令和元年改正会社法と株主総会の事業報告
改正会社法が一昨年に公布され、その施行規則が昨年公布され改正会社法の内容に具体的にどのように対応するべきかようやくクリアになってきました。本年の株主総会に瑕疵なく対応できるように整理中のところ、その内容を記事にすることにいたしました。今回は、事業報告で記載しなければならない事由を扱います。
1 親会社等との関係
株式会社に親会社がある場合でかつ、会社と親会社の間に「重要な財務及び事業の方針に関する契約等」が存在する場合には、その内容の概要を事業報告で記載しなければならなくなりました(改正会社法施行規則120条1項7号)。
これは、上場子会社における少数株主保護の議論を受けて新設されたものになります。「契約等」は当該親会社とその子会社との間で合意されたものを意味しますところ、契約という形態でされたものに限定されませんが、他方で会社が関知しない親会社の方針等までの記載を求めるものではありません(パブコメ回答)。
2 役員に関する事項
(1)役員との補償契約
会社と役員が補償契約を締結しているまたはその予定がある場合に役員選任議案において補償契約の内容の概要が記載事項となりました。事業報告においても補償契約を締結している場合には補償契約の内容について開示しなければならないようになりました(施行規則121条3号の2等)。具体的には下記の内容を記載しなければなりません。
①対象役員の氏名
②当該補償契約の内容の概要
③補償契約に基づき防御費用を補償した場合に、当該役員が職務執行について法令違反したこと
④補償契約に基づき損害賠償金を補償した場合はその旨及び補償した金額
(2)報酬に関する事項
役員報酬について以下の内容も事業報告に記載することになりました。
(ア) 報酬等の種類別の総額
報酬に業績連動報酬や非金銭報酬を含む場合にはそれらの額やそれら以外の報酬の額の記載が求められます。
(イ) 業績連動報酬等に関する事項
業績連動報酬等がある場合には下記の内容の記載が求められます。
①業績連動報酬等の額またはその算定基礎として選定した業績指標の内容および業績指標を選定した理由。
②業績連動報酬等の額またはその算定方法。
③業績連動報酬等の額またはその算定に用いた業績指標に関する実績。
(ウ) 非金銭報酬等に関する事項
役員報酬の中に非金銭報酬等がある場合には、その内容を記載しなければありません。記載の程度としては、役員に対して適切なインセンティブが付与されているか株主が判断するために必要な程度とされています。
(エ) 報酬等についての定款の定めまたは株主総会の決議による定めに関する事項
その定款の定めを設けた日または当該株主総会決議の日、当該定めの内容の概要、当該定めに係る役員の員数を記載しなければなりません。
(オ) 報酬等の決定方針に関する事項
役員の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を定めている場合には、当該方針の決定方法、当該方針の内容の概要、当該事業年度における個人別の報酬が当該方針に沿うと取締役会が判断した理由を記載することになります。
上述の方針以外に各役員の報酬等の額またはその算定方法に係る決定に関する方針を定めている場合には、当該方針の決定方法および当該方針の内容の概要を記載します。
会社で任意に報酬諮問委員会を設けてその意見を得ることとしている場合には、この項目で記載することになります。
(カ) 取締役会の決議による報酬等の決定に委任に関する事項
取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が当該事業年度の取締役の個人別の報酬等の内容の全部または一部を決定したときは、当該委任を受けた者の氏名や地位・担当、委任された権限の内容や委任した理由、権限が適切に行使されるための措置を講じるときはその内容を記載しなければなりません。
3 報酬等として付与された株式や新株予約権等に関する事項
株式報酬制度を導入している場合には、事業年度中に当該株式会社の会社役員に対して会社役員の区分ごとの株式の数と株式を有する者の人数を記載しなければなりません(会社法施行規則122条1項2号)。なお、これについては区分ごとでよく各人の氏名と株式数まで記載する必要はありません。
また、「新株予約権等」に「当該株式会社が最初の役員に対して職務執行の対価として募集新株予約権付回にする払込に充てるための金銭を交付した場合において、当該金銭の払込みと引き換えに当該株式会社の新株予約権を行使した時における当該新株予約権を含む」ことが明記されました(会社法施行規則123条1号)。
4 社外取締役等に関する事項
社外取締役がいる会社は、社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要を事業報告に記載することになりました(会社法施行規則124条4号)。
なお、上場会社等では社外取締役の設置が義務付けられたことから、設置しない場合に置くことができない相当の理由を記載すべきとした規定(旧会社法施行規則124条2項3項)は廃止されました。
5 役員等賠償責任保険に関する事項
会社役員等を被保険者とする役員等賠償責任保険に入っている場合には、①被保険者の範囲②当該役員等賠償責任保険の内容の概要を記載しなければなりません(会社法施行規則119条2号の2、121条の2)。保険内容の概要としては下記のような内容の記載が求められます。
・被保険者が保険料を負担している場合はその割合
・填補対象とされる保険事故の概要
・被保険者である役員等の職務執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じている場合はその内容
なお、事業年度内の保険が対象となりますので、事業年度中に保険内容を変更した場合には、変更後の内容だけ記載すれば足りるものではなく、変更前後の双方について記載する必要があります。
6 最後に
上記で概要をまとめましたが昨年11月に公布されたもので、まだ詳細な解説書はこれからになります。2月後半から公刊予定になっておりますのでこれから詳細をキャッチアップしていく必要あります。今年の株主総会の準備はコロナ対応に加え改正会社法にも対応しなければならないので例年以上に忙しくなりそうですね。頑張りましょう。
【備考】
改正法について電子書籍を書いております。Kindle Unlimitedの会員の方なら無償で読めますのでお目通しいただけると嬉しいです。
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