に、ジム通いが嫌いで、F1の難しさを過小評価していたというドライバーならばなおさらだろう。

しかし、この言葉が角田の本質を言い表したものでは決してないだろう。むしろ、2022年に非常に困難な時期を経験したことが、彼に具体的な何かを気づかせていると言えるのではないだろうか。

昨年について特筆すべき点は、角田の2023年のシートが確定するまでのプロセスが長引いてしまったことだ。特に、チームメイトのピエール・ガスリーのシートが6月上旬に正式発表されて確定していたのだから、その影響はなおさらだろう(ガスリーは結局チームを離れてしまったが)。

「チームも契約内容を発表しないし、自分でも何が起こっているのかわからないし、文字通りコントロールできない状態でした」と角田は言う。

「本当に精神的にきつかった。そのため、夜はほとんど眠れませんでした」

「そのストレスや疲れはレースに悪影響しかありませんでした。(今は)そんな心配はありませんが」

ちなみに角田は昨年、レッドブルとホンダに関連した複雑な事情があることを示唆していたが、正確なことは今もまだわかっていない。

角田のシートはホンダの資金で賄われているため、2023年のポジションについては単に発表の時期が遅れてしまっただけのことなのか、あるいはレッドブルとホンダのエンジン供給契約を2025年末まで延長する交渉の一環であったとも考えられる。

いずれにせよ、角田のポジションは無条件で保証されるようなものではなかったということだろう。彼は2021年のルーキーイヤーの低迷から抜け出したにもかかわらず、その後も思うようなパフォーマンスを発揮できていなかったのだ。

不確実な時期がが長引けば長引くほど、良いパフォーマンスを維持するのは難しくなる。悪循環というやつだ。そして、角田はこの一連の騒動で、自分の立場がいかに弱いか、その立場をどれほど失いたくないか、そして何よりも、どのような事態になっても「もっとこうすればよかった」と振り返らないようにしたい、と思うようになったということだ。

「自分は今年で3年目ですが、もし昨年と同じようなことを続けていては(シートを失う可能性がある)。特にシーズン前半は、自分がやりたい、やるべき、できると思うようなパフォーマンスができていなければなりません」彼は言った。

「去年はどのレースも、本当はもっとできるはずだ、という気持ちで臨んでいました。そういうことを続けていたら、特に3年目は何が起こるかわからないし、シートを失ってしまうことになりかねません」

「だから、自分にとってF1が、モータースポーツがどれほどの意味を持つのかを、改めて考えることができたんです。そして、何かが変わりました。やはり僕はレースを楽しみたいし、そこで自分のパフォーマンスをフルに発揮したいんです」

「それで負けたとしても、少なくとも毎戦自分の力を出し切れるようになったのであれば、次につながります」

「いくつかのドキュメンタリーを見ましたが、F1でフルパフォーマンスを発揮できず、そこにとどまることができなかった、という後悔だらけの男にはなりたくないと感じたんです」

「そのような考え方の切り替えの多くは、私を強くしてくれますし、いまこそプロフェッショナルとしての自分へと本当に変わっていく時なのだと気づかせてくれます」

「できるだけリラックスしていたいんです。一番大切なことは楽しむことで、どのレースでも自分のフルパフォーマンスを、努力を惜しまずに臨んでいきたいんです」

昨年は、彼の将来が決まってからというもの、明らかに調子が上がってきていた。ホームレースである日本ではガスリーを上回る良い仕事をし、アメリカでは10位となってようやく長かったノーポイントの期間に終止符を打った。彼は昨年の最後の5レースで、予選で3勝2敗、決勝で3勝1敗とガスリーを上回ったのである。

これは、ガスリーがアルピーヌへの移籍を決めたことで調子を落としたからだ、と考える向きもあるようだ(角田の進退が決まったのと同じ時期である)が、それはあまりに安直である。なぜなら、角田は今シーズンも好調を維持しており、これは彼の真の成長であると捉えるべきだからだ。

フォーミュラEの世界チャンピオンであり、フォーミュラ2のタイトルも獲得しているルーキーのデ・フリースは、角田にライバルとして簡単に追いつく、あるいは上回る活躍を見せると考えられていたが、いまではほとんどの場面で角田に完敗している。

今年のはじめは角田の肩に多くのプレッシャーがのしかかっていたが、彼がスタートダッシュを決めたことで、今ではその(将来が問われるという)プレッシャーは角田ではなくデ・フリースに移っていったのだった。

明らかに角田は、今年は絶対に失敗できないという重要性について、冬のうちから理解していたはずである。しかし、彼の話を聞いていると、ストレスになっていたのは必ずしも最終的な目標――つまりシートを守ること――ではなく、彼のドライビングにあったということは非常に興味深い。あくまでも根底にあるのはベストを尽くしたい(か、もしくは"努力を惜しまないこと"も加えておく)という思いなのである。

「いくつかのレースでは(全力を尽くした)」彼は去年を振り返って言った。「けど、思い返してみると、特にチームが僕の契約を発表しなかった時期、つまりアゼルバイジャンから日本までの間は、かなり長かったように感じられました」

