セマンティックタイムp.001

 
ーーーいつもあくびとため息ばかりで不機嫌でひどく娘を嫌っていたあなたにこの物語を投げつけてやる

 大好きな人が恒久的にオナニーのお供になってしまってから四半世紀が過ぎた頃、社会においては一介の消費者であり、何者でも鳴り物でもない"私"が布団の上で始まると、窓の外の景色がうんと遠くにあるかのように思えることが時たまある。シュルレアリスムの絵画を見ているかのような、狐につままれたような、そんな気分。

 静かな灰色の空間に身を委ね、白い天井を見つめて待っているとちゃんと来るものの存在を予感する。そんな状態に嫌気がさして、まだ誰も覚醒していないのを良いことにマスターベーションを始める。快感と罪悪感と賢者感が同居する…性的役割を失った身体は亡霊となって空気中を漂い、行く当てもなく時間を食いつぶす。
そして時は来た。いつも忘れずに作動するアラームの音には手と足がついていて、私の身体中にまとわりついて離れない。とどのつまり寝床とはそういう代物なのだ。

 音とともに身体を持ち上げ、新雪に足跡をつけるがごとく寝床から這い出し用を足し、窓を開けて外界に迎合するための準備が始まる。

 静かではあるけど今確実に私の同心円状でエントロピーが増大しているよね?と言ってみては腑に落ちないそんな朝。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?