見出し画像

未来に繋ぐための対話/演劇と『法律』vol.2

演劇と社会の繋がりを考える対談連載です。板垣恭一(賛同人代表)が、弁護士・藤田香織(当基金の法務担当)に、演劇と『法律』についていろいろ聞きました。これからは、差別問題についても時間をかけて勉強を進めていくつもりです。
文責:板垣恭一/藤田香織

   <<第1回     連載の目次     第3回>>    

対談連載第2回 「性差別」とは?


弁護士・藤田さんとの対談連載2回目。炎上問題の近くには「差別」問題が。今回は「性差別」を中心に話を聞きました。

今回のポイント
▲「性差別」は「役割の決めつけ」で起きる
▲「それぞれの違いを描く」ことが「演劇の使命」のひとつ



板垣=さて2回目です。「炎上」現象を考えた時「差別」問題は外せないなと思い。前回の終わりに出た「性差別」を今回の切り口にすることにしました。早速ですが藤田さん「性差別」って何でしょう?

藤田=性差別! これもわかりにくい言葉ですよね。様々な定義がありますが、たとえばウィキペディアでは「平等に反した、性別に基づく社会的な差別のこと。女性差別や男性差別など。また性的少数者に対する不利益も性差別の一つである」と書いてあります。

板垣=難しい! もう少し簡単にお願いします!

藤田=簡単に言うと「性別による差別」ですが、これって多分、文章で説明するとわかりにくくなっちゃうので、たとえばの話をしましょう。

板垣=ぜひ!

藤田=たとえば、女性だから昇進できない。女性だから総合職になれない。これらは女性という性別を理由とした差別です。

板垣=それは歴然とした差別ですね。

藤田=一見女性を大事にしているようでも差別になることもあります。たとえば、「女性は心配りが細やかだから、お茶を入れてもらおう」「女性に重い責任を負わせたらかわいそうだから、女性の管理職はつくらない」これも、女性という性別で、出来ることを決めつけて差別しているということになります。

板垣=本人はひょっとして善意とさえ思っているかもしれない。

藤田=そうなんです。だからこそ、それが差別に当たることを理解してもらいにくいんですよね。もちろん、男性が差別されることもあります。男性は華やかさに欠けるから受付はできないと言うのも差別ですね。 ゲイだからスポーツジムへの入会を拒むというのももちろん差別です。

板垣=女性差別の話から聞きましょう。女性だから昇進できない、総合職になれないというのは、どういう心理が働いてそうなると思いますか?

藤田=女性は男性より劣るという認識があるのかもしれません。あるいは、女性は子育てをするからいつか会社を辞めてしまうかもしれないという決めつけですよね。

板垣=ああ、そういう考えの人いますね。

藤田=このような、社会的な役割の決めつけ、つまり、女はこうである、男はこうであるという認識が差別を生むと言われています。内閣府の男女共同参画局の調査によれば、性差別の一番の原因は「男女の役割分担についての社会通念・慣習・しきたりなどが根強いから」ということでした。

板垣=難しい問題ですね。慣習や通念が元になって差別があると。その通念をひっくり返すにはどうすれば良いのでしょう。

藤田=結局、前回の話に戻るのですが、相手を傷つけないってことなんだと思います。

板垣=なるほど。

藤田=通念って結局自分の思い込みのことだと思います。自分の思い込みで相手をくくらないというのが性差別や、そのほかの差別を考えるに当たって大事なことだと思います。

板垣=「通念とは思い込み」名言ですね! 

藤田=よくまわりを見てみると、今って、みんな、自分で自分の役割を選んで社会に出ていますよね。例えば私は、女性で、仕事を持っていて、子どもはいなくて結婚している。でも、女性で、主婦をしていて子どもを持つという選択をしている人もいるし、男性で仕事を持って独身という人だって、男性で家庭を守って子どもを育てている人もいる。その、全員が受け入れられるべきだと思うんです。

板垣=そうありたいし、あってもらいたいです。

藤田=自分が選び取った社会的な役割について、みんな、それぞれが尊重されるべきだと思っています。そんな社会の中で「女性は家庭で子育てをすべきだ」という前提は、もう取れないし、そういう前提で話すことで、違う選択をした人を傷つけたり、生きにくくしてしまいます。

板垣=ええ。

藤田=さらに、もう一歩進むと、性別だってそうなんです。恋愛対象も。自分は、男の体にうまれて女性という性別を選び取り、恋愛対象は男性で、社会に出て仕事をする。と決めたらそれは、他のだれかを傷つけない限り守られるべきです。その選択を守るというのが「性差別をしない」ということなのだと思います。

板垣=肉体的な性、精神的な性、恋愛対象、社会的役割……「男と女」という分け方が意味をなさなくなって来ている時代ですよね。父は強く、母は優しく、子供は元気で、というのはある時代流行った「物語」に過ぎないのかもしれません。「それこそが良い世界だ」という思い込み。

藤田=まさにそうですね。いまは、自分が物語の中でどういう役割を演じるか、選べる時代です。“Just be who you wanna be”(自分がなりたい人になりなさい)という台詞が、まさに現代の象徴だと思います。

板垣=それ何の台詞ですか?笑

藤田=私が大好きなキンキーブーツの台詞です笑。舞台ファンにとっては、舞台で聞いた台詞がいつだって人生の指標ですから!!!