「他のことにたくさん気を取られてしまったんです。その瞬間、F1を楽しむことを忘れてしまっていました」

「チームボスのために、あるいは契約を得るために、ただ運転しているような感じだったんです」

「シーズン前半、いい結果を出していた頃を振り返ってみると、実は楽しんでいたことに気づきました」

「本当は、これが一番大事なことなんだと思うんです」

それは、今年もはっきりと受け継がれている。今季の角田のドライビングで際立っているのは、バトルにおけるマシンのポジショニングと状況に応じた機転の利かせ方である。

マイアミでもそれはよく表れていた。チームにとってトリッキーな週末の中、角田は予選に失敗したあと、レースのターン1でデ・フリースが犯したミスに巻き込まれるのを巧みに避けると、その周のうちにランス・ストロールと周冠宇に2つの素晴らしいアグレッシブな追い抜きを見せたのである。

ストロールの動きは徐々に段階を上げていくしかなかったようだが、そこを突いてターン9と10の間で最初に並びかけたのである(とはいえ角田は、アストンマーティンと壁の間に挟まれるリスクを負わずに煙に巻くような感じで、抜け目なく位置を上げていったように見えた)。そしてターン11でアウト側に回り込み、最後はサイド・バイ・サイドになったターン14の左コーナーで前に出たのである。

角田は周冠宇も同じ動きを成功させてかわしたものの、アルファロメオのドライバーはターン16でインを突いて反撃してきた。しかし角田は最後のストレートをうまく走り、周のディフェンスからアウトに展開し、遅めのブレーキングで順位を上げた。

このレースで角田は、ハードタイヤでの長い第1スティントでさらに2台をオーバーカットし、フレッシュなタイヤに履き替えると終わりまでにもう2台をパスした。彼の全力を尽くした成果としては、今季3度目のポイントを獲得するところが妥当だったかも知れないが、またももうひとつの11位フィニッシュという勲章を得たのみだった。

今回のドライブに足りないものがあったということかも知れないが、しかし、予選で9番めに遅いマシンに乗った角田が、これ以上の結果を残せたとは到底思えない。

今年の彼に精神的な余裕が生まれているのは、経験豊富な2人のドライバーの間に揉まれた中で事実上のチームリーダーとなったからなのか、チームが期待されていながらあまりにも不甲斐ない状況に陥っているからなのか、あるいはそうした要素が複合的に作用しているからなのか、とにかく角田は各グランプリでマシンの力を最大限に発揮しているように見える。

事実、グリッド後方から真っ向勝負でストロールを倒したのはその一例で、アストンマーティンはまったく言うまでもなく格上のマシンだが、マイアミで57周を走った角田は、劣勢だったマシンからより多くのものを引き出していた。

たとえ、週末に他の部分で若干の失敗があったとしても(メルボルンのフリー走行で新型フロアを壊してしまったり、マイアミの予選で負けてしまったりなど)、今の彼は闘志あふれる姿勢とスマートなレース運びで状況を打開しているのである。

今シーズン、角田が望むのは、主力のガスリーをアルピーヌに奪われたものの、マシンの実力を発揮できるドライバーがいるのだとチームに確信させることである。

「私の3年目シーズンであり、ピエールを失ってしまったということで、彼らは信頼できる人が欲しいはずです」と角田は言う。

「特に、現状ではマシンの性能面で苦労していますので」

「"ユウキにどんなマシンを与えても、少なくとも彼は性能を100%引き出してくれる "と(彼らが)わかってくれるように、できるだけのびのびと仕事ができるようになりたいんです」

「そのように感じていたいんです。チームには、ドライバーのパフォーマンスについて心配させたくありません。ピエールがいたころは、その必要はありませんでした」

「もしピエールが2021年の私と同じように苦労していたら、チームはもっと悪いムード、ネガティブなエネルギーに包まれていたと思います」

「チームの中で、そういう存在になりたいと思っています。ピエールが持っていたものに近づいたことで、よりリーダーシップを感じるようになりました。よし、私がそれにならないと、と」

今年のチームにガスリーがいたとして、やる気に溢れる彼がどんな活躍をして見せただろうと考えてしまうことはあるが、しかしもしその結果としてまた角田を平凡に見せてしまうとすれば、それはデ・フリースがドライバーとしてまったくダメだということになってしまうが、それは全く違うだろう。

サンプル数が少ないとはいえ、5回のレースウィークエンドを終えた時点で、角田は非常に競争の激しい中盤戦において、信頼できる、成果の持ち帰ることのできるドライバーとなっている。契約上の問題が解決し、終盤に上昇気流に乗った昨年から、明らかにステップアップしているのだ。

彼は、求められることをすべてやっている。これが維持されていれば、レッドブルは、昨年角田をあれほど苦しめたキャリアの不安を繰り返させる理由はないはずだ。

「大きな影響があったとは言えません。毎日が小さなことの繰り返しでした」と彼は言う。「考えなければならないこともあれば、考えたくないこともあります」

「契約のためにドライブしているのではなく、自分のパフォーマンスを示すため、自分がベストであることを示すためにドライブしているんです」

「僕は今でも自分がベストの一人だと信じているし、リザルトやドライブでそれを証明したいんです」

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