セマンティックタイムp.005

 くだんの彼女が推している、羊羹のように細長く蛍光黄緑で毒々しいゼリーが生鮮食品コーナーの一角を占めている。
白いトレーの上に同量の黄緑ゼリーがパックされ陳列されたさまは異様な光景なのだが、これが近いうちに食糧危機を迎えるであろう我々の救世主になるかもしれないそうだ。
こいつの中には地球上の生き物が生きていくために必要な栄養素がすべて含まれいるらしい。
何より1パック1人1週間分のボリュームで今ならお試し期間中の0円(国策)。

 私の右手にぶら下がる買い物カゴをのぞきみるなり、
「お昼の情報番組見てないの?!」
信じられない!とクソデカボイスで彼女はまくしたてるように我が国の食糧事情がいかに困窮しているかを説いたのだ。
彼女は忙しい。
自分以外のあらゆるものに気を張りめぐらした結果、それらを栗のイガイガのようにまとい、盾にしたり鉾にしたりする。
そういう彼女の一挙手一投足を鬱陶しくも楽しみにしていたりするから私ってやつは。

そんな訳で私も彼女にならってこの黄緑のやつを3柵かごに入れた。
これが1週間分?人間の命をつなぐことができるのか?
たかだか200gほどの内容物だけれど…。

レジ横ポスターの説明によれば、
この黄緑ゼリーは各家庭に支給されたマシンでなんかかんかすることによりイマジナリーフードなるものを完成させることができるとのこと。
私は支給されて間もなく玄関のオブジェになってしまった段ボール箱を
うっすら思い出し、薄気味悪くなった。
それは大物家電を移動させる時の緊張感と酷似していた。

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