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【カレー喰いの詩】 逆噴射プラクティス

「いいか、ここにカレーがある。極上の一杯だ」 
 康二はそうテーブルの上を見渡した。
「これな、お前がいつも喰ってるカレーとは違うんだ。特別な時に食うやつでな、スパイスが効いててとびっきりにうまいんだ」
 それを聞いた良太がごくりと喉を鳴らす。
「たっぷりの玉ねぎをまず炒める。じっくりと甘みを引き出してそこにスパイスを加えてさらに炒める。今度は香りを引き出すんだ」
「なあ、康二。香りの次はなにを引き出すんだよ。俺早く食いたいけどこの次も知りてえよ」
「よし、そうこなきゃな。知への渇望もほど良きスパイスとなる、ってか。次はな、こいつを引き出すのさ!」
 康二はカレーの盛られた皿に左手を勢いよく突っ込むと、鰹の一本釣りの如く同級生の明夫がルーの中から引き出された。
「おい!明夫じゃねえか!どうな、どうなってんだよ、これよ、え、ええ、マジで?マジ明夫なの?」
「はっはは、明夫だよ。明夫に決まってんじゃない。お前こいつがテレビに出てるアイドルかなんかに見えるわけ?どう見ても明夫っしょ」
「いや、確かに明夫だけどそんなことじゃねえよ!おかしいだろうよ!なんで、なんで明夫がカレーのルーからでてくんだって!やばいだろ!」
「やばい?確かに明夫はやべえよ。俺は高校を出て仕事についた。お前は?」
「お前はって、俺は大学だよ、今大学三年」
「オーライ、じゃあ明夫は?」
「知らねえって、第一こいつ行方不明だって、ずっと。ニュース出てたって」
「オーライ、聴きたいのはそんなことじゃない。こいつが高校を卒業した後なにしてたかってことよ、俺が聴きたいのは」
「なあ康二、ちょっとやべえだろって」
「ふ…ふじょうなり…」
「あ、明夫!」
「汝…右手で掬えば救われ、左手で救えば不浄を引き出す…」
「明夫!なに言ってんだよ!お前やばいだろって!」
「左手で呼び覚ましたのはお前か」
「キャハ!」
「おい、これ!これカレーじゃねえぞ!やべえって!」
「我が名は






【続く】





今年も逆噴射小説大賞の季節がやってきました。簡単に説明すると、冒頭の800字を書いて、いかにその先を読みたくさせられるか。もうすぐ開始なのでどんどんボツ作品をあげつつ、本戦も楽しんで参りますにゃあ🐈


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