朝陽が照らす街
深夜の東北道を往く。
助手席の彼が目を覚ました。
……………
○ふわぁぁぁ…。
おはようさん、どこまで来たんだ?
おっす、おはよう。
ド深夜だけどな。
んー、とりあえず白河くらいかな。
○じゃあ、あと三時間くらいか。
ああ、そんくらいだな。
○…いつぶりの帰省だ?
そうだなぁ、8年くらいぶりかな。
なかなかタイミングってなかったしな。
○そうかー、じゃあ、俺たちも
8年一緒にいるんだな。
長かったような、短かったような…
色々とあったよな。
○ああ、本当にな。
……………………
しばらくの無言。
別に苦痛じゃない。
彼のなにか言いたい気配を感じつつ
車を飛ばしていく。
………………
○本当に良いのか。
…なんてのはもう、野暮だよな。
俺たちで決めたことだからな。
今さらだろ。
俺はお前と、これからを過ごしたい。
親父はさ、頭の固い人だから。
勘当されるだろうけどな。
○認めてなんてもらえないよな。
わかってはいるけれどさ。
隠しているわけにもいかない。
孫の顔、見せられないの
すげぇ申し訳ないけどな。
うん…。
それでも、これが俺だから。
俺の在り方だから。
…ついてきてくれてありがとな。
○当事者がいかないなんて、ダメだろ。
受け入れられなくても
ちゃんと言葉にして、伝えたいしな。
息子さんをくださいって?
ふふ、どんな顔して驚くかな。
○呑気だな。
まあ、そういうところもいいんだけどよ。
……………………
それからは他愛もないことを喋った。
少しだけだった緊張も
目的地が近づけば少しずつ張り詰めていく。
それでも、俺たちは向かっていった。
……………
○さて、到着か。
悪いな、運転してもらって。
いや、いいよ。
あんまり慣れてないだろ、運転。
事故られたら、そっちの方が大変だ。
○まあ、そりゃあそうか。
にしても、早すぎるな。
こんな時間に行っても迷惑だろ。
ああ、この時間に来たかったんだ。
俺のさ、秘密の場所教えたくてさ。
○なんだそりゃ。
うん、この街が一望できてさ。
早朝の太陽がすごく綺麗に見えるんだ。
○ははは、そりゃあいい。
天気も良いしな。
よし、じゃあ行こうか。
………………
山の方に向かっていく。
早朝の空気は、ピンと張り詰めて
そして、熱をまだ知らない。
すこし、もやがかった道は
今日が快晴になることを知らせていた。
…………………
さぁ、着いたぞ。
○おお、これは…。
すごいな、本当に見渡せる。
だろ?
なにかさ、嫌なことがあるとここまで来て
街を眺めていたんだ。
死にたいことも、嬉しいことも
ここの景色と一緒に、思い出にしたんだ。
○たくさんの思い出があるんだな。
…俺にも見せてくれてありがとう。
ああ、大好きな人とここまで来れて良かった。
○不意打ちだな、ビックリした。
でも、そうか。
ここがお前の原点なんだな。
うん、原点。
しっくりくるな。
…でも、もう見納めだよ。
帰ってくることはないから。
○…そうかもな。
………………
二人で街を眺める。
俺にとっては懐かしくて
彼にとっては新鮮な場所。
少しだけ涙がこぼれた。
きっと、この街には戻れない。
戻る場所を失うから。
でも、それでも隣で真面目な顔して
街を見る彼と一生を過ごしていくのだから。
俺はそれで満足だ。
『朝陽が照らす町』
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