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【焼き鳥と猫】 #あなたへの手紙コンテスト

猫と、猫を愛する人々へ



 家に帰るとタマが甘えた声で擦り寄ってきた。台所へ向かい戸棚からカリカリを取り出したものの、それが一食分しか残っていないことに気づいた。ウェットフードもちゅ〜るもない。これでは朝の分がない。うっかりしていた。タマはもうご飯をもらえるものだと思ってお皿の近くでおとなしく座って、時折舌をぺろっとしてはまん丸の目でわたしのことを待っている。そこであることを思い出した。

 先週、電車の連結部の近くに小さなチラシが落ちているのを見つけた。そこにはハチワレ猫の写真が印刷されていて【猫と一緒に焼き鳥パーティー】と書かれていた。焼き鳥。久しく食べていないし家から近いこともあり気になるそのチラシの写真を撮っておいたのだ。

 「行ってみようか」一大決心をしてそこに記載された番号にかけてみる。こうして番号を入力して電話をかけるのも久しぶり。3コール目、「毎度ありがとうございます。焼き鳥ネコ吉でございます」と明るい女性の声が聞こえた。店内の賑わいも聞こえる。「すいません、今から15分後位にお伺いしたいのですが」そう言うと「はい、今ならカウンター席をご用意できますよ。何名様でしょう」「あの、チラシでネコと一緒に焼き鳥が食べれるって見たんです。わたしとネコが1匹です」「チラシ見てくれたんですね。ありがとうございます。猫ちゃんはどんな猫でしょう」「茶トラの女の子でタマといいます」「はい、茶トラのタマちゃん。ではお待ちしております」

 【焼き鳥ネコ吉】のお店が見えた。スライド式の扉を開けると満面の笑みで先ほどの電話の女性らしき人が出迎えてくれた。客の入りは八割位で猫連れの姿も目立つ。カウンターで大将らしき男性が焼き鳥を煙をあげながら軽快に焼いている。

 「あら、この子がタマちゃんね。はじめまして、サチです」女性がそう言うとわたしに抱えられていたタマがピンと前脚を伸ばして「タマですにゃ。初めましてですにゃ」と言った。タマが喋ったのだ。呆気に取られているとサチさんが「ここでは猫ちゃんも人間と同じ言葉を話せるんです」と微笑み席に案内してくれた。お品書きには焼き鳥の名前が並んでいて、その下に猫マークのついたものがあった。おそらく猫用にも焼けるものなのだろう。わたしは梅酒のソーダ割を頼み、タマはちゅ〜るの水割りを頼んだ。飲み物が届く間にわたしはタマを抱えて焼き台の上の焼き鳥を見せた。「タマ、どれ食べたい?」タマは喉を鳴らしながらムネやモモ、軟骨の方に前脚を伸ばした。「わたしあれも食べたいにゃ」後ろのテーブルに並んでいた心にも興味を示したみたいだ。

 タマの焼き鳥はタレも塩もなしで焼かれていく。鶏の脂が滲み出し、ポトリと落ちては炭の上でジュっと音を立てて煙に変わる。脂が一瞬で焦げる香りがたまらない。串が手際よく回されるたびに店内が鶏の肉汁で潤っていくようだ。わたしの焼き鳥は熱々のまま、タマの焼き鳥は熱を少し逃がしてから供された。「ねえ、ママ!これすごくおいしいにゃ!」「本当に美味しいね!来てよかったね!」タマは串から肉を器用に外しては目を細めて食べている。そこで酔いの回った隣の席の男性が突然タマに触った。それに反射的にタマが前脚を棒のようにペシッと振って「触る前に手を拭いてくださいにゃ!ベトベトにゃ!バッチいにゃ!」と言った。ここですかさずサチさんが割って入り「吉田さん、触るときは手を拭いて、声をかけてからですよ」と言い「ごめんなさい。つい可愛くて」そう申し訳なさそうにした。タマは神経質なところがあるけれど言葉にするとなかなかだ。でも人間同士だったら当然だとも思う。確かにタレのついた手で突然触られたくはないな、そんなことを考えていると吉田さんの奢りでちゅ〜る入りネギ類抜きのつくねが届いた。タマがキョロキョロとし「ありがとうございますにゃ」と吉田さんに伝えると一本目を一気に平らげた。わたしはちゅ〜るを一本買い、つくねの上に追いちゅ〜るをして、タマは目を更に細めてそれにがっついた。タマと同じものを食べる。それはなんとも幸せな時間だった。

 レジ前にカリカリやウェットフードも売られていて、買い物にも行かずに済んだ。「楽しかったね。また行こうね」「美味しかったにゃ。また焼き鳥食べたいにゃ」そんなことを話しながらの帰り道、腕の中でタマはうつらうつらし始めて、「でもタマはママのくれるカリカリがやっぱり一番にゃの」その声が小さく消えた。お店の魔法が切れたのだ。

 家に着くなりタマはソファーで寝始めた。背を撫でる。するとタマはゆっくりとお腹を上に向けて満腹の幸せそうな顔のままお口が少し開いててなんとも気持ちがよさそうだ。いっぱい食べて飲んで膨れたお腹。明日は土曜日、沢山遊んで運動しなきゃね。おやすみなさい。タマの前足がペタンと伸びてきた。かわいいタマのかわいいあんよ。







こちらの企画に参加しています。連絡せずに遅刻しましたので賞への選考は辞退します🐈ステキなコンテストに参加できて(遅刻しましたが)嬉しいです🐈









本日も【スナック・クリオネ】にお越しいただいき、ありがとうございます。 席料、乾き物、氷、水道水、全て有料でございます(うふふッ) またのご来店、お待ちしております。