セマンティックタイムp.003

 ゴルフのスイングを練習する中高年男性らを横目に見ながら衣替えに失敗した姿で脇汗をじっとりと秘めている午前9時。
なま暑い陽射しの下で河川堤防を歩いていると、大雨で氾濫し大うねりしている川から突出した構造物で羽を休める大きな白い鳥になった気分がする。
これは、おびただしい数の車の走行音がかすかに聞こえる高架下であてもなく時間を消費するために歩いているとある中年女の心情だ。
何故こんなところを歩いているのか問われたりしたあかつきには、発狂して頭から謎の液体を噴霧してしまうかもしれないので注意してほしい旨を顔面と背中に貼り付けているのは言うまでもない。

 すべての人に平等に与えられた時間、それをどのように使うかは自分で決めなければならないのに、いまだ決められずにこんなところをうろついて、とりあえず家の内外からの視線から逃れたかっただけなのが、予定調和を狂わせる異物になって他エリアの日常というキャンバスに混入してしまったのは謝りたい。
毎日通って異物でなくなればいいのだけれど、そんな根性は持ち合わせていません。モチベーションがありません。
まあでもしかし、人工とはいえ視覚情報の大部分を草木の緑や川の流れが占めるというのは刺激が少なくて素晴らしいことだ。
人の言葉が聞こえてこないということが、今の私にとっては幸せなことなんだと思う。


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