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【プロローグ】 六月柿 2度目の夏

こちらを先に読んでいただけると本連載がより楽しくお読みいただけます。


一話400字以内で進んでいきます。では、魅惑の世界をゆっくりとお楽しみください。



【2021年8月の日】 
六月柿 2度目の夏の第一話



六月柿はいかがですか〜 甘く熟れた六月柿〜 

疫病が流行って早一年半、それは新幹線の利用客数にも影響を与え当然のごとく車内販売もその売上を大きく減らしていたところに緑は一ヶ月だけの契約で戻ってきたのだ。

木の桶に薄く撒かれた氷の照り返す車内照明に心を躍らせた。自分でもおかしいと思う。この状況で私は六月柿を売り切らねばならないのになぜか不安はない。

よく冷えた六月柿〜 

まばらな車内に緑の声が響く。乗客の一人が緑の存在に気づいた。

「あ、テレビでコントやっていた人だ!」

緑にスイッチが入る。

「すいません!トマト3つください!」

「ありがとうございます。トマト3つで600円です」

そう言うと緑は六月柿を客に渡した。

「あれ、六月柿って訂正しないんですか?」

お金を受け取り緑は無言でカートを押す。

「ねえ、ちょっと!つっこんでくださいよ!ねえってば!」


ママ、また暑い夏がやってきました!六月柿のよく熟れた真っ赤な夏が!



【東京駅にて】 
六月柿 2度目の夏の第二話
浩一



「あっつい!あっついがな東京駅!」

首に巻いたタオルから汗が滴り落ちる。

「それにしても久しぶりやなぁこうやって東京から大阪まで行くのも。今日はもう帰るだけやからたまにはこだまでのんびり帰るのもええやろ」

新幹線が到着する。車内清掃や商品の補充のためにあと10分ほどホームで待たねばならない。汗が噴き出る。

「暑すぎてなんか体調悪なるわ。よう冷えたスイカ食いたいなあ」

浩一はそう言って自分の腹をさする。近くで小さな女の子の声が聞こえた。

「ねえママ!こだまの新幹線ってこれ?」

突如肌がザワザワとした。

「誰の腹がこだまスイカやねん!」

子連れの女性が警戒した様子で浩一を見る。ホームには乗車時間の確認の放送が流れて、浩一は全身をおかしな感覚に包まれながら新幹線へ流れ込んだ。


hey Siri!また夏が来た!そしてまた俺は変な世界へ乗り込んだ気がするんだ!わかってる。俺にこれは止めようがないってことだけは。



【シウマイ弁当】 
六月柿 2度目の夏の第三話
SEの男



シウマイ弁当ですが、神奈川県民としましては新幹線への乗車は新横浜駅がジャスティスです。

今回久しぶりに大阪への出張が決まったんですよ。

どうしても現場じゃないとできない作業が派生して発生したので颯爽と車掌も車窓から罵声でお見送りじゃないですか。

当日は移動だけとなるとさすがの私も颯爽と車窓越しに車掌を詐称するしかないじゃないですか。

半休みたいなものなので車掌も産休中に阪急でストロングゼロを決めるしかないじゃないですか。

ということで指定された座席に両手両足はおろか箸まで拘束されながらも滞りなく無事泥酔したわけです。

シウマイ弁当の杏を食べたかどうかを案ずることなくあっという間に記憶を失ったわけです。

おかしいじゃないですか!これだけの速度で走るんですよ!記憶ぐらい置き去りにされてもおかしくないじゃないですか!

まったくもう!

ということで急遽車内販売でお酒を買い足す必要が出てきました。早く来ないかな。








【続く】



本日も【スナック・クリオネ】にお越しいただいき、ありがとうございます。 席料、乾き物、氷、水道水、全て有料でございます(うふふッ) またのご来店、お待ちしております。