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ぶつかり男とマイペース女

昨日、初めてぶつかり男というものに遭遇しました。
まーじで面白かったのでシェアします。

近所の図書館に本を返そうと、たった一冊の本の返却期限のためにだ。本来は電車に乗ってもいいぐらいの距離をケチケチと歩いていた。

図書館まであと3分ぐらいのところにまっすぐなベンチも備わった大通りがある。月曜の午後3時、大通りのベンチではお年寄りたちが談笑している。

これは、その大通りに沿った車道から始まる話。

車道の白線の内側から、歩行者専用の大通りへ渡ろうとしていた。右見て、わぁ!!おじいさんの乗った自転車が目の前を通過した。

「「「おい、邪魔だなぁ!!!」」」
ド派手に怒らせてしまったようだ。
「すみません!」
わたしの大きな声でとりあえず謝罪した。
大通りのベンチで談笑するお年寄りが静かになった。
「なんの騒ぎ?」「犬の鳴き声かと思った。」
実態を小声で確認しようとするマダムたちの声がわたしにも聞こえる。

自転車を避ける反射神経は悪いが、「すみません!」ととりあえず謝る反射神経だけは自信がある。10年以上前の話だ。自転車でするどい坂を下っていたら、ブレーキをかけるのが遅すぎてその先の電柱にぶつかりそうになったこともある。わたしはあれ以来自転車に乗らないし、運転免許もとっていない。

2022年4月からのほぼニート生活でさらに反射神経が鈍ってんだろう。はいはいすみませんね。

大通りを進もうとすると、さっきのおじさんが待ち伏せしていた。自転車を車道に置いて、「許せねぇ。許せねぇ。」と呟いている。しかしおじさんはフラフラするのが好きなのか、大通りの中心に仁王立ちなんてしない。大通りの左右を往復するように動くのだ。「なんだ、このノロマなリズムゲーは。」サッとおじさんがいない空間を通り抜けた。あいにく早歩きは得意なんで。

「許せねぇ。許せねぇ。」おじさんはわたしのいない方へ呟いていた。呟いていたのかもしれないが、耳打ちするのがセオリーってもんじゃないですか?もしかして、自転車にぶつかりそうな歩き方をしているわたしを許せねぇではなく、「許せねぇ。許せねぇ。」と言いたいだけのおじさんなんですかね。じゃ、目の前の図書館に行ってきます。横断歩道渡るか。

ちょうど青信号だったから、得意の早歩きで渡りきった。あのおじさんは追いかけてはこない。いつも通り図書館に入館した。館内には警備員もいる。ここまで追いはしないだろう。

中学生のとき、同級生にストーカーされていたことがある。そいつを撒くために、まいにちまいにち違う友達と帰った。A方面の友達と帰るときの4ルート、B方面の友達と帰るときの3ルート、C方面の友達と帰るときの6ルートをローテンションしていた。あのころと比べればこんなのかんたんそうじゃないか。

たった一冊の本を返したあと、どう帰るか作戦を立てた。最短距離で帰ろうとすると、あの大通りをまた通らなければならない。あのおじさんは暇だろうからまだいるかもしれない。そういや、今日は弟と夕飯にロールキャベツを作る約束があった。無事に帰ってロールキャベツを作ろう。

その図書館はとても大きく、出入り口がとても多かった。館内の地図をよく読むと、あきらかな裏口があった。図書館の付属店舗に訪れる用の裏口だ。この裏口を使えば、図書館の正面入り口を使わずに図書館から抜け出せる。それからは住宅街の小道を歩けば、あの大通りを通らないで家に帰れる。

じゃあ行くか。中途半端なハーフアップをリクルートスーツに似合うような一本結びにした。着ていた黒いコートは脱いでピンクのセーターで歩き回ることにした。

結局あのおじさんに帰りは遭遇しなかった。それでいい。行きはリズムゲー、帰りはパズルゲー。あのおじさんはバグったNPC。夕飯のロールキャベツは弟だけで作れてました。もっとゆっくり帰ってもよかったな。

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