板垣=おおっ! 僕がミュージカルに詳しくないことがバレてしまう。藤田さんマジで僕の100倍ミュージカルに詳しいと思いますよ。そのあたりの話は次回に譲りますが。

藤田=笑

板垣=ちょっとだけ、真面目な話をします。さっき、たまたま目にした文章があって。「差」と「異」の意味の違いについてなんです。「差」は同じ物差しで測った場合の「優劣」。「異」は単なる「違い」。赤と青に優劣はないですよね? それは「差」じゃなくて「異」だからです。性差もホントは性異だよねって話なんです。

藤田=本当にそうだと思います。そして、その「異」は、人間の人数分用意されているんだと思います。さまざまな違いがあるけれど、優劣はないし、多寡もないんだと思います。でもそれって楽しいことですよね!! さまざま、色とりどりの個性に出会えますから。

板垣=人の数だけ「異」が用意されている……泣ける。それを描いて見せるのが僕らの仕事なんですよ。だから演劇は必要なんです。ということをちゃんと発信して行きたいな。

藤田=ふふふ。ちゃんと受け取ってます。板垣さんのFactory Girlsも、女性だけれど仕事を持つことを選び取った人たちの話でした。女は意見を持つべきではないとか、一介の労働者が権利を主張すべきではないといったさまざまな「決めつけ」に傷付きながらも、彼女たち自身が選び取った場所で生きることをがんばっていました。勇気をもらったんですよ。

板垣=ありがとうございます!

藤田=でも、今の私たちが見ても、あの物語って昔話じゃなかったんです。今も「決めつけ」に押しつぶされそうになることもあります。

板垣=人間て、世界を理解するために、それなりの人生経験が必要じゃないですか。なのにやっと理解できた世界は、他の人から見たら全然違う形をしている、そのことに気づいた時に分かれると思うんですよ。「そんなの知らねえっ」てなるか「見聞を深めよう」ってなるか。僕は後者でありたい。世界のカタチを決めつけず、違いを見つめていたい。そういう人が多くあって欲しいと願っているんです。僕個人は、まだ全然出来てないけど。

藤田=やさしい世界ですよね。見聞を深め、違いを見つめれば、自分とは違っても、理解出来なくても、その人を傷つけない方法が見つかると思うんです。

板垣=ええ。

藤田=逆に炎上との関係では、そのような努力を放棄した「役割の決めつけ」に触れると、やはり傷付きます。傷付いた人は、そのような決めつけをやめさせたいと思います。

板垣=そうか。オンライン説明会での「裏にいるのは全員女性です」というのも「役割の決めつけ」と取られてしまう可能性があるんだ。

藤田=はい。女性が裏で支えるという役割を決めつけていると取られてしまう可能性があります。

板垣=なるほどなー。僕もある発言を役割の決めつけと理解されて、お叱りを受けたことがあります。

藤田=たとえば、「女性のために子育て支援をします」とか「男は黙って働くべき」といった言葉は、まったく相手を傷つけるつもりがなくても、誰かを傷つけているかもしれません。

板垣=「役割の決めつけ」が「性差別」につながるわけですね!

藤田=こうやって考えていくと、炎上を予防しようと思うより、世界中にいる、いろんな考えやいろんな特徴を持った仲間を認識することに意識を向けられれば良いのではないかと思います。そう思った方が楽しそう。せっかくたくさんの人と繋がれる時代になったのだから、繋がった向こう側にいる人のことを想像してみるのはきっと楽しいことです。そのことが結果として炎上を防ぐことになります。

板垣=ありがとうございました。次回は第一回の時に出た「自分の属さない側」に気をつけようの話。「観客と作り手」のギャップについて聞いてみたいと思います。ありがとうございました。

藤田=ありがとうございました!!

(つづきます)

第3回へ

●対談はYouTubeでもみることができます


舞台芸術を未来に繋ぐ基金とは?

この公益基金では、寄付による原資を使い、新型コロナウイルス感染症の拡大防止によって活動停止を余儀なくされた舞台芸術に携わる出演者・クリエーター・スタッフ(個人、団体問わず)に対して今後の活動に必要な資金を助成します。

画像1

寄付受付

賛同申請

お問い合わせ

画像5


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?