愛した店へ




どこか昭和の匂いがする

そんな路地裏にその店はあった。


ぼんやりと赤提灯が闇夜に浮いている。

外灯も少ない暗い場所。


いつから下げてるのかわからない

暖簾を掻き分けて店の戸を引いた。


コの字型のカウンターの向こうに

いつものおっちゃん。


おう、また来たか。

なんて声をかけられる。


軽く世間話をしながら席に着くと

いつものビールだろ。

にこやかにおっちゃんが言うんだ。


冷えたグラスに、冷えたバドワイザー。

竹輪にきゅうりを刺したお通しを寄越される。


あと、適当に串焼いて。

なんていうと、ちゃんと注文しろなんて怒られた。


いつもの流れ、そこに常連の人も加わってくる。


賑やかで、楽しくて。

この店を僕は愛してた。


でも、終わりは突然にやってくる。

おっちゃんが倒れた報せを聞いたのは

店が開かなくなって三週間後だった。


店はそれから数年後に市の区画整理で

取り壊された。


駐車場になってしまったその場所。

少しだけ立ち止まって、ありがとう。

そう呟いたんだ。


              『愛した店へ』




